絶句 | |
|
唐・杜甫 |
兩箇黄鸝鳴翠柳,
一行白鷺上青天。
窗含西嶺千秋雪,
門泊東呉萬里船。
******
絶句
兩箇 の黄鸝 翠柳 に鳴き,
一行 の白鷺 青天に上 る。
窗 には含 む西嶺 千秋の雪,
門には泊 す東呉 萬里 の船。
****************
◎ 私感註釈
※杜甫:盛唐の詩人。712年(先天元年)〜770年(大暦五年)。字は子美。居処によって、少陵と号する。工部員外郎という官職から、工部と呼ぶ。晩唐の杜牧に対して、老杜と呼ぶ。さらに後世、詩聖と称える。鞏県(現・河南省)の人。官に志すが容れられず、安禄山の乱やその後の諸乱に遭って、流浪の一生を送った。そのため、詩風は時期によって複雑な感情を込めた悲痛な社会描写のものになる。
※絶句:古詩の最小単位である四句で絶(た)ちきったことによる名称。
※両箇黄鸝鳴翠柳:ふたつのコウライウグイスが、緑色のヤナギで鳴いて。 ・両箇:ふたつ。俗語的表現。なお、現代語(北京語)の口頭語でも、「ふたつ」は“兩箇(两个)”と言う。 ・黄鸝:〔くゎうり;huang2li2○○〕コウライウグイス。チョウセンウグイス。 ・鳴:(鳥獣などが)鳴き声を出す。なく。 ・翠柳:〔すゐりう;cui4liu3●●〕緑色のヤナギ。
※一行白鷺上青天:ひと筋のシラサギ(の群)が青空を上っていく。 ・一行:〔いちぎゃう;yi4hang2●○〕ひと筋。一列。「一行」は「ひと筋」「1列」といった、行列 やページの行 を表す「行」〔hang2〕。日本語の音読みでは「ぎゃう(ぎょう)」と読むことが多いが、機械的に〔hang2〕→「ぎゃう」、〔xing2〕→「かう」とする、ようでもいない(ようだ。ただ、そのような読み分けの傾向はあろう)。なお、ここでの「一行」〔yìháng〕は、日本語での「(白鷺懇親会)御一行 様」と謂う意(=つれ)でなく、「一行 」(ひと筋)のシラサギの行列 のことだが、この詩句「いっこう(いつかう)」と伝統的に読まれているので、それに従う。意味は、勿論「一行 」のことである。 ・白鷺:〔はくろ;bai2lu4●●〕シラサギ。 ・上:のぼる。あがる。上の方に行く意。 ・青天:青空。
※窓含西嶺千秋雪:窓の中に見える、西の山々の嶺には万年雪が積もって。 ・窓含:部屋の奥から見た窓と、窓外の景の表現。窓枠の中に景色が切り取られて映し出されているかのように表した。 ・西嶺:西側の山々のみね(複数)。原注に「西山白雪,四時不消。」(西の山の白雪は、一年中消えない)とある。作者は成都に逃れ来てそこでの詩作。西側には、近く三千メートルの峨眉山を望み、遠くには七千メートル級の大雪山の大山脈があり、万年雪に掩われている。 ・千秋:千年。 ・千秋雪:万年雪を謂う。
※門泊東呉万里船:門の前(と謂っていい程の近くでは、)江蘇省等の江南の方へ遥かな行程を辿る船が、碇泊している。 ・門泊:門前のような近くに、船が碇泊する船着き場がある、ということの表現。 ・東呉:東の方の呉の国。長江中・下流域の地域で、建鄴/建康/金陵(現・南京)を中心とした現・江蘇省等の地域。孫呉。ここでは広く江南一帯を謂う。 ・万里:長大な距離の形容。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「天船」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)
○○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2011.5.24 5.25 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |