司空図乙丑人日　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Sikong Tu

乙丑人日
	唐・司空圖

自怪扶持七十身，
歸來又見故鄕春。
今朝人日逢人喜，
不料偸生作老人。

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乙丑(いつちう)の人日(じんじつ)

自ら怪しむ　扶持(ふぢ)　　七十(しちじふ)の身，
歸り來(きた)りて　又(ま)た見る　　故郷の春を。
今朝(こんてう)　人日(じんじつ)　　逢ふ人喜び，
料(はか)らず　生(せい)を偸(ぬす)みて　　老人と作(な)りたるを。

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◎　私感註釈

※司空図：晩唐の詩人。詩論家。８３７～９０８年。司空が姓（複姓）。図（と）が名。字は表聖。河中・虞郷(現・山西省永済)の人。懿宗の咸通十年(８６９年)の進士。殿中侍御史、光禄寺主簿、礼部郎中、中書舎人等を歴任した。光啓三年（８８７年）、中条山の王官谷に隠居し、屡々召されても出仕しなかった。朱温（＝朱全忠）が唐を滅ぼして後梁（こうりょう）を興した時、礼部尚書として召されたが、絶食して死んだ。詩論をもって知られ、その著『二十四詩品』（＝『詩品』）で詩の形式と形象化した譬喩によって詩歌のさまざまな風格や意境を論述し構成に多大の影響を与えた。

※乙丑人日：（天祐二年（９０５年）の）乙丑（きのとうし）の正月七日。　・乙丑：〔いつちう；yi3chou3〕きのと・うし。干支で表した序列表示の２番目。干支とは、十干と十二支の組み合わせのことで、十干とは、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸のことをいい、十二支とは子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥のことをいう。干支は、この十干と十二支の組み合わせによる序列表示をいい、十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順次、次のように組み合わせていく。甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、（以上、１０組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、１１組目が始まる）甲戌、乙亥、……（ここで、十二支は「子」に戻り、１３組目は）丙子、丁丑…となって、合計は６０組になる。これで、１から６０までの順を表し、年月日の表示などにに使われる。なお、６１番目は、１番目の甲子にもどる。作者が在世の乙丑年は、９０５年（天祐二年）、（或いは、その６０年前の８４５年（会昌五年））。ただし、後者は作者が幼児の時なので不適切。　・人日：旧暦正月の第七日目（陰暦正月七日）。正月七日は、人全般の運勢を占う日であるという。呼称の由来は、正月の一日を鶏の日、二日を狗の日、三日を猪（豚）の日、四日を羊の日、五日を牛の日、六日を馬の日とし、それぞれの日にはその動物を殺さないようにしていた。そして、七日目を人の日（人日）とし、犯罪者に対する刑罰を行わないこととしていた。五節句（人日・上巳・端午・七夕・重陽）の一つ。隋・薛道衡の『人日思歸』に「入春纔七日，離家已二年。人歸落雁後，思發在花前。」とある。

※自怪扶持七十身：手をそえて助けてもらう七十歳となった身で、自分でも不思議に思うのは。　・怪：不思議に思う。いぶかる。あやしむ。　・扶持：〔ふぢ；fu2chi2○○〕手をそえて助ける。だきかかえる。蛇足になるが、「ふち」は国語での別義。　・七十身：七十歳となった身。

※歸來又見故郷春：（無事に）帰ってきて、またしても故郷の春を見ることだ。　・歸來：帰ってくる。もどってくる。　・又：またしても。　・見：会う。見る。

※今朝人日逢人喜：人日である（正月七日の）朝に行き逢う人（々）は、めでたがる（が）。　・喜：めでたい。喜ばしい。

※不料偸生作老人：（わたしが）いたずらに生きながらえて、老人となったとは、思いもよらない（のだろう）。　・不料：思いもよらず。はからずも。また、思いがけなく。ここは、前者の意。　・偸生：いたずらに生きながらえる。無為に過ごす。　・作：…となる。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「身春人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。

●○●●○○●，
○●○○●●○。（韻）
○●○○○●●，
●○○●●○○。（韻）