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野老歌 | |
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唐・張籍 |
老農家貧在山住,
耕種山田三四畝。
苗疏税多不得食,
輸入官倉化爲土。
歳暮鋤犁傍空室,
呼兒登山收橡實。
西江賈客珠萬斛,
船中養犬長食肉。
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野老 の歌
老農 家 貧 にして 山に在 りて住み,
山田 を耕種 すること 三、四畝 。
苗 疏 く 税 多くして食 らふを得ず,
官倉 に輸入 すれども化 して土と爲 る。
歳暮 に鋤犁 空室 に傍 ひ,
兒を呼びて 山に登り橡實 を收 らしむ。
西江 の賈客 珠 萬斛 ,
船中 犬を養ひて長 に肉を食 らはす。
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◎ 私感註釈
※張籍:中唐の詩人。字は文昌。和州(かしゅう)烏江(安徽省和県)の人。768年(大暦三年)~830年(太和四年)。師友の韓愈に目をかけられ、その推薦によって、国子博士となった。楽府に長じている。
※野老歌:いなかの老人の(嘆きの)歌。『山農詞』ともする。 ・野老:いなかの老人。また、老人が自分を謙遜して言う言葉。後者の例だが、盛唐・杜甫の『哀江頭』に「少陵野老呑聲哭,春日潛行曲江曲。江頭宮殿鎖千門,細柳新蒲爲誰綠。憶昔霓旌下南苑,苑中萬物生顏色。昭陽殿裏第一人,同輦隨君侍君側。輦前才人帶弓箭,白馬嚼齧黄金勒。翻身向天仰射雲,一笑正墜雙飛翼。明眸皓齒今何在,血汚遊魂歸不得。清渭東流劍閣深,去住彼此無消息。人生有情涙霑臆,江草江花豈終極。黄昏胡騎塵滿城,欲往城南望城北。」とある。
※老農家貧在山住:年をとった農民の家が貧しくて、山に住んでいる(が)。 ・老農:経験豊かで年をとった農民。 ・家貧:家が貧しい意。 ・在山住:山に住む意。
※耕種山田三四畝:山の中の三、四畝(ほ:ムー)(5~7アール)ほどの田に耕作して、植え付けている。 ・耕種:〔こうしゅ;gong1zhong4●●〕耕作し、植え付ける。「種」:ここでは動詞で、植え付ける、種を播く、意。 ・三四畝:5~7アール。耕地面積としては少ない。 ・畝:〔ほ(ほう);mu3●〕畝(ほ)。(日本の単位では「せ」)。量詞で耕地の面積の単位。1畝(ほ)は、周代では、約1.82アール。現代中国の1畝(ムー)は6.667アール。蛇足になるが、日本の1畝(せ)は約1アール。
※苗疏税多不得食:農作物の出来具合が悪いても、租税は多くて、食べることが出来ない(のに)。 ・苗疏:農作物の苗が疏(まば)らである。→農作物の出来具合が悪い。作柄が悪い。「苗疏税多」 は一種の互文的表現と謂えるか。 ・不得食:食べることが出来ない意。
※輸入官倉化為土:国の蔵に運び入れても、(腐らせてしまい)土となってしまう。 ・輸入:〔しゅにふ;shu1ru4○●〕運び入れる。送り込む。 ・官倉:官のくら。国のくら。曹鄴の『官倉鼠』に「官倉老鼠大如牛,見人開倉亦不走。健兒無糧百姓飢,誰遣朝朝入君口。」とある。 ・化為土:土となってしまう。
※歳暮鋤犁傍空室:(農閑期の)年の暮れには、すき等の農具は、がらんとした部屋の傍(かたわ)らに置いておく(が)。 ・歳暮:年の暮れ。年末。また、年が暮れる。 ・鋤犁:〔じょれい;chu2li2○○〕すき。すきとからすき。農具。=犂鋤。「犂」は牛耕用のすき。 ・傍:よりそう。そう。また、かたわら。わき。そば。 ・空室:≒虚室:何もなくがらんとした部屋。日光が射し込んできて、自然に明るくなる部屋。『莊子・人間世』に「瞻彼者,虚室生白,吉祥止止。夫且不止,是之謂坐馳。」から来ている。「虚室生白」とは、室を開ければ日光が射し込んで自然に明るくなる。人心も無念無想であれば、自然に明るくなってくる。東晉・陶潛の『歸園田居五首 其一』に「少無適俗韻,性本愛邱山。誤落塵網中,一去三十年。羈鳥戀舊林,池魚思故淵。開荒南野際,守拙歸園田。方宅十餘畝,草屋八九間。楡柳蔭後簷,桃李羅堂前。曖曖遠人村,依依墟里煙。狗吠深巷中,鷄鳴桑樹巓。戸庭無塵雜,虚室有餘閒。久在樊籠裡,復得返自然。」とある。
※呼児登山収橡実:(食糧が無いため、)息子を呼んで、山に登ってどんぐりを採ってこさせている。 ・収:集める。取り入れる。 ・橡実:〔しゃうじつ;xiang4shi2●●〕どんぐり。食用となる。備荒食品。「橡」は:クヌギ(総称)。トチ。盛唐・杜甫の『乾元中寓居同谷縣作歌』に「有客有客字子美,白頭亂髮垂過耳。歳拾橡栗隨狙公,天寒日暮山谷裏。中原無書歸不得,手脚凍皴皮肉死。 嗚呼一歌兮歌已哀,悲風爲我從天來。」とあり、『後漢書・李陳龐陳橋列伝・李恂』に「時歳荒,司空張敏、司徒魯恭等各遣子饋糧,悉無所受。徙居新安關下,拾橡實以自資。」とある。
※西江賈客珠万斛:西江(=江西省九江市一帯)の商人は、極めて多量の真珠(を積んだ)。 ・西江:現・江西省九江市一帯のことで、商業が栄えた地方。唐代は江南西道に属したため、西江と謂った。 ・賈客:〔こかく;gu3ke4●●〕商人。 ・珠:たま。真珠。 ・万斛:極めて多量を謂う。 ・斛:〔こく;hu2●〕こく。=石(こく)。容量の単位。1斛=10斗。
※船中養犬長食肉:(真珠を積んだ)船の中で、犬を飼っており、(犬に)肉を食べさせている。 *この句「養犬長食肉」は兼語文(文の前半では目的語となり、文の後半では主語となり、同一の単語が二つの役割を兼ねる)の構成をとる。「養犬長食肉」は〔「養犬」+「犬長食肉」〕(犬を飼う)((その)犬は常に肉を食べる)。 ・養犬:犬を飼う。 ・長:〔ちゃう;chang2○〕つねに。=常〔ぢゃう;chang2○〕。 ・食肉:肉を食べる。肉を食(く)らふ。
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◎ 構成について
韻式は、「aaabbb」。韻脚は「住畝土 室實肉」で、平水韻上声七麌(土)・上声二十五有(畝)、入声。この作品の平仄は、次の通り。
●○○○●○●,(韻)
○●○○○●●。(韻)
○○●○●●●,
○●○○●○●。(韻)
●●○○○◎●,
○○○○○●●。(韻)
○○●●○●●,
○○●●○●●。(韻)
2015.9.1 9.2 9.4 9.5 |
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