王維送別　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩　Wang Wei

送別
	盛唐・王維

送君南浦涙如絲，
君向東州使我悲。
爲報故人憔悴盡，
如今不似洛陽時。

******

送別

君を南浦(なんぽ )に送れば　　涙絲の如し，
君は　東州(とうしう)に向かひ　　我(われ)をして悲しましむ。
爲(ため)に報(はう)ぜよ：「故人　　憔悴(せうすゐ)し盡(つ)くし，
如今(じょこん)は　似ず　　洛陽(らくやう)の時に」と。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　****************

◎　私感註釈

※王維：盛唐の詩人。７０１年（長安元年）？～７６１年（上元二年）。字は摩詰。太原祁県（現・山西省祁県東南）の人。進士となり、右拾遺…尚書右丞等を歴任。晩年は仏教に傾倒した。

※送別：（送別の宴をして、）旅立つ人を見送る。後世、南宋・李清照は『永遇樂』「落日熔金，暮雲合璧，人在何處？染柳烟濃，吹梅笛怨，春意知幾許。元宵佳節，融和天氣，次第豈無風雨？來相召，香車寶馬，謝他酒朋詩侶。　　　中州盛日，閨門多暇，記得偏重三五。鋪翠冠兒，撚金雪柳，簇帶爭濟楚。如今憔悴，風鬟霜鬢，怕見夜間出去。不如向、簾兒底下，聽人笑語。」でその感慨を同じくした？ようなものか。

※送君南浦涙如糸：あなたを（別れの港である）南浦に見送ったが、涙は糸のように（停まることなく）流れ。　・南浦：別れの港。（別れた）南のうら。南のみぎわ。別れた河邊。特定の地名ではなく、「送君南浦，傷如之何」からきているが、普通名詞。敢えて地名と見た場合は、江西省南昌の西南の所を指す。宋詞では、「別れの港」の意で使われる。後世、五代十国・馮延巳は『三臺令』で、「南浦，南浦，翠鬢離人何處。當時攜手高樓，依舊樓前水流。流水，流水，中有傷心雙涙。」と使い、南宋・范成大は『橫塘』で「南浦春來綠一川，石橋朱塔兩依然。年年送客橫塘路，細雨垂楊繋畫船。」と使い、南宋・張元幹は『賀新郞』送胡邦衡待制赴新州で「夢繞神州路。悵秋風、連營畫角，故宮離黍。底事崑崙傾砥柱，九地黄流亂注。聚萬落、千村狐兔。天意從來高難問，況人情、老易悲難訴。更南浦，送君去。　　　涼生岸柳催殘暑。耿斜河、疏星淡月，斷雲微度。萬里江山知何處，囘首對牀夜語。雁不到、書成誰與？目盡靑天懷今古，肯兒曹、恩怨相爾汝。舉大白，聽、金縷」と使い、夏寶松の『宿江城』「雁飛南浦砧初斷，月滿西樓酒半醒。」と、広く使われている。

※君向東州使我悲：あなたは（わたしにとって、思い出深い洛陽のある）東の方へ向かうので、わたしに悲しい思いをさせる。　・東州：東方。東周。　・使我悲：わたしに悲しい思いをさせる、意。

※為報故人憔悴尽：（あなたは、わたしに）代わって（洛陽の人に）報（しら）せてほしい。（それの内容は、わたし（＝王維）は）やつれはてて。　・為報：（わたしに）代わって報（しら）せよ。ために報（しら）せよ。＊「為報」（（わたしに）代わって報（しら）せよ）の報せる内容とは、「故人（＝王維）憔悴尽，如今不似洛陽時」ということ。　・為：（…に）かわって。ために。　・故人：（ここでは、洛陽にいる友人にとっての）“古くからの友人”のことで、ここでは、王維自身を指す。（洛陽にいる人物、ともとれそうだが…）。王維の『送元二使安西』の「渭城朝雨浥輕塵，客舎靑靑柳色新。勸君更盡一杯酒，西出陽關無故人。」とある。　・憔悴：〔せうすゐ；qiao2cui4○●〕やせおとろえる。やつれる。　・憔悴尽：やつれはてる、の意。

※如今不似洛陽時：今は、洛陽にいた時とは似ても似つかない、と。　・如今：いま。現今。　・洛陽時：洛陽は唐代の東都で、安禄山の乱の時、王維は強要されて安禄山政権の給事中に任じられて、洛陽にいた、その頃のことか。

　　　　　　　　　　　　　　　***********

◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「糸悲時」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。

●○○●●○○，（韻）
○●○○●●○。（韻）
●●●○○●●，
○○●●●○○。（韻）