金城一紀 04


対話篇


2003/02/11

 金城一紀さんのもう一冊の新刊である。真っ白なカバーにタイトルと作者名が印字されただけ。ビートルズのアルバム"The Beatles"、通称ホワイト・アルバムを彷彿とさせるシンプルな装丁が目を惹く(わからない方ごめんなさい)。

 デビュー作『GO』、『レヴォリューションNo.3』、『フライ,ダディ,フライ』と読者に元気を与える作品を発表してきた金城さんだが、本作では違う一面を見せている。『対話篇』のタイトル通り、対話を中心とした物語の数々。

 「恋愛小説」。さほど親しくない大学の知り合いが語った切ない物語。幼い頃から、ある運命に翻弄されてきた彼が、恋に落ちた。むう、これ以上書けないな。というか、これだけでも十分ネタばれなような…。その後彼と会うこともなくなった主人公は、今でも14歳のあの頃に思いを馳せる。彼は語りたかった。ずっと誰かに語りたかったのだ、きっと。語った相手が主人公であったこと、これもまた運命なのだ、きっと。

 「永遠の円環」。病床に伏して余命幾ばくもない主人公が、次々と知り合いを見舞いに呼び、彼の願いを実行してくれる人間を探す。現れるはずがない実行者が、遂に現れた。実行者の正体は…。これは心温まるような話ではない。「永遠の円環」とは、輪廻と言い換えてもいい。執念の輪廻。妄念の輪廻。初出時は「サバイバー」のタイトルで発表されたが、こちらの方が相応しい。

 「花」。本作中最も長いこの物語が、僕の一押しである。脳の病に冒された主人公。手術の成功率は限りなく低い。そんな彼に、奇妙なアルバイトが舞い込む。冤罪事件で有名な弁護士と一緒に、車で鹿児島まで行ってくれという…。これは老弁護士の過去を掘り起こす旅であると同時に、主人公の再生の旅だ。ようやくたどり着いた鹿児島・指宿に咲いていた花。老弁護士はすべてを知る。主人公は自らに向き合う。

 無性に誰かに話を聞いてほしい、そんな時が誰にでもあるだろう。その相手が親しい友人とは限らない。お互い素性を知らないからこそ、人は流暢にもなる。そういえば、僕は最近対話をしただろうか? 読み終えてふと考える、そんな作品集だ。



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