Nゲージ蒸気機関車2011年のメモ>2011.8.3

B20-切り抜く本「日本の蒸気機関車」より

「切り抜く本 紙で作る『日本の蒸気機関車』」は、1970年代後半に誠文堂新光社から次々に発売された「切り抜く本」シリーズのひとつです。
奥付を見ると本の正式名称は単に「日本の蒸気機関車」となっています。
工作雑誌へのルポ掲載や、プラ模型の説明書の作図などでも当時から活躍されていた、摺本好作氏の手による素晴らしい作品群を本にしたものです。

2011.8.3


本の変遷

この本は1976年、「子供の科学」の別冊として出版されました。
ただし、当時の子供の科学誌にはこれらの蒸気機関車の記事はひとつも掲載されたことはありません。突然、まとまった本の形で発売されました。

何度も形を変えて再販されている本で、フルスペック版のほか、収録機を減らして廉価版として発売されたものもあります。
下記はフルスペック版です。私はこの本のヘビーユーザー?で、ずいぶんお世話になってきました。

初版 新装版 復刻版
初版(1976年)¥960
子供の科学別冊です。
新装版(1980年)¥1,200
別冊扱いではなくなり、独立しました。
復刻版(2004年)¥2,800
1980年版の復刻版です。

これらの収録機は次のとおりです。なるべく色々な形態のものを集めてあることがわかります。

B20・7100・1850・5680・900・6400・4500
4110・8620・C55流線型・C11・D51・D51半流線型・C62・E10

完成すると縮尺は約1/80、軌間は16.5mmぐらいになります。
紙工作といっても小学校の図工的なものとはずいぶん違い、精密さを感じるディテールを持っていますが、一般的に紙らしく表現できるギリギリのあたりで上手に簡略化されています。細かい切抜きが多いので根気はいります。

説明ページ 組み立て説明は見開き2ページです。後半の難しい機関車でも同じ2ページです。やさしいほうから順に作っていかないと、いきなり後半のページを見ても要領はつかめないかもしれません。
切り抜きページ 部品は工作に適したケント紙に作図されています。CADなどない時代の手描きによる製図で独特の温かみがあります。作者様がオリジナルを一度すべて自作されているのは驚異的です。
車輪ページ 車輪は巻末の厚紙に各種直径で型抜きされています。同じ径を2枚重ね、そこに一回り大きい径をフランジとして1枚重ねるようになっています。飾り用ですから車輪は台枠に接着してしまいます。
初版の切り抜き跡 工作を進めていくと、ページがどんどん切り取られてご覧のようになっていきます。ずいぶん作ったのですが初版は半分ぐらいで終わっています。

1980年代に発売された廉価版の中には、車輪の厚紙の型抜きが省略され、普通のケント紙への印刷だけになってしまったものもあります。古本などで見つけた際には注意が必要です。


B20の製作

この本は一番簡単な「B20」から始まっているので、買った人のほとんどはまずB20を作ったのではないかと思います。B20は国内で最もたくさん紙で作られた蒸気機関車かもしれません。
今は家庭にコンピューターやプリンターがあるので、型紙をもとにNゲージサイズに縮小し、同じ作り方で作ってみることにしました。

準備

型紙の切り抜き 型紙をスキャンするため、カッターで本から切り離しました。隣のページを傷つけないように注意が必要です。
プリンター用厚紙 プリンター用の厚紙は、以前に紹介したものの残りを使いました。元の型紙よりは少し薄手です。ケント紙に直接印刷できればいいのですが…。水平給紙式のプリンターなら大丈夫なのでしょうか。
印刷横置き/紙の目 安易に8/15に縮小し、2ページを並べて1枚に印刷しました。最初は間違えて紙の目が直角方向になってしまいました。これではボイラーをうまく丸められません。
印刷縦置き/紙の目 型紙の向きを90度直して再度印刷しました。なお、部品の中には紙の目を90度変えたほうが作りやすいように見えるものもあったので、先ほどの間違い用紙も捨てずに、部品によって適切と思ったほうを使いました。

製作

輪郭線に沿って定規を当てて、ナイフで切り抜きます。
折り曲げるところはナイフや鉄筆でスジを入れ(表に入れる場合と裏に入れる場合があります。お好みで)ます。よく定規を当てて曲げたりしますが、この作例は小さいので、多くの部分はヤットコやラジオペンチでくわえて曲げるのが楽でした。のりしろの角などの形を整えるには、ニッパーでパチンとカットするのが簡単です。
ちなみに曲げて接着していく要領は金属工作でも同じようなものです。金属キットは切り抜き済みなのでその点は楽です。

台枠は作り変え [1] 車輪のみNゲージ用を使うことにしました。台枠の幅を狭めて別途作り、車輪がはまるようにしました。
車輪をはめたところ [2] レールに載せて転がしているところ。車輪は最後に着脱式の車輪押さえを作って固定しました。
床板取り付け [3] キャブやサイドタンクの床になる部分を貼り付けたところ(写真は上下逆さま)。床はぺらぺらなので、模型として作るときはプラ板などを利用したほうがよいと思います。
のりしろを切り取った展開図 [4] ここから各部の部品を作っては貼り付けることの繰り返しです。これは何でしょう。
缶台 [5] 缶台の部分です。煙室下部に当たる丸い部分にものりしろがあったのですが、この小ささでは細かいのりしろは難しいので切り取りました。ただし、同じ作り方で作るのがテーマなので、多少仕上がりが見苦しくなっても極力のりしろを使うようにしました。
突き合せによる接着 のりしろによる接着 [6] 極端な図ですが、のりしろを付けると折り目の部分の重なりが複雑で、合わせ目がすっきりしません(これは折り線を外側に入れた例)。紙の厚みによるズレも出るので寸法も読みにくく、小さい部品は付き合わせのほうが本当はきれいにできます。
左右のボイラーを合わせる [7] キャブの部品です。窓は最初に切り抜いてから外側を切り取ります。理由は逆をやってみるとわかります。
キャブの組み立て [8] キャブの接着。接着剤は木工用ボンドを使っていますが、この紙はインクジェット用のためか水分を吸収する力が強く、即座に強固に接着してしまうのでちょっと使いにくいです。曲がって付いてしまうと、ナイフで合わせ目を切り離すしかありません。
ボイラー [9] ボイラーと煙室を丸めてつなぎます。
ボイラーの取り付け [10] 水平になるようにキャブ妻板の穴や缶台を調整して取り付けます。煙室扉はゴム板に先の丸い棒で押し付けてふくらみをつけます。
サイドタンク [11] サイドタンクは1枚の展開図になっています。折ったとき、のりしろの厚みがどこに影響するか考えて、折り線の位置を微妙に変えたり、折り方を変えたりします(本当は無理せず突き合せにしたほうがきれいにできます)。
ボイラー上部のパーツ [12] あとは煙突、蒸気ドームのキセなどを貼り付けていけば次第に完成していきます。
シリンダー [13] シリンダーは型紙の紙の目では側面が曲げにくいので、片方は90度紙の目を変えて作りました。曲面部ののりしろはカットしました(負けました)。
工作板の方眼に比べると、とても小さいのがお分かりいただけると思います。
蒸気管 [14] 「紙を丸めて細いパイプにし接着」などと恐ろしいことが書かれていますが、これは原形の大きさでもかなり難しい工作です。今回はケント紙を1mm幅に切って、2枚重ねにしたものを取り付けて表現しました。
弁装置 [15] ロッド類は何も付けない予定でしたが、さすがに寂しいので、適当に重ねたものを車輪に接触しないように取り付けることにしました。細いのでわざと輪郭線の外側を太めに切っていますが、ここまでする必要はなかったようです。

完成

B20完成

全長はたった4センチですから、ほとんどのPCのモニターでは実際の2倍ぐらいに拡大表示されていると思います。
小さくしたのでやむなく作り方を変更したところもありますが、極力もとの工作と同じになるように作りました。

B20完成(後ろはワールド工芸)

後ろはワールド工芸の鉄道模型です。並べてもデザインに違和感はなく、オリジナルの作者の摺本好作氏の工作センスにはただ敬服するばかりです。

後方から 前方から

かつてこの本を切り抜いて作った機関車はほとんど失ってしまいましたが、奇跡的にD51のみ現存しています。
未塗装のためもうすっかり色が変わってしまいましたが、30年たった今でも形を保っています。動輪やロッド廻りには当時追加の工作を施しました。
ひょっとしたら初版の作例は全国にもあまり残っていないかもしれません。

現存するD51

さて、35年前にこの本のB20を初めて作ったときの友人や家族の反応を今でも覚えております。とにかく仕上がりの悪さを手加減なく指摘されました(笑)。
職工さんの街でしたから。切る・折る・貼るのすべてにおいて「雑だ」「ごまかすな」「下手はともかく丁寧にやれ」とまあ厳しいこと。
もちろんいつものことなのできちんと耳を傾けましたが、その後も大して上達しませんでした(そこに実力が絡んでくるのだと思います)。


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