尋。 踏雪風冷路更深。 家山遠, 滿月在天心。 |
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十六字令 尋
尋ぬ。
雪を踏み 風 冷たく 路 更に深し。
家山 遠か,
滿月 天心に在り。
◎ 私感註釈 *****************
※伊勢丘人:1943年生。備後福山在住。
※十六字令:詞牌の一。填詞中最短の詞牌。
※尋:捜す。尋ねる。(人生の)悟りを捜そうと志し、その悟りを探すものの、どこにあるかわからず途方にくれた心情を謂う。 *井原市の田中美術館の尋牛の彫刻と、その元となった『十牛図』の讃の偈を念頭に置いた。『十牛図』とは、禅の悟りに至る道程を、十段階の牛の姿の絵に表したもの。この詩はその第一の「尋牛」を念頭に置いた。中国の現代詩人の「山を越えても山、次の山を越えても、又、山があった。」にも拠るものという。
※踏雪風冷路更深:雪の中を雪を踏んで(牛=悟りを尋ね捜しに出かけたが)、風は冷たくて、(辿る)路筋は更に奥深くなっていく。 ・踏雪:雪を踏んで出かける。雪見(風流韻事の一として、雪見に出かけること)の意もあるが、ここは、前者の意。李清照の『臨江仙』「庭院深深深幾許,雲窗霧閣常扃。柳梢梅萼漸分明。春歸秣陵樹,人老建康城。 感月吟風多少事,如今老去無成。誰憐憔悴更雕零。試燈無意思,踏雪沒心情。」とある。 ・路:ここでは、牛を探しに辿る道筋=悟りの境地を求める道程。 ・更:一層。その上に。さらに。 ・深:奥がある。ここでは、道筋が何処までも続いているさまをいう。
※家山遠:故郷(の山)から遠く離れたところにまでやってきた(が)。 ・家山:ふるさとの山。ふるさと。故郷。南宋・陸游の『識媿』に「幾年羸疾臥家山,牧竪樵夫日往還。至論本求編簡上,忠言乃在里閭間。私憂驕虜心常折,念報明時涕毎潸。寸祿不沽能及此,細聽只益厚吾顏。」とある。 ・遠:はるか。
※滿月在天心:(悟りの境地の一である満ち足りた月の姿は、自宅の前も、ここ千里を離れたところも、同じ姿で)缺けるところがない円い月が天の真ん中にあった。 ・滿月:缺けるところがなく、円形に輝いて見える月。望。十五夜の月。 ・在:…にある。 ・天心:大空の真ん中。天の真ん中。
◎ 構成について
十六字令。単調。十六字。平声一韻到底。韻式は「AAA」。。『十六字令』は、『歸字謠』、『蒼梧謠』ともいう。この『歸字謠』は、『歸自謠』や『歸國謠』とは異なる。韻脚は「尋深心」で、詞韻第十三部平声。
○(韻)。
●○○●○(韻)。
○○●,
●●○○(韻)。
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