船一棹百分空,
十歳青春不負公。
今日鬢絲禪榻畔,
茶烟輕落花風。
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禪院に題す
船(くゎうせん) 一棹(いつたう) 百分 空し,
十歳 青春 公に 負(そむ)かず。
今日 鬢絲(びんし) 禪榻(ぜんたふ)の畔(ほとり),
茶烟 輕く(あが)る 落花の風。
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◎ 私感註釈
※杜牧:晩唐の詩人、八○三年(貞元十九年)~八五二年(大中六年)。字は牧之。京兆萬年(現・陝西省西安)の人。進士になった後、中書舍人となる。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。李商隠と共に味わい深い詩風で、歴史や風雅を詠ったことで有名である。
※題禅院:禅宗の寺で詩を作る。杜牧は若い頃、酒と女にひたった優雅な生活を送っており、彼の七絶『贈別・二首其一』「娉娉嫋嫋十三餘,荳梢頭二月初。春風十里揚州路,卷上珠簾總不如。」
や、『遣懷』「落魄江南載酒行,楚腰腸斷掌中輕。十年一覺揚州夢,占得靑樓薄倖名。」
でもよく分かる。やがて、年をとるとともに、悟るところがあって、若い時をふり返り、今の姿を詠んだ詩。『醉後題僧院』ともする。 ・禪院:禅宗の寺。
※船一棹百分空:酒を載せた船の酒を一船分、すっかり飲み乾したこともあった。 ・
船:酒を載せた船。「畫舫牽徐轉,銀船酌慢巡。」「百分散打銀船溢,十指寬催玉箸輕。」杜牧自身の七絶『遣懷』「落魄江南載酒行,楚腰腸斷掌中輕。十年一覺揚州夢,占得靑樓薄倖名。」
というのがある。同じく酒を積んだ船の表現では、五代・梁・羅隱の『江南行』「江煙
雨蛟
軟,漠漠小山眉黛淺。水國多愁又有情,夜槽壓酒銀船滿。細絲搖柳凝曉空,呉王臺
春夢中。鴛鴦
喚不起,平鋪綠水眠東風。西陵路邊月悄悄,油碧輕車蘇小小。」
がある。また、「船」を酒器の形容の一と見ることもあるが。 ・
:〔くゎう;geng1○〕つのさかづき。「じ」牛の角や銅で作った酒器。 ・棹:〔たう;zhao4●〕さお。かい。こぐ。 ・百分:多くの憂い。或いは、すっかり全部。 ・百分空:すっかりと飲み乾す。或いは、(大酒で)多くの憂いがなくなる。 ・空:〔くう;kong1○〕むなしい。
※十歳青春不負公:十年間の青春時代の行跡は、諸兄の期待に背くことがなかったし、(十年間の青春時代の行跡は、)大酒を飲み、酒器にも恥じることがなかった。 ・十歳:十年間。役人生活の時代で、宴(うたげ)の日々を指す。 ・青春:作者が江南で官に任じられていた頃。 ・不負公:(「」〔くゎう;geng1〕は「公」〔こう;gong1〕に通じて)酒器に背かない。呑兵衛の名に背かない。 ・不負:背(そむ)かない。負(ま)けない。 ・公:〔こう;gong1○〕偉い方々。高位の官。
※今日鬢糸禅榻畔:今は、白髪混じりの頭となり、禅寺の坐禅用の腰掛けの辺りで。 ・今日:ここでは、老境になった今のことになる。 ・鬢絲:両側の髪の毛に交じった白髪。 ・禪榻:〔ぜんたふchan2ta4○●〕坐禅用の腰掛け。禅寺。お寺。後世、王士禛の『悼亡詩』に「藥爐經卷送生涯,禪榻春風兩鬢華。一語寄君君聽取,不敎兒女衣蘆花」
と使う。 ・畔:ほとり。そば。辺りで。(場所)で。
※茶烟軽落花風:茶を沸かす煙が、花を散らしてしまう風に、軽やかに揺れ動いている。 ・茶烟:茶を沸かす煙。「烟」字と「煙」字は『歴代詩別裁』では区別されている。「烟雨中」「茶烟」「煙籠」と(写真:右)。作者は酒を止めて茶に切り替えたのは健康上の理由も大きい。酒が飲めなくなったからだ。杜牧の『春日茶山病不飮酒因呈賓客』に「笙歌登畫船,十日淸明前。山秀白雲膩,溪光紅粉鮮。欲開未開花,半陰半晴天。誰知病太守,猶得作茶仙。」
とうたう。 ・輕
:軽やかに舞いあがる。 ・落花風:花を散らしてしまう風。唐の劉希夷『白頭吟(代悲白頭翁)』に「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。古人無復洛城東,今人還對落花風。年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子,應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐,伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下,淸歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「衣歸暉」で、平水韻上平五微。次の平仄はこの作品のもの。
○●●○●,
○●○●○。(韻)
○○●●○,
●●○○○。(韻)
○○●●○,
●●○○○。(韻)
2007.8.23 |
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