題上書稿 | ||
佐久間象山 | ||
憂國憂時不恤身, 狂言信受上官嗔。 他年夷吏討遺策, 日本未無知計人。 |
國を憂へ 時を憂へて 身を恤へず,
狂言は 上官の嗔りを 受くるに信す。
他年 夷吏 遺策を討ねなば,
日本 未だ 計を知る人 無くんばあらず。
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◎ 私感註釈
※佐久間象山: 幕末の兵学者。信濃松代藩士。文化八年(1811年)〜元治元年(1864年)
名は啓、字は子明、通称は修理。号して象山。佐藤一斎に朱子学を学び、江戸神田に私塾・象山書院を興す。後、蘭学と砲学を学び、開国論を倡え、攘夷派に暗殺された。勝海舟、橋本左内、坂本龍馬、吉田松陰は、門人。
※題上書稿:建白書についての詩を作る。 ・題:…についての詩を作る。 ・上書稿:上申書。建白書。 *佐久間象山はペリーの来航前、また、来航後に、それぞれ、国防に関する建白書を提出しているが、そのどれかの上書に際した時に、慌ただしく作られたの詩で、言いたい事が多く、前面に出すぎたのだろう、些か生硬な表現が目立つ作品である。
※憂國憂時不恤身:国を憂い、時節を憂えるが、我が身(が危険か否か)は心配しないで。 ・憂國:国の現状や将来を心配すること。国をうれえる。 ・憂時:時節をうれえ、心配する意になる。 ・不恤身:(我が)身を心配しない意。 ・恤:〔じゅつ;xu4●〕うれえる。あわれむ。
※狂言信受上官嗔:きちがいじみた内容の建議と上官に(思われ)怒りを招くことがあっても、受けるにまかせよう。 ・狂言:正しい道理に合わない言葉。きちがいじみた言葉。作者自身の建議の内容を謂う。 ・信受:受けるにまかせる、誠実に受け取る、の意。あまり類例がない表現。 ・信:まかせる。 ・嗔:〔しん;chen1○〕いかる。
※他年夷吏討遺策:後年、異国の外交官から、「(日本の)前人の遺した日本国の国家百年の大計や策謀はどうなんだ」とたずねられたら。 ・他年:後年。将来の年。 ・夷吏:外国人の官吏の意。(外国人に対する貶(さげす)みの感情が入った表現)。 ・討:〔たう;tao3●〕たずねる。もとめる。調べる。 ・遺策:前人の遺したはかりごと。また、てぬかりのある計劃。失計。遺計。ここは、前者の意。
※日本未無知計人:(作者・佐久間象山の建白書の内容の豊かさからも判るように、)日本にはすでに策謀を持った人がいた(と答えてほしい)。 ・未無:すでにいた。「いまだ…無くんばあらず」。あまり例を見ない二重否定。「未嘗不…」(いまだかつて…(せ)ずんばあらず)、「未必非…」(いまだかならずしも…に非ずんばあらず)の読み下しに準じた。 ・知計人:策謀を持った人、計を知る人、の意。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「身嗔人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○○●●○●,
●●●○○●○。(韻)
平成22.9.22 9.23 |
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