病中得二首之一 | ||
中江兆民 | ||
殘燈吹燄已, 涼月半窗明。 病客夢方覺, 陰蟲三五鳴。 |
殘燈 燄を吹いて 已み,
涼月 半窗に明るし。
病客 夢 方に覺め,
陰蟲 三五 鳴く。
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◎ 私感註釈:
※中江兆民:政治家・評論家。幸徳秋水の師。1847年(弘化四年)〜1901年(明治三十四年)。土佐藩出身。名は篤介。別号は青陵・秋水。(なお、秋水の号は、後に弟子の幸徳伝次郎(幸徳秋水)に与えた)。フランスへ留学後、フランス流民権思想の普及と専制政府攻撃に健筆をふるった。後に国民党を結成、国民同盟会に参加、国民主義への傾斜をみせた。「兆民」とは「億兆の人民大衆」の意。
※病中得二首之一:(喉頭癌)療養中に詩が二首できた。これはその一。その二はこちら。 *この作品は幸徳秋水の著作『兆民先生』の中に記載された、中江兆民より幸徳秋水に宛てた手紙(明治三十四年十月二十六日)の中のもので、中江兆民の亡くなる二ヶ月前のもの。中江兆民は、前年暮に喉頭癌と診断され、余命一年半と宣告され、そこから、『一年有半』を書き表した。その最中の作。
※残灯吹燄已:燃え尽きかけた灯(ともしび)は、焔(ほのお)をあげた(後)やんでしまった(ので)。 ・残灯:燃え尽きかけたともしび。 ・燄:〔えん;yan4●〕ほのお。=焰。名詞。蛇足になるが、「炎」〔えん;yan2○〕は、もえる、焼く。極めて暑い。ほのおのもえあがるさま。 ・已:〔い;yi3●〕やむ。もうそれっきりに終わる。やめる。晋・陶淵明の『歸去來兮辭』に「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕颺,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。乃瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。ス親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。已矣乎,寓形宇内復幾時。曷不委心任去留,胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願,帝ク不可期。懷良辰以孤往,或植杖而耘耔。登東皋以舒嘯,臨C流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。 」とある。
※涼月半窓明:(室内の灯が消えかかったので、)秋の夜の月が、片側を閉めた窓辺に明るい。 ・涼月:〔りゃうげつ;liang2yue4○●〕ひややかな感じの月。秋の夜の月。陰暦七月の別称。 ・半窓明:「なかばまどにあかるし」と幸徳秋水は読ませているが、「半窓明」は「半窓・明」の意だろう。「半・窓・明」ではなかろう。後者の場合は「窓半明」とすべきところ。清・龔自珍の『冬日小病寄家書作』に「黄日半窗煖,人聲四面希。餳簫咽窮巷,沈沈止復吹。小時聞此聲,心神輒爲癡。慈母知我病,手以棉覆之。夜夢猶呻寒,投於母中懷。行年迨壯盛,此病恆相隨。飮我慈母恩,雖壯同兒時。今年遠離別,獨坐天之涯。~理日不足,禪ス詎可期。沈沈復悄悄,擁衾思投誰。」とある。
※病客夢方覚:病の人(=作者)は、ちょうど(人生と謂う)夢から目覚めようとしたところで。 ・病客:〔びゃうかく(びゃうきゃく);bing4ke4●●〕疲れた旅人。(つかれた客(きゃく))。また、病の人。ここは、後者の意で使われる。 ・夢:人生、今生を謂う。盛唐・李白の『春日醉起言志』に「處世若大夢,胡爲勞其生。所以終日醉,頽然臥前楹。覺來?庭前,一鳥花間鳴。借問此何時,春風語流鶯。感之欲歎息,對酒還自傾。浩歌待明月,曲盡已忘情。」とあり、明智光秀の『辭世』に「順逆無二門, 大道徹心源。 五十五年夢, 覺來歸一元。 『信長公記』の敦盛の舞「人間(にんげん)五十年、下天(げてん)の内をくらぶれば、夢幻(ゆめまぼろし)の如くなり。一度(ひとたび)生を得て、滅せぬ者のあるべきか。」を聯想することばである。後世、昭和・西田税は『絶命詞』で「天有愁兮地有難,涙潸潸兮地紛紛。醒一笑兮夢一痕,人間三十六春秋。」とする。 ・方:ちょうど。まさに。 ・覚:めざめる。
※陰虫三五鳴:秋の虫がちらほらと鳴いている。 ・陰虫:〔いんちゅう;yin1chong2◎○〕秋の虫。鈴虫、松虫、蟋蟀(こおろぎ)など。また、ガマガエル。ここは、前者の意。 ・三五:わずか。ちらほら。また、(3×5=15)で十五日、十五夜、十五歳の意。ここは、前者の意。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「明鳴」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●,
○●●○○。(韻)
●●●○●,
○○○●○。(韻)
平成22.12.1 12.2 |
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