平泉懷古 | ||
大槻磐溪 |
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三世豪華擬帝京, 朱樓碧殿接雲長。 只今唯有東山月, 來照當年金色堂。 |
三世 の豪華 帝京 に擬 す,
朱樓 碧殿 雲に接して長し。
只今 唯 東山の月のみ有りて,
來 り照らす當年 の金色堂 。
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◎ 私感註釈
※大槻磐渓:幕末・明治期の儒学者、蘭学者、砲術家。享和元年(1801年)〜明治十一年(1878年)。江戸の人、仙台藩藩儒、藩医。字は士広で、通称は平次。盤渓は号。江戸の昌平黌に学び、頼山陽に称讃を受けた。ペリー来航時には開国論を建議、戊辰戦争の際は徹底抗戦を主張。奥羽列藩同盟の盟主に、仙台藩がなることに努める。
※平泉懐古:奥州平泉の昔のことをなつかしく思う。 ・平泉:奥州藤原三代の栄えた地名。岩手県西磐井郡にあり、中尊寺もここにある。 ・懐古:昔のことをなつかしく思う。
※三世豪華擬帝京:(奥州藤原氏の)三代の富貴を(凝らして)、天子のいる都に似せて。 ・三世:奥州藤原氏の三代で、初代の清衡(きよひら)、二代めの基衡(もとひら)、三代めの秀衡(ひでひら)を指す。 ・豪華:富貴なこと。非常にぜいたくなこと。 ・擬:〔ぎ;ni3●〕まねる。似せる。なぞらえる。 ・帝京:〔ていけい(ていきゃう);di4jing1●○〕天子のいる都=帝都。ここでは京の都、平安京を謂う。
大きな地図で見る地図左端に平泉、中尊寺。右(東)に束稲山
※朱楼碧殿接雲長:赤くいろ塗った高殿(たかどの)に緑色の御殿(ごてん)が雲に接するまでにさかんである。 ・朱楼碧殿:赤くいろ塗った高殿(たかどの)に緑色の御殿(ごてん)。 ・接雲:雲に接するほど高いさまを謂う。李清照の『漁家傲』に「天接雲濤連曉霧,星河欲轉千帆舞。彷彿夢魂歸帝所。聞天語, 殷勤問我歸何處。 我報路長嗟日暮,學詩謾有驚人句。九萬里風鵬正舉。 風休住,蓬舟吹取三山去。」とある。
※只今唯有東山月:ただ今は、東の方の束稲山(たばしねやま)の月だけが。 ・只今:ただいま。 ・唯有:ただ…だけがある。=惟有。曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」や、唐の劉希夷『白頭吟(代悲白頭翁)』に「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。古人無復洛城東,今人還對落花風。年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子,應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐,伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下,C歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫~仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」とあり、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡,隔林何處起人煙。山僧獨在山中老,唯有寒松見少年。」や白居易の『一字至七字詩』に「詩。綺美,瓌奇。明月夜,落花時。能助歡笑,亦傷別離。調清金石怨,吟苦鬼~悲。天下只應我愛,世間唯有君知。自從都尉別蘇句,便到司空送白辭。」や北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。 夜來幽夢忽還ク。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」とあり、司馬光『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴,南山當戸轉分明。更無柳絮因風起,惟有葵花向日傾。」とある。 ・東山:束稲山(たばしねやま)を謂う。平泉の東に位置する山。岩手県西磐井郡の東端標高596メートル。
※来照当年金色堂:往時(と同様に、)金色堂を照らしてくる。 ・来照:照らしかけてくる。*動詞(=照)の前(/後)に附いて、動作の主体(=月光)が話者(=金色堂)に近接してくる感じを表す。 ・当年:〔たうねん;dang1nian2○○〕当時。あの頃。往時。 ・金色堂:中尊寺金色堂のこと。平泉町の中尊寺にある平安時代後期建立の仏堂で、奥州藤原三代を祀る。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「長堂」で、平水韻下平七陽。なお、「京」は下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻?)
○○○●●○○。(韻)
○○●●●○●,
●●○○●●○。(韻)
平成24.2.3 |
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