日出 | ||
伊藤博文 |
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日出扶桑東海隈, 長風忽拂岳雲來。 凌霄一萬三千尺, 八朶芙蓉當面開。 |
日は出 づ扶桑 東海の隈 ,
長風 忽 ち岳雲 を拂 ひて來 る。
凌霄 一萬三千尺,
八朶 の芙蓉 面に當たりて 開く。
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◎ 私感註釈
※伊藤博文:政治家。天保十二年(1841年)〜明治四十二年(1909年)長州藩出身。幼名利助。後、俊輔。号は春畝。松下村塾に学び、木戸孝允に従い、尊王攘夷運動に参加。後、討幕運動に従って、維新政府樹立に貢献した。欧州よりの帰国後、華族制度、内閣制度の創設、大日本帝国憲法・皇室典範制定、枢密院設置など、天皇制確立のために努力。明治十八年(1885年)、初代総理大臣・枢密院議長となる。日露戦争後、初代韓国統監となり、併合強化への一歩を踏み出した。明治四十二年(1909年)、満洲視察と日露関係調整のため、渡満の際、ハルビン駅頭で韓国人・安重根に暗殺された。詩集に『藤公詩存』(明治四十三年 博文館)がある。
※日出:太陽が昇る。日の出。「日は(また)昇る」、「差し昇る朝日」「rising sun」といった意。 *ここでの「日」には「日本」の意も込められて、「日本勃興」「日本崛起」の意もあろう。明治十八年の作。
※日出扶桑東海隈:日が、扶桑のある東海のすみに出て。 ・扶桑:〔ふさう;fu2sang1○○〕本来の義は、日の出る東海の中にあるとされた神木。=扶木。後に日本の異称となる。ここでは、日本の称として使う。『山海經』第九 海外東經に「下有湯谷,湯谷上有扶桑,十日所浴,在K齒北居水中有大木九日居下枝,一日居上枝」とあり、第十四 大荒東經に「大荒之中有山名曰:孼搖頵羝,上有扶木〔扶木當爲榑木〕,柱三百里其葉如芥,有谷曰:温源谷,湯谷上有扶木〔扶桑在上〕,一日方至一日方出,皆載於烏。」とある。 ・東海:日本がある東の方の海。また、東シナ海。東海で溺れ死んだ炎帝の娘の女娃の魂が精衛鳥となって、ずっと西山の木石を銜えて運び、東海を埋めようと尽きることなく努力し続けている「精衛填海」の故事があるところ。『山海經・北山經』に「發鳩之山,其上多拓木。有鳥焉,其状如烏,文首,白喙,赤足,名曰精衛,其名自叫;是炎帝之少女名曰女娃。女娃游於東海,溺而不返,故爲牙ハ,常銜西山之木石以堙於東海。」、『述異記』にある。愚公、呉剛の類である。炎帝そのものは漢民族の象徴的存在で、秋瑾も「寶劍歌」で「炎帝世系傷中絶,茫茫國恨何時雪?」と歌い上げている。盛唐・劉長卿の『同崔載華贈日本聘使』に「憐君異域朝周遠,積水連天何處通。遙指來從初日外,始知更有扶桑東。」とある通り、日本は東の涯と認識して(/されて)いた。 ・隈:くま。山の曲がり込んだところ。水が岸に曲がり込んだところ。隅(すみ)。
※長風忽拂岳雲來:遠くから吹き寄せる風がたちまちのうちに、(富士)山の上に懸かる雲を払っていった。 ・長風:遠くから吹き寄せる風。江戸・伊形靈雨の『過赤馬關』に「長風破浪一帆還,碧海遙回赤馬關。三十六灘行欲盡,天邊始見鎭西山。」がある。 ・忽:急に。たちまち。忽然と。 ・拂:そっとかすめる。はらう。南唐後主・李Uの『柳枝詞』に「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」とあり、明・高啓の『送呂卿』に「遠汀斜日思悠悠,花拂離觴柳拂舟。江北江南芳草徧,送君併得送春愁。」とある。 ・岳雲:高い山の上の方に懸かる雲の意。
※凌霄一萬三千尺:(富士山の)雲よりも高いこと、一万三千尺(≒3900メートル程も)あり。 ・凌霄:〔りょうせう;ling2xiao1○○〕大空をしのぐ。雲をしのぐ。雲よりも高く上がる。 ・一萬三千尺:富士山の標高(3776メートル)を謂う。(当時の尺貫法では、1尺 ≒0.3030303メートルで、0.3030303×13000≒3939メートル)。高さの単位は尺を用いられた。(なお、深さについては尋(=6尺)を用いた)。
※八朶芙蓉當面開:(頂上の白雪を抱いた峰のさまは)八つの房(花瓣)のハスの花が面と向かって開いた(かのようである)。 ・八朶芙蓉:「芙蓉八朶」のことで、富士山頂にある(噴火口回りの)「富士八峰」(剣ケ峰、白山岳…)のこと。 ・朶:枝。花のついた枝。花や実のふさ。助数詞のように使う。また、枝についている花や実がふさになって垂れ下がる。枝垂れる。さを数えるのに用いる。 ・芙蓉:ハスの花。ここでは「芙蓉峰」(=富士山)を謂う。江戸・荻生徂徠の『甲斐客中』に「甲陽美酒黒駐ク,霜露三更濕客袍。須識良宵天下少,芙蓉峰上一輪高。」とある。 ・當面:〔たうめん;dang1mian4○●〕面と向かいあう。じかに。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「隅來開」で、平水韻上平十灰。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○○●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○○●○。(韻)
平成25.4.25 4.26 4.27完 平成27.2. 1補 |
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