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佛郎王詞 | ||
大槻磐溪 |
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半生威武遍西洋, 青史長留赫赫名。 一自功名歸太帝, 無人艷説歴山王。 |
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半生 の威武 西洋に遍 く,
青史 長 へに留 むる赫赫 の名。
一 たび 功名の 太帝に歸 してより,
人の歴山王 を艷説 する無し。
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◎ 私感註釈
※大槻磐渓:幕末・明治期の儒学者、蘭学者、砲術家。享和元年(1801年)~明治十一年(1878年)。江戸の人、仙台藩藩儒、藩医。字は士広で、通称は平次。盤渓は号。江戸の昌平黌に学び、頼山陽に称讃を受けた。ペリー来航時には開国論を建議、戊辰戦争の際は徹底抗戦を主張。奥羽列藩同盟の盟主に、仙台藩がなることに努める。
※仏郎王詞:フランス王のうた。 *「フランス王」というが、ここではフランス第一帝政の皇帝・ナポレオン1世(ナポレオン・ボナパルト)のことを指す。 ・仏郎 :〔Fo2lang2〕フランス。仏国。なお、現代語では「法蘭西」「法国」とするのが主流。蛇足になるが、その場合の「法」は〔fa4〕といったが、現在では〔fa3〕が主流。 ・仏郎王:フランス王。フランス第一帝政の皇帝・ナポレオン1世(ナポレオン・ボナパルト)のこと。ナポレオンを詠った日本人の詩に江戸・佐久間象山の『題那波利翁 像』「何國何代無英雄,平生欽慕波利翁。邇來杜門讀遺傳,怱怱不知年歳窮。撫劍仰天空慨憤,世人那得察吾衷。如今邊警日復月,戰船來去海西東。外蕃學藝老且巧,我獨遊戲等孩童。守株未知師他長,矮舟誰能操元戎。嗟君原是一書生,苦學遂能長明聰。一朝照破當時敝,革敝除害民情從。旌旗所向如靡草,威信普加歐羅中。元主西征不足道,豐公北伐何得同。人生得意多失意,大雪翻手朔北風。帝王事業雖未終,收爲我將應有庸。世人心竅小於豆,齷齪寧知英雄胸。自奮能成遠大計,自屈難樹廓清功。安得起君九原下,同謀戮力驅奸兇。終卷五洲歸皇朝,皇朝永爲五洲宗。」がある。
※半生威武遍西洋:(ナポレオンの)生涯の半分の期間で、(彼の)権威と武力がヨーロッパすべてに広く行き渡り。 *前出・佐久間象山の『題那波利翁像』に「威信普加歐羅中」とある。 ・威武:権威と武力。『孟子・滕文公下』に「富貴不能淫,貧賤不能移,威武不能屈,此之謂大丈夫。」とある。日本・江戸・德川齊昭の『弘道館賞梅花』に「弘道館中千樹梅,淸香馥郁十分開。 好文豈謂無威武,雪裡占春天下魁。」
とある。 ・遍:あまねく。
※青史長留赫赫名:歴史書は、(彼の)明らかでさかんなさまを長く書きとどめている。 ・青史:歴史。歴史書。記録。 *紙のない時代に、青竹の札をあぶって油を抜き、青みをとってから、これに文字を記したことから謂う。 ・長留:とこしえにとどめる。 ・赫赫:〔かくかく;he4he4●●〕明らかでさかんなさま。赤赤と照り輝くさま。日でりの厳しいさま。はやいさま。宋・太祖・趙匡胤の『旭日』に「太陽初出光赫赫,千山萬山如火發。一輪頃刻上天衢,逐退羣星與殘月。」とあり、清末・秋瑾の『寶刀歌』に「漢家宮闕斜陽裏,五千餘年古國死。一睡沈沈數百年,大家不識做奴恥。憶昔我祖名軒轅,發祥根據在崑崙。闢地黄河及長江,大刀霍霍定中原。痛哭梅山可奈何?帝城荊棘埋銅駝。幾番囘首京華望,亡國悲歌涙涕多。北上聯軍八國衆,把我江山又贈送。白鬼西來做警鐘,漢人驚破奴才夢。主人贈我金錯刀,我今得此心英豪。赤鐵主義當今日,百萬頭顱等一毛。沐日浴月百寶光,輕生七尺何昂藏?誓將死裏求生路,世界和平賴武裝。不觀荊軻作秦客,圖窮匕首見盈尺。殿前一撃雖不中,已奪專制魔王魄。我欲隻手援祖國,奴種流傳遍禹域。心死人人奈爾何?援筆作此《寶刀歌》,寶刀之歌壯肝膽。死國靈魂喚起多,寶刀侠骨孰與儔?平生了了舊恩仇,莫嫌尺鐵非英物。救國奇功賴爾收,願從茲以天地爲鑪、陰陽爲炭兮,鐵聚六洲。鑄造出千柄萬柄刀兮,澄淸神州。上繼我祖黄帝赫赫之成名兮,一洗數千數百年國史之奇羞!」
とあり、日本・明治の森鴎外に『噶爾巴日』に「赫赫兵威及米洲,平生戰鬪捨私讐。自由一語堅於鐵,未必英雄多詭謀。」
とあり、明治・伊藤博文の『桜山招魂場』に「志感櫻山枕碧海,四面羣巒圍。氣象萬千變,朝嵐兮夕霏。囘憶當年事,涕泗暗沾衣。外寇犯邊海,内訌迫禁闈。天下如亂麻,王道歎式微。長防彈丸地,率先揚義旂。破敵於四境,掃賊于京畿。劍光如電閃、砲彈如雨飛。民傾産不顧,士視死如歸。邦君王佐器,精忠排羣譏。勤王循祖訓,正氣爲發揮。一朝遭國難,上下識所依。斷行鬼神避,先天天不違。皇政終復古,赫赫仰天威。草木欣榮色,日月生光輝。嗚呼忠義士,功烈何巍巍。英靈聚此土,衆目倶瞻睎。芳名萬萬古,長與櫻花馡。」
とあり、大正天皇の『哭乃木大將』に「滿腹誠忠萬國知,武勳赫赫戰征時。勵精督學尤嚴肅,夫婦自裁情耐悲。」
とある。 ・名:韻脚が「洋・王」とあり、その中に「名」は属することができない。
※一自功名歸太帝:ひとたび手柄と名誉を皇帝の許に入れ(始め)てより(は)。 ・一自:…より。…から。ひとたび…してより。南宋・陳與義の『牡丹』に「一自胡塵入漢關,十年伊洛路漫漫。靑墩溪畔龍鐘客,獨立東風看牡丹。」とある。 ・歸:あつまる。所有物となる。おさまる。 ・太帝:「大帝」のこと。ここではフランス第一帝政の皇帝・ナポレオン1世(ナポレオン・ボナパルト)のことを謂う。ここは「大帝」とすべきだろう。(ざっと調べた限りだが、)「太」か「大」かについて、「太祖」「太宗」等はあるが、「太帝」は今のところ、見つけていない。
※無人艷説歴山王:アレキサンダー大王のことを羨(うらや)み説く者は、誰もいなくなった。 ・無人-:…とする人はいない。 ・艷説:〔えんせつ;yan4shuo1●●〕羨(うらや)みとく。羨みかたる。 ・歴山王:亜歴山大 大帝 。亜歴山大 大帝。アレキサンダー大王。前356年~前323年。マケドニア王。ギリシャ連合軍を率いて東方に遠征、ペルシアを滅ぼし、エジプトおよび西アジアからインド西部にまたがる大帝国を築いた。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は、「洋(名)王」で、平水韻下平七陽(洋王)、下平八庚(名)。下平七陽と八庚とでは、通常通韻はしなかろう。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
平成27.5.4 5.5 |
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