廣瀬武夫寄家兄言志　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩


寄家兄言志
		廣瀬武夫
勤王大義太分明，報國丹心期七生。傳家一脈遺風在，誓擧名聲弟與兄。

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寄家兄言志

勤王の大義　　太(はなは)だ分明(ぶんめい)，
報國の丹心(たんしん)　　七生を期す。
傳家(でんか )　一脈　　遺風在り，
誓(ちか)って　名聲を擧(あ)げん　　弟と兄と。

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◎　私感註釈

※廣瀬武夫：明治時代の軍人。旅順港閉塞作戦にて戦死。軍神となる。慶応四年（１８６８年＝慶応四年／明治元年。但し、広瀬武夫が生まれた時は慶応四年）～明治三十七年（１９０４年）海軍中佐。大分県出身。日露戦争中、旅順港閉塞作戦に従事する。第二回の閉塞作戦においては閉塞船・福井丸を指揮する。撤退時に行方不明となった部下・杉野孫七上等兵曹長を探す中、ロシア軍砲弾の直撃を受け戦死。

※寄家兄言志：私めの兄（＝広瀬勝比古）に、思い（を述べた詩）を郵便で送る。　・寄：郵便で送る。　・家兄：私めの兄。第三者に謙（へりくだ）った表現。作者の兄は広瀬勝比古。海軍少将。この詩の当時は中佐で、旅順攻略作戦に参加していた。　・言志：思いを言う。盛唐・李白に『春日醉起言志』「處世若大夢，胡爲勞其生。所以終日醉，頽然臥前楹。覺來盼庭前，一鳥花間鳴。借問此何時，春風語流鶯。感之欲歎息，對酒還自傾。浩歌待明月，曲盡已忘情。」がある。

※勤王大義太分明：天子のために力を尽くすと謂う正しい道は、あまりにも明白である。　・勤王：天子のために力を尽くす。≒勤皇（天皇のために力を尽くす）。　・大義：人の踏み行うべき大切な正しい道。君臣・父子の道など。　・太：はなはだ。あまりにも。　・分明：〔ぶんめい、ぶんみゃう；fen1ming2○○〕あきらか。はっきりしている。明白である。北宋・司馬光の『居洛初夏作』に「四月淸和雨乍晴，南山當戸轉分明。更無柳絮因風起，惟有葵花向日傾。」とあり、南宋・謝枋得の『初到建寧賦詩』に「雪中松柏愈青青，扶植綱常在此行。天下久無龔勝潔，人間何獨伯夷清。義高便覺生堪捨，禮重方知死甚輕。南八男兒終不屈，皇天上帝眼分明。」とあり、明・袁宏道の『江上』に「二月山花接郡城，絳桃垂柳獨分明。請看高塚宮人艸，別作青春一段情。」とある。

※報国丹心期七生：国恩に感謝してむくいるために働こうというまごころで、七度（たび）生まれ変わっても（、国に忠誠を尽くそう）。　・報国：国恩に感謝してむくいるために働く。国に尽くす。　・丹心：赤心。まごころ。南宋末～・文天祥の『過零丁洋』に「辛苦遭逢起一經，干戈寥落四周星。山河破碎風飄絮，身世浮沈雨打萍。惶恐灘頭説惶恐，零丁洋裏歎零丁。人生自古誰無死，留取丹心照汗青。」とある。　・期：決心する。決める。ねがう。　・七生：七生報国のことで、七度（たび）生まれ変わっても、国に忠誠を尽くすこと。江戸後期・頼山陽の『日本外史』に「願七生人間，以殺國賊。」とある。同・頼山陽の『謁楠河州墳有作』に「且餘兒輩繼微志，全家血肉殲王事。非有南柯存舊根，偏安北闕向何地。攝山逶迤海水碧，吾來下馬兵庫驛。想見訣兒呼弟來戰此，刀折矢盡臣事畢。北向再拜天日陰，七生人間滅此賊。碧血痕化五百歳，茫茫春蕪長大麥。君不見君臣相圖骨肉相呑，九葉十三世何所存。何如忠臣孝子萃一門，萬世之下一片石留無數英雄之涙痕。」とある。明治・廣瀨武夫は『正氣歌』で「死生有命不足論，鞠躬唯應酬至尊。奮躍赴難不辭死，慷慨就義日本魂。一世義烈赤穗里，三代忠勇楠氏門。憂憤投身薩摩海，從容就死小塚原。或爲芳野廟前壁，遺烈千載見鏃痕。或爲菅家筑紫月，詞存忠愛不知冤。可見正氣滿乾坤，一氣磅礴萬古存。嗚呼正氣畢竟在誠字，呶呶何必要多言。誠哉誠哉斃不已，七生人閒報國恩。」と詠い、同・廣瀨武夫は『指揮福井丸再赴旅順口閉塞』で「七生報國，一死心堅。再期成功，含笑上船。」と詠う。

※伝家一脈遺風在：代々家に伝わるひとつながりの昔からの風習があり。　・伝家：代々その家に伝わること。家伝。廣瀬家の始祖は、肥後の菊池一族と云う。　・一脈：ひとすじ。ひとつながり。　・遺風：残っている名誉。昔からの風習。また、昔のおもかげ。

※誓挙名声弟与兄：兄弟、誓って名声をあげるのだ。　・誓：〔せい；shi4●〕誓って。絶対に。盛唐・岑參の『與高適薛據同登慈恩寺浮圖』に「塔勢如湧出，孤高聳天宮。登臨出世界，磴道盤虚空。突兀壓神州，崢嶸如鬼工。四角礙白日，七層摩蒼穹。下窺指高鳥，俯聽聞驚風。連山若波濤，奔走似朝東。靑松夾馳道，宮觀何玲瓏。秋色從西來，蒼然滿關中。五陵北原上，萬古靑濛濛。淨理了可悟，勝因夙所宗。誓將挂冠去，覺道資無窮。」とあり、南宋・岳飛の『題新淦蕭寺壁』（『題青泥市寺壁』）「雄氣堂堂貫斗牛，誓將直節報君讐。斬除頑惡還車駕，不問登壇萬戸侯。」とあり、後世、清末/中華民国・梁啓超の『黄河』に「黄河黄河出自崑崙山，遠從蒙古地，流入長城關。古來聖賢，生此河幹，獨立堤上，心思曠然。長城外，河套邊，黄沙白草無人煙。思得十萬兵，長驅西北邊，飮酒烏梁海，策馬烏拉山。誓不戰勝終不還，君作鐃吹，觀我凱旋。」とある。　・挙：あげる。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「明生兄」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。

○○●●●○○，（韻）
●●○○○●○。（韻）
○○●●◎○●，
●●○○○●●。（韻）