佐夜中山懷母 |
||
釋大俊 | ||
瞑想猶見別時顏, 思繋蒼烟落日間。 羈客也爲石魂泣, 秋風灑涙過中山。 |
瞑想猶 ほ見る 別時の顏,
思ひは繋 る蒼烟 落日 の間。
羈客 也 た石魂 の泣 を爲 す,
秋風 涙を灑 ぎて中山 を過ぐ。
*****************
◎ 私感註釈
※釈大俊:幕末・維新の憂国の僧侶。弘化三年(1846年)〜明治十一年(1878年)。尾張中島の人。俗姓は鵜飼。通称は岩次郎。号して碧窓。増上寺の学寮・密雲寮に入り、学を修めた。後に雲井龍雄を知り、交友を深めた。雲井龍雄の大獄に連なって捕らえられた。この詩は、東京へ檻送される際、佐夜の中山を通った時のものと云う。
※佐夜中山懐母:佐夜の中山(さよのなかやま)で、母を懐(なつか)しく思って。 ・佐夜中山:佐夜の中山/小夜の中山(さよのなかやま)のこと。静岡県掛川市佐夜鹿(さよしか)に位置する峠。そこには、遠州七不思議の一つで、赤ん坊の泣き声を発したと云う夜泣き石がある。佐夜の中山は、箱根峠、鈴鹿峠と並んで東海道の三大難所の一。西行法師の「年たけてまた越ゆべしと思ひきや 命なりけり小夜の中山」がある。 ・懐:なつかしく思う。
※瞑想猶見別時顔:目をつぶって静かに考えれば、なおも別れる時の顔で。 ・瞑想:〔めいさう;ming2xiang3○●〕目をつぶって静かに考える。 ・猶:なお。まるで…のようである。なお…ごとし。 ・別時:別れる時。
※思繋蒼烟落日間:広々として果てしのない雲や霧が沈もうとしている太陽の間に思いを繋(つな)げば。 ・繋:つなぐ。結びつける。関連する。しばる。 ・蒼烟:広々として果てしのない雲や霧。 ・落日:沈もうとしている太陽。入り日。物事の勢いが衰える雰囲気を持った語。
※羈客也為石魂泣:旅人(=作者を指す)もまた、夜泣き石にもらい泣きをして。 *この句の「石魂泣」を、「夜泣き石」の意とすれば「羈客(きかく) 也(ま)た『石魂(せきこん)の泣(きふ)』を爲(な)す」とするのが自然。また、「羈客(きかく) 也(ま)た 石魂(せきこん)の爲(ため)に泣(きふ)す」とするのは、形としては、自然。 ・羈客:〔きかく;ji1ke4○●〕旅人。旅客。 ・也:…もまた。 ・為:…となす。また、…ために。 ・石魂:夜泣き石のこと。赤ん坊の泣き声を発したと云う。遠州七不思議の一。 ・石魂泣:夜泣き石。
※秋風灑涙過中山:秋風に涙を灑(そそ)いで、中山を過ぎた。 ・灑:そそぐ。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「顏間山」で、平水韻上平十五刪。この作品の平仄は、次の通り。平仄には顧慮していない。
○●○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●●◎●○●,
○○●●◎○○。(韻)
平成29.5.26 5.27 5.28 |
トップ |