嵐山 | ||
藤井竹外 |
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半峰花影落晴灣, 春在琴船酒舫間。 一目分明千本耳, 世人滿口説芳山。 |
半峰の花影 晴灣 に落ち,
春は琴船 酒舫 の間 に在り。
一目 分明 なるは千本 のみ,
世人 滿口芳山 を説 く。
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◎ 私感註釈
※藤井竹外:江戸末期の漢詩人。高槻藩の家臣。文化四年(1807年)〜慶応二年(1866年)名は啓。字は士開。摂津国(大阪府)の人。頼山陽に学ぶ。
※嵐山(らんざん):あらしやま。京都市西部にある山。また、そのあたり一帯の山々。 頼山陽に『奉母遊嵐山前此丁外艱尋西遊不遊五年矣』「不到嵐山已五年,萬株花木倍鮮妍。最忻阿母同衾枕,連夜香雲暖處眠。」がある。
※半峰花影落晴湾:(嵐山の)峰の半分の花の落とす影が川の入り江に落ちて。 ・花影:月の光によって、花の落とす影。はなかげ。日本風の優雅さを表す語でもある。 ・湾:いりえ。水のくま。まがる。
※春在琴船酒舫間:春は、楽器を奏でる船と酒席を構えた小舟との間に在る。 ・琴船:(弦)楽器を奏でるふね。 ・酒舫:酒席を構えた小舟。*「舫」:〔はう/(現・ほう);fang3●〕ふね。もやいぶね。小舟。いかだ。
※一目分明千本耳:一目で千本の(桜を)はっきりと見渡せるのは、「一目千本(ひとめせんぼん)」と言われる(吉野)だけだ。 ・一目:〔いちもく/日:ひとめ;yi2mu4●●〕「一目千本」(ひとめせんぼん)で、「吉野の桜は、一目(ひとめ)で千本の桜が見渡せるほどに桜の木が多い」意で使われる。また、吉野の中千本にある吉水神社の中に「一目千本」との銘をうった桜花の絶景の展望台がある。 ・分明:〔ぶんめい/ふんみゃう;fen1minig2○○〕あきらかである。はっきりしている。 ・耳:…のみ。だけ。
※世人満口説芳山:世間の人々は、皆口々に、吉野山(よしのやま)と言う。 ・世人:世間の人。 ・満口:口々に、の意。 ・説:言う。とく。唐・蜀・韋莊の『菩薩蠻』に「人人盡説江南好,遊人只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。 爐邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還ク,還ク須斷腸。」とある。 ・芳山(はうざん):吉野山(よしのやま)のこと。芳野(よしの)=吉野。作者(藤井竹外)に『遊芳野』「古陵松柏吼天飆,山寺尋春春寂寥。眉雪老僧時輟帚,落花深處説南朝。」がある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「湾間山」で、平水韻上平十五刪。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)
令和3.10. 9 10.10 10.11完 11.22補 |
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