流水詩 | |
明・唐寅 |
淺淺水,長悠悠,
來無盡,去無休。
曲曲折折向東流,
山山嶺嶺難阻留。
問伊奔騰何時歇,
不到大海不回頭。
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流水詩
淺淺 たる水, 長きこと悠悠 たり,
盡 くること無く來 りて, 休むこと無く去る。
曲曲折折 東 に向かひて流れ,
山山嶺嶺 阻留 すること難 し。
伊 に問ふ:「奔騰 何 れの時にか歇 まん?」
「大海に到らずんば回頭 せじ。」と
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◎ 私感註釈
※唐寅:明代の詩人。1470年(成化六年)〜1523年(嘉靖二年)。字は伯虎。号して六如居士、桃花庵主。また自ら「江左第一風流才子」と名のったこともあった。呉県(現・江蘇省蘇州)の人。弘治戊午年(1498年)の挙人。政争に連坐した後、酒や花に逃れ、世俗を蔑視した。詩は、口語を排除せず、俗になることを恐れなかった。明・徐禎卿と並んで「江南四才子」と呼ばれた。
※流水詩:流れ行く川の詩(うた)。 *口ずさむとリズミカルな詩であり、明・悟空の『萬空歌』「天也空,地也空,人生渺渺在其中。日也空,月也空,東昇西墜爲誰功。金也空,銀也空,死後何曾在手中。妻也空,子也空,黄泉路上不相逢。權也空,名也空,轉眼荒郊土一封。」と似た趣がある。趣は異なるが、現代・『我們走在大路上』「我們走在大路上,高舉紅旗像太陽。毛主席領導革命隊伍,披荊斬棘奔向前方。向前進 向前進 革命洪流不可阻擋;向前進,向前進,朝着勝利的方向。」も流れに託している。
※浅浅水:とても浅い川の流れ(が)。 ・浅浅:とても浅い。 *形容詞「浅」の「AA型」の重ね型で、強調(「とても、たいへん」)の意がある。
※長悠悠:長くて遠く遥かまであり。 ・悠悠:〔いういう;you1you1○○〕遠くはるかなさま。限りないさま。長く久しいさま。うれえるさま。また、行くさま。ひまのあるさま。ここは、前者の意。『詩經・王風』の『黍離』に「彼黍離離,彼稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。」とあり、『詩經』・周南』の『關雎』に「關關雎鳩,在河之洲。窈窕淑女,君子好逑。 參差荇菜,左右流之。窈窕淑女,寤寐求之。求之不得,寤寐思服。悠哉悠哉,輾轉反側。 參差荇菜,左右采之。窈窕淑女,琴瑟友之。參差荇菜,左右芼之。窈窕淑女,鐘鼓樂之。」とあり、『古詩十九首之十一』に「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」とあり、盛唐・高適の『宋中』に「梁王昔全盛,賓客復多才。悠悠一千年,陳迹惟高臺。寂寞向秋草,悲風千里來。」とあり、崔(さいかう:Cui1Hao4)の七律『黄鶴樓』に「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡州。日暮ク關何處是,煙波江上使人愁。」とあり、明・高啓の『送呂卿』に「遠汀斜日思悠悠,花拂離觴柳拂舟。江北江南芳草?,送君併得送春愁。」とある。
※來無尽:尽きることなく来て。 ・無尽:尽きることがない。限りがない。盛唐・王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」 や盛唐・杜甫の『登高』には「風急天高猿嘯哀,渚C沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。」とある。 ・無…無…:…も…もない。【無+A・無+B】:Aもなく、Bもどちらもないことを強調する。
※去無休:休むことなく去って行く。 ・去:行く。去る。
※曲曲折折向東流:くねくねと曲がりくねって東へ向かって流れ(てい)る。 ・曲曲折折:くねくねと曲がりくねって。 *「曲折」(動詞・形容詞)の「AABB」型の重ね型で、強調や具体性を帯びる。「曲折」:折れ曲がっている。曲がりくねっている。 ・向東流:東に向かって流れる。中国の川は例外を除いて、東へ向かって流れる。そのように長く、尽きることのない、不滅の真理のようなものであることを謂う。蛇足だが、このページの引首印の文字の「向東流」はここからとった。中唐・李益の『汴河曲』に「汴水東流無限春,隋家宮闕已成塵。行人莫上長堤望,風起楊花愁殺人。」とあり、中唐・薛塋の『秋日湖上』に「落日五湖遊,烟波處處愁。浮沈千古事,誰與問東流。」とあり、南唐後主・李Uの『虞美人』に「春花秋月何時了,往事知多少。小樓昨夜又東風,故國不堪回首 月明中。 雕欄玉砌應猶在,只是朱顏改,問君能有幾多愁。恰似一江春水 向東流。」とあり、南宋・辛棄疾の『菩薩蠻』書江西造口壁に「鬱孤臺下C江水,中間多少行人涙。西北望長安,可憐無數山。 山遮不住,畢竟東流去。江晩正愁余,山深聞鷓鴣。」とある。
※山山嶺嶺難阻留:どの尾根も、どの尾根もすべて、阻(はば)みとどめることは難しい。 ・山山嶺嶺:どの尾根も、どの尾根もすべて。 *「山嶺」(名詞の「AABB」型の重ね型で、「多くの、例外なくすべて」の意を添える。「山嶺」:連峰。尾根。山の嶺。 ・阻留:〔そりう;zu3liu2●○〕はばみとどめる。
※問伊奔騰何時歇:これ(=川)に問うが、駆けあがることをいつになったらやめるのだ。 ・伊:〔い;yi1○〕これ。彼。彼女。あの人。かの。また、助詞として口調を整える働きをする。 ・奔騰:〔ほんとう;ben1teng2◎○〕走りのぼる。駆けあがる。現代・毛沢東は『十六字令』其二(一九三四年到三五年)で「山,倒海翻江捲巨瀾。奔騰急,萬馬戰猶酣。」と使う。 ・何時:いつ。 ・歇:〔けつ;xie1〕休む。やめる。憩(いこ)う。尽きる。前出・李Uの『虞美人』に「春花秋月何時了,往事知多少。小樓昨夜又東風,故國不堪回首 月明中。 雕欄玉砌應猶在,只是朱顏改,問君能有幾多愁。恰似一江春水 向東流。」とある。
※不到大海不回頭:(答えて:)大海に行きつかなければ、ふり向くことはしない、と。 ・不…不…:もし…しなければ、…しない。…せずんば、…せじ。前句は仮定条件、後句はその結論。また、…ならずんば…ならじ。推量。なお、現代語では…せざるを得ない。…しないわけにはいかない。…しないはずはない。二重否定。ここは、前者の意。不到黄河不死心/(不到黄河心不死)」。現代・毛沢東は『清平樂・六盤山』(一九三五年十月)で「天高雲淡,望斷南飛雁。不到長城非好漢,屈指行程二萬。 六盤山上高峰,紅旗漫捲西風。今日長纓在手,何時縛住蒼龍?」と使う。蛇足だが、万里の長城には、この句碑があったり、この句を大きく印刷したTシャツも売られている。 ・回頭:ふり返る。ふり向く。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「悠休流留頭」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●●●, ○○○,(韻)
○○●, ●○○。(韻)
●●●●●○○,(韻)
○○●●○●○。(韻)
●○◎○○○●,
●●●●●○○。(韻)
2013.4.14 4.15 4.16 |
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