菊蹊 | |
(元)明・高啓> |
獨行林下路,
望望南山暮。
無酒掇英嘗,
寒香已零露。
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菊蹊
獨 り行 く 林下の路,
望 み望 む南山 の暮。
酒 無くして英 を掇 りて嘗 むれば,
寒香 已 に零露 なり。
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◎ 私感註釈
※高啓:明初の詩人。1336年〜1374年。明代最高の詩人とされる。字は季迪。江蘇省長州(現・蘇州)の人。元末に呉淞の青丘に隠棲する。詩風は唐宋の格調を保つ。『元史』の編纂に従事する。戸部右侍郎に任ぜられたが、固辞して隠棲する。しかし、洪武七年(1374年)、魏観の謀叛の罪に連座して腰斬の刑に処せられた。時に三十九歳。
※菊蹊:菊の咲いている小道。 *作者は道端の菊の花を見て、重陽の宴での菊花酒を思い起こしたのだろう。試みに、道端の菊に手を出し、「今年の菊花酒は如何?」と思い、口に近づけたのだろう。その顛末を詠った。東晉・陶潛に『九日闍潤x「世短意常多,斯人樂久生。日月依辰至,舉俗愛其名。露淒暄風息,氣K天象明。往燕無遺影,來雁有餘聲。酒能祛百慮,菊爲制頽齡。如何蓬廬士,空視時運傾。塵爵恥虚罍,寒華徒自榮。歛襟獨韆潤C緬焉起深情。棲遲固多娯,淹留豈無成。」や、盛唐・王維に『九月九日憶山東兄弟』「獨在異ク爲異客,毎逢佳節倍思親。遙知兄弟登高處,插茱萸少一人。」がある。 ・蹊:〔けい;xi1○〕小道。道。歩道。近道。近道する。=徯:〔けい;xi1○〕小道。
※獨行林下路:一人で、林の中の小道を行き。 ・獨行:一人で行く。 ・林下路:林の中の小道。
※望望南山暮:南山の暮れをぶらっと尋ねた。 ・望望:〔古白話〕ぶらっと尋ねる。(ここは、この意)。また、羞じらうさま。慚愧するさま。また、現代(中国)語として見た場合は、「望」ではなくて、「望望」とするのは、語調を整えるため。また、意味上、“軽さ”を添えるため。ただし、ここでは〔古白話〕:ぶらっと尋ねる意。 ・南山:南方にある山。世俗を離れたすまいから望む山。また、終南山。但し、高啓の活動範囲ではないので、ここでは指さない。唐詩以前の東晉・陶潛の『飮酒』二十首其五に「結廬在人境,而無車馬喧。問君何能爾,心遠地自偏。采菊東籬下,悠然見南山。山氣日夕佳,飛鳥相與還。此中有眞意,欲辨已忘言。」では、廬山を指す。王維にも『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」があるがこれは終南山か。唐・李拯の『退朝望終南山』に「紫宸朝罷綴鴛鸞,丹鳳樓前駐馬看。惟有終南山色在,晴明依舊滿長安。」とある。 ・終南山:山の名。長安(現・西安)の南方40キロメートルのところにある2604メートルの高山。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)40−41ページ「唐京畿道 関内道」では、秦嶺山脈を終南山としている。秦嶺山脈は長安西南方から南方にかけての、現在の終南山を含む大山脈。唐・祖詠の『終南望餘雪』「終南陰嶺秀,積雪浮雲端。林表明霽色,城中摯驫ヲ。」があり、唐〜・韋莊の『晏起』に「爾來中酒起常遲,臥看南山改舊詩。開戸日高春寂寂,數聲啼鳥上花枝。」がある。
※無酒掇英嘗:酒はないが、花弁を取って味わってみれば。 ・掇:〔てつ;duo2●〕とる。ひろう。ひろいとる。 ・英:はなぶさ。はなびら。はな。 ・嘗:なめる。味わう。
※寒香已零露:(菊の)清らかに澄んで冷たい香は、すでに、落ちる露(つゆ)となっていた。 ・寒香:(梅の花などの)清らかに澄んで冷たい香。 ・已:すでに。とっくに。 ・零露:〔れいろ;ling2lu4○●〕落ちる露(つゆ)。ここでは「已零露」と使われており、「已-」(すでに(…だ))は、通常、後に動詞をとる。(「已+動詞」と。(すでに…だ))。それ故、ここの「零露」は、動詞的使用と見るべきところ。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「船辺眠」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2021.8.21 8.22 8.23 |
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