「『輸出先』韓国で先行する記者クラブ改革」

 韓国に、悪名高き記者クラブ文化を「輸出」した日本。その輸出先の韓国では、この一年の間、新規参入のネット新聞社や市民団体による法廷を巻き込んでの改革が進み、地方では新聞社が自ら記者クラブ解体に踏み切る例も出た。「本家本元」の日本における新聞協会や新聞労連の新声明が、改革の呼び声だけで実態に変化がないことをあざ笑うかのように、現場の改革が進んでいる。

 きっかけは、2001年2月29日の仁川空港記者室だった。韓国の新しい国際空港「仁川国際空港」の開港を翌日に控え、仁川空港管理公団は中央記者室でブリーフィングを実施していた。この際、取材のため訪れていた新興インターネット新聞「オーマイニュース」※1のチェ・キョンジュ記者は、仁川空港記者クラブに登録されていないという理由で、記者クラブ幹事から無理やり退去させられ、ブリーフィングを聞けなかった。

 「この記者クラブはカネを出している人だけに開放されているのだ」。チェ記者はクラブのメンバーからそう言われたが、勝手に入り、どうにか写真を撮った。しかし報道資料については1日目、2日目と追い出されて貰えなかった。最後には、AFPの記者がコピーしてくれたという。オーマイニュース社は、弁護士とともに「これは間違った措置」と考え、司法に訴えることを決断した。

 権力監視と政策提言を行う市民団体「参与連帯」※2のキム・チルジュン弁護士は4月10日、「記者室出入り妨害禁止 仮処分申請書を一緒に出しましょう」と同紙上において公開提案し、「ネティズン」の意見を集約。5人の弁護士が作成した申請書は、200字詰め原稿用紙325枚分にも上った。対象は、仁川空港出入り記者クラブと記者クラブ幹事社である「連合ニュース」記者など所属記者20人、そして仁川国際空港公社代表理事カン・ドンソク氏などだった。 カラー

 同申請書では▼仁川国際空港出入り記者クラブは、出入り記者室を排他的に占有したり使用する権利がなく、▼不当に競争相手を排する行為であり ▼憲法に保障された言論の自由と国民の知る権利を侵す行為、と指摘。「出入り記者クラブは、仁川国際空港公私と契約によって独占的な使用権を申し受けた事実がないから、オーマイニュースのチェ・キョンジュ記者に記者室から退去を求める権利はない」として、5月4日、仁川地方裁判所に提出した。

 7月24日、仁川地方裁判所第3民事部は、この「出入り及び取材妨害を禁ずる仮処分申請」に対し、「記者室に出入りするのを妨げたり、取材するのを妨げてはいけない」との仮処分を決定した。7月27日付「オーマイニュース」記事によれば、裁判所の決定に対し担当弁護士であるキム・チルジュン弁護士は「これまで記者室が政府機関が提供する情報に対し独占的地位を享受し、言論の自由と国民の知る権利を侵して来たから開放しなければならない、という主張を受け入れた」と述べ、「記者クラブに所属されていないという理由で取材過程で相当な制約を受ける不当な慣行と決別し、自由に取材できる権利を保障してくれる橋渡し役になるという点で意義は大きい」としている。オーマイニュースによれば、その後、空港の記者室出入りは、自由になったという。

 「知られるべき事実が情報である、との考えを持つ我々も自由に出入りできるようになり、記者室の緊張感が高まっている」。オーマイニュース運営局のパク・チョングン氏は、開放の「効果」をそう説明した。今後についても、「この訴訟は、情報の独占に対する正当な闘いに臨んだもの。市民の誰もが情報を探したりつくっていくことのできる空間が記者室であるにもかかわらず、記者室を独占的に運営しているという、出入り記者室制度への反対です。その維持を目指す勢力に対して、引き続き反対を表明し続けるつもりです」と姿勢は明確だ。

 こうした決定を前に、2001年6月11日、城南市庁に出入りする「京仁日報」「全国毎日」など11の地方新聞社の記者達は、自ら記者クラブを解体し、記者室から撤収した。さらに翌日には、「正しい地域言論環境組成に皆が動かねばならない」と題する声明を発表し、「記者室が城南市民達の財産であることを考慮し、城南市に自ら返納する」ことを明らかにした。未だに記者クラブ室を我がもの顔で使用している日本の新聞記者に、彼等の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいである。自主的返還など、日本では考えられない。
 
 96年4月に鎌倉市役所の記者室クラブ改革を実施、より開放的な「広報メディアセンター」を新設した竹内謙・鎌倉市長(当時)も、こうした動きを歓迎し、7月28日から30日まで、2泊3日で韓国を訪れ「オ−マイニュ−ス」社編集部を訪問した。竹内氏は、在日韓国人を通してこの裁判のことを知り、休暇をとって応援に駆け付けたのだった。

 この他にもオーマイニュース社は、記者室の閉鎖的運営にソウルだけで年10億ウォンの税金が使われている事実(2001/04/4記事)や、「出入記者達の無料ヨーロッパ取材」と題して原子力文化財団が産業資源部記者クラブに対し行った、2月17日から8泊9日ヨーロッパ4カ国の海外取材旅行接待を報じる(2001/04/23記事、24社40人の加盟記者のうち10人が参加、航空運賃、ホテル宿泊料、食事代などすべての経費を原子力文化財団が提供)など、記者クラブ問題解決のための報道を積極的に進めている。

 日本では、90年4月、京都市伏見区の藤田孝夫さんが、京都府が京都府政記者クラブに記者室を無償提供など数々の便宜供与をしているのは違法として、知事は記者室の賃貸料相当額・電話料金・職員の賃金相当額など約860万円を府に返済すべきだと提訴した。京都地裁は92年2月、記者室の提供は違法ではないと請求を棄却した。藤田さんは更に92年6月、京都市が市政記者クラブを接待したり、ただで電話を掛けさせたりするのは違法な公金支出であるとして、記者クラブと田辺朋之市長を相手取って公金返還を求める住民訴訟を起こしたが、これも退けられている。

 しかし、雑誌記者やフリーライターが日本で訴訟を起こしたらどうなるだろうか?私は、韓国と同様の結果を得られるのではないかと思う。グズグズ言っていないで、やればいいのだ。ひとつ前例を作ってしまえば、会見から非加盟社を退去させる法的根拠がないことが明確になり、閉鎖性は改まるだろう。  →上位層に戻る →表紙(日記)に戻る


※1 オーマイニュースは、「すべての市民は記者である」との理念で99年に創刊。今では市民記者1万人以上が登録されており、1日60万人以上のアクセスがある。金大統領との単独インタビューも実現。
※2 参与連帯は、権力監視と政策提言を行っている団体で、94年に設立。約50人の常勤スタッフがおり、様々な分野の専門家を500人以上組織している。会員数は約1万4千人(9月時点)。仮処分申請書作成を手掛けたキムチルジュン弁護士は、「小さい権利探し運動本部」の本部長である。