連 句 入 門

中級編




  【12】 句数と去嫌(★★★)


句数(くかず)と去嫌(さりきらい)歌仙のルールすなわち式目(しきもく)です。春の句がでたら必ず3句は春の句を続けなければいけない、その3句が句数。

春の句が3句続いてからほかの季や無季の句に転じて、ふたたび春の句をだすには、最低5句は先の春の句から隔たっていなければいけない、というのが同季5句去り。このように同季・同字をはじめ類似したことばや縁の深いものの近付きを嫌う規定が去嫌。蕉門式目の主なものが以下。(付句チェックリストとしてご 利用ください。)

  1)春秋は同季5句去り、句数3〜5句。

  2)夏冬は同季2句去り、句数1〜3句。普通2句まで。

   注)ある季からほかの季に移るには、間に雑(無季)の句を入れるのが普通です
     が、それをしないで直接季を転じて付けるのが<季移り>。
     これは2季移り(たとえば前句の秋から夏へ。実際は3季目)が普通です。
     雑には句数はなくいくら続けてもいい、とは言っても歌仙には月花の句の数
     と、その場所もあらかた決まっているので、無制限に雑が続くということは
     ありません。

  3)神祇、釈教は2句去り、句数1〜3句。神祇とは神社・神道に関連する詞、
    基督教も神祇に含めます。釈教は釈尊の教え、すなわち仏法仏教に関連
    する詞で教義や佛門の人や寺、または佛教行事などが釈教に当ります。

  4)恋は3句去り、句数2〜5句。芭蕉翁は恋句の名手で、高貴の恋から下世話の
    恋まで素晴らしい恋句の数々を遺しています。岩波新書から東明雅著『芭蕉の
    恋句』が出ていますからご覧下さい(ただし現在絶版)。二句二回が標準です。

  5)述懐、無常は3句去り、句数1〜3句。述懐というのは、来し方を振返って昔を
    懐かしむ感傷で、老人の昔話や、落魄した身の上を愁える風情を詠みます。
    無常と言うのは、死に纏わる感傷で、棺、野辺の送り、墓、塚、腹切る、喪、
    幽霊、辞世などとされていますが、現代では著名な作家や詩人または俳優
    などの逝去を悼む句が詠まれます。

  6)山類(さんるい)、水辺(すいへん)は3句去り、異山類、異水辺は打越(うち
    こし、つまり前々句)にあってもいい。句数1〜3句。山類は山に関する場所の
    ことばで、山、峰、坂、谷、高根、麓、滝など。水辺は水に関する場所のことば
    で、海、浦、浜、入江、湊、島、波など。

  7)人倫(じんりん)は2句去り。ただし、これは蕉門では相当に自由で、打越を許
    しています。句数の決りもありません。人倫はいわば人と人との生活、関係を
    すべて言うので、蕉門が恋句とともに人倫句を重視して、その一巻に占める
    割合が高まることとなりました。猿蓑「鳶の羽も」の巻では六句連続の人倫句
    が一巻の白眉となって高い評価を得ています。

  8)異居所は打越を嫌わない。居所(いどころ)とは人の居場所、つまり御所とか庵
    とか長屋とか屋敷を言います。伝統的には「居所の体」「居所の用」と、佛教用
    語による区分があり、「体」と「用」が異なれば打越を嫌わないとする去り嫌の
    決りでした。人倫とともに蕉門では問題にされていませんでした。

  9)国名、名所は2句去り、句数1〜2句。現代では国内と国外でそれぞれ詠まれ
    ているようです。

  10)同生類は2句去り、句数1〜2句。異生類は打越を嫌わないとしたのも蕉門に
    よって弛められた去り嫌です。

  11)木類、草類は2句去り、句数1〜2句。木と草は打越を嫌わない。

  12)降物(ふりもの)、聳物(そびきもの)は2句去り、句数1〜2句。降物と聳物
    は打越を嫌わない。降物とは、雨、露、雪、霰の類。聳物とは雲、霞、虹、靄の
    類。現代では両者を天象と一まとめして打越を避けています。

  13)同時分は3句去り、句数1〜2句。異時分は打越を嫌わない。

  14)夜分は2句去り、句数1〜3句。場合によって打越を嫌わないとされています。
    夜分とは、神楽、明け方、ふくろう、七夕、稲妻、宵、闇、曙、暁、暗き、蚊帳
    など、夜に関する事柄や物、詞です。


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