歌仙1巻の構成のなかで、月と花の句の数と位置がおおむね定まっています。
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初折の表( 6句) |
5句目 |
(月) |
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初折の裏(12句) |
8句目あたり |
(月) |
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同 |
11句目 |
(花) |
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名残の表(12句) |
11句目あたり |
(月) |
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名残の裏( 6句) |
5句目 |
(花) |
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これを二花三月(にかさんげつ)といい、それぞれの位置を月の定座(じょうざ)あるいは花の定座といいます。ただし蕉門では、花は割合に定座を守っていますが、月はかなり自由に場所を変えています。定座より前にだすのを<引き上げる>といい、後にだすことを<こぼす>といいます。花は引き上げてもいいが、
こぼしてはいけない。月は引き上げても、こぼしてもいい、ということです。
【月の句】 以下は月の句のチェックリスト。
1)春秋夏冬どの月をだしてもいい。
2)発句が秋なら、原則として第3句までに月(秋の)を詠む。これは第5句の定座
を引き上げることになる。
3)発句に睦月とか霜月とか、いわゆる月並みの月(month)がでた場合、5句目
の定座に月の字をだすと表6句に月が2つになるので、定座では桂男(かつら
おとこ)とか玉兎(ぎょくと)などの異名を使う。
4)短句でだせないことはないが、長句のほうがいい。
5)定座で落月(らくげつ)や無月(むげつ)の句は詠まない。
6)秋の句を続けるとき(3〜5句)には、なかに必ず月の句を入れる。それがない
のを素秋(すあき)といって忌む。
7)星月夜(ほしづくよ)は秋の季語だが、直接に月を賞翫するものではない。これ
が発句にでたときは、脇以下の秋の句で月を詠まない(つまり素秋にする)。
ほかの季の句で有明など、月の句の代わりになるものを詠む。
8)宵闇というのは、満月以降、月の出が遅くなり宵のうちは闇夜であること
をいう。これが月の定座近辺にでたときには、これを月の代わりにして、
月並みの月を付ける方法がある。
9)前句によって付けにくいときは、心のなかで感じたり想像したりする月を付ける
方法がある。これを<思いあわせの月>という。
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名月の間に合わせ度(たき)芋畑 |
芭蕉 |
(「炭俵」"空豆の"の巻) |
10)月の字を一種の助字(じょじ)のように使う方法もある。これを<投げこみの
月>という。
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伏見あたりの古手屋の月 |
芭蕉 |
(「深川」"青くても"の巻) |
【花の句】 以下は花の句のチェックリスト。
1)定座の花の句は普通春季で、桜の花を詠む。必ず<花>という語を使う。
ただ<桜>といったのでは、正花(しょうか)(正式な花の句)にならない。
ほかの草木の花も、おなじく正花にならない。
2)4句目には花の句をださない。
3)月・花を結んだ句は1座1句。
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月と花比良の高ねを北にして |
芭蕉 |
(「阿羅野」"雁がねも"の巻) |
4)花に桜を付けるのは本来ご法度だが、花に実体がないとき、つまり<根なしの
花>には付けてもいい。
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辛崎の松は花より朧にて |
芭蕉 |
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山はさくらをしおる春雨 |
尚白 |
(「鎌倉海道」) |
5)花に吉野、吉野に花は付けないが、1句のなかに花と吉野が共存するのは
いい。
6)短句の花があってもいいが、好んですることではない。
7)月花1句のこと。月の句も花の句も独り占めにしてはいけない、という俳諧の
おきて。
8)花前(はなまえ、つまり花の定座の前)の句は、花の句が詠みいいようにする。
丈の高い植物、恋などもだしてはいけない。
9)一座に尊敬する人があって、その人に花の句を詠んでほしいときには、その人
の番の前に春季の句をだして、花を望む。これを<呼び出しの花>という。
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