連 句 入 門

中級編




      【13】 花と月の定座・二花三月(★★)


歌仙1巻の構成のなかで、月と花の句の数と位置がおおむね定まっています。

           
      初折の表( 6句)   5句目    (月)   
      初折の裏(12句)     8句目あたり   (月)   
       同           11句目     (花)   
     名残の表(12句)       11句目あたり   (月)   
     名残の裏( 6句)       5句目      (花)
           

これを二花三月(にかさんげつ)といい、それぞれの位置を月の定座(じょうざ)あるいは花の定座といいます。ただし蕉門では、花は割合に定座を守っていますが、月はかなり自由に場所を変えています。定座より前にだすのを<引き上げる>といい、後にだすことを<こぼす>といいます。花は引き上げてもいいが、 こぼしてはいけない。月は引き上げても、こぼしてもいい、ということです。


【月の句】 以下は月の句のチェックリスト。

  1)春秋夏冬どの月をだしてもいい。

  2)発句が秋なら、原則として第3句までに月(秋の)を詠む。これは第5句の定座
    を引き上げることになる。

  3)発句に睦月とか霜月とか、いわゆる月並みの月(month)がでた場合、5句目
    の定座に月の字をだすと表6句に月が2つになるので、定座では桂男(かつら
    おとこ)とか玉兎(ぎょくと)などの異名を使う。

  4)短句でだせないことはないが、長句のほうがいい。

  5)定座で落月(らくげつ)や無月(むげつ)の句は詠まない。

  6)秋の句を続けるとき(3〜5句)には、なかに必ず月の句を入れる。それがない
    のを素秋(すあき)といって忌む。

  7)星月夜(ほしづくよ)は秋の季語だが、直接に月を賞翫するものではない。これ
    が発句にでたときは、脇以下の秋の句で月を詠まない(つまり素秋にする)。
    ほかの季の句で有明など、月の句の代わりになるものを詠む。

  8)宵闇というのは、満月以降、月の出が遅くなり宵のうちは闇夜であること
    をいう。これが月の定座近辺にでたときには、これを月の代わりにして、
    月並みの月を付ける方法がある。

  9)前句によって付けにくいときは、心のなかで感じたり想像したりする月を付ける
    方法がある。これを<思いあわせの月>という。
            名月の間に合わせ度(たき)芋畑   芭蕉     (「炭俵」"空豆の"の巻) 

  10)月の字を一種の助字(じょじ)のように使う方法もある。これを<投げこみの
    月>という。
          伏見あたりの古手屋の月     芭蕉      (「深川」"青くても"の巻) 

【花の句】 以下は花の句のチェックリスト。

  1)定座の花の句は普通春季で、桜の花を詠む。必ず<花>という語を使う。
    ただ<桜>といったのでは、正花(しょうか)(正式な花の句)にならない。
    ほかの草木の花も、おなじく正花にならない。

  2)4句目には花の句をださない。

  3)月・花を結んだ句は1座1句。
         月と花比良の高ねを北にして    芭蕉     (「阿羅野」"雁がねも"の巻) 

  4)花に桜を付けるのは本来ご法度だが、花に実体がないとき、つまり<根なしの
    花>には付けてもいい。
         辛崎の松は花より朧にて      芭蕉       
          山はさくらをしおる春雨      尚白     (「鎌倉海道」)     

  5)花に吉野、吉野に花は付けないが、1句のなかに花と吉野が共存するのは
    いい。

  6)短句の花があってもいいが、好んですることではない。

  7)月花1句のこと。月の句も花の句も独り占めにしてはいけない、という俳諧の
    おきて。

  8)花前(はなまえ、つまり花の定座の前)の句は、花の句が詠みいいようにする。
    丈の高い植物、恋などもだしてはいけない。

  9)一座に尊敬する人があって、その人に花の句を詠んでほしいときには、その人
    の番の前に春季の句をだして、花を望む。これを<呼び出しの花>という。


⇒ 次のページへ


  目次に戻る
  表紙に戻る