連 句 入 門

上級編




  【17】 付けかた(★★★)


【歌仙・付けの種類】

二条良基の『僻連抄』(1345 ?)による最古文献による分類は15。
平付の句(ひらつけのく)、四手(よつで)、景気(けいき)、心付(こころづけ)、詞付(ことばづけ)、埋句(うづみく)、余情(よせい)、相対(あいたい)、引違(ひきちがい)、隠題(かくしだい)、本歌(ほんか)、本説(ほんぜつ)、名所、異物、狂句(きょうく)。ただしこれは付けの態度、表現、題材による分類が混在したもの。その後宗祇(-1502)の分類を経て、宗牧(-1545)が『四道九品』(しどうくほん)で、付けの態度を中心に添(てん)、随(ずい)、放(ほう)、逆(ぎゃく)の4つに大別したのが画期的だったがあまり普及しませんでした。

蕉風の付合(つけあい)に至った過程については、『去来抄』の説、「先師曰く、発句はむかしよりさまざま替り侍れど、付句は三変也。むかしは付物を専らとす。中頃は心付を専らとす。今は、移り、響、匂ひ、位を以て付くるをよしとす。」が革命的で、今日芭蕉を讃える源泉となっています。

つまり貞門時代が物付(ものづけ)、談林時代が心付(こころづけ)、いまの蕉門時代が余情付(よじょうづけ)または匂い付けと奥行を広げたことになります。

             
       <物付>     歌いづれ小町をどりや伊勢踊   貞徳  
             どこの盆にはおりやるつらゆき   同  
             

 小町+伊勢→貫之、踊→盆、というように前句のことばや物によって付ける。

             
       <心付>      子をいだきつつのり物のうち    宗因  
           度々の嫁入りするは恥知らず    同  
             

 前句のあらわす全体の意味や心持ちに応じて付ける、すなわち句意付けです。

<余情付> 移り(うつり)、響(ひびき)、匂ひ(におい)、位(くらい)の付けは、すべて広くいえば心付に含まれるが、談林風の心付が前句の意味内容に応じたものであったのに対して、蕉風のそれは前句の気分、余情、風韻を把握し、それに応え合い、響き合うものを付ける、これが余情付です。

付句を付けるというのは、まず付合(付けの種類)を物付にするか、句意付にするか、余情付にするかを決め、次に付心(つけごころ、付けの手法・態度)を決め、付所(付けの狙いどころと手がかり)を探してから、瞬時考えて句を作るという感覚的で、時には禅に通ずる暝想的な作業であり、その結果が付味(付けの効果)になります。

<付心と付所>付心と付所の分類としては、各務支考( -1731)提唱の七名八体(しちみょうはったい)説が合理的です。

  
  三法--
     
   | 有心(うしん)    | 其人(そのひと)    
|−有心付(うしんづけ)−− | 向付(むかいづけ)     | 其場(そのば)    
|   | 起情(きじょう) | 時節(じせつ)  
|    | 時分(じぶん)  
|  | 会釈(あしらい) | 天相(てんそう)  
|−会釈付(あしらいづけ)− | 拍子(ひょうし) | 時宜(じぎ)  
|  | 色立(いろだて) | 観想(かんそう)  
|    | 面影(おもかげ)  
|−遁句(にげく)−−−−− | 遁句(にげく) |  
      
      ↑七名   ↑八体 
       (付心)    (付所) 
       

  ●八体

  1)其人(そのひと)
    前句の人の状態を描写して付ける。下の付句の付心は有心。

          
       今日も浮世の晩鐘を聞く   (前句) 
      つくづくと木枕のかどまはしゐて   (付句) 
          

  2)其場(そのば)
    前句の人のいる場所を描写して付ける。下の付句の付心は会釈。

          
        今日も浮世の晩鐘を聞く    (前句)  
       湯あがりの簾にちかき草の花   (付句)  
          

  3)時節(じせつ)
    前句の状態の時節を手がかりに付ける。下の付句の付心は会釈。

          
        今日も浮世の晩鐘を聞く     (前句)  
       門松の雪も静かに年くれて   (付句)  
          

  4)時分(時分)
    前句の状態の昼夜、朝暮あるいは時刻を手がかりに付ける。ただし、この前句
    自身が時分の句なので、ここでは時分では付けられない。

          
        今日も浮世の晩鐘を聞く     (前句)  
          

  5)天相(てんそう)
    日、月、星、雨、風、陰、晴などを手がかりに付ける。付心は多く遁句。

          
       今日も浮世の晩鐘を聞く   (前句) 
      飛ぶ鳥の影もかすかに雲ちぎれ   (付句)  
           

  6)時宜(じぎ)
    俳諧で時宜というのは、その世、その時の風俗にかない、その座その折の
    時のよろしきにかなうものをいう。そういうものを付ける。付心は多く会釈。

          
        今日も浮世の晩鐘を聞く   (前句) 
       五月雨の美濃恋しくも旅に居て   (付句)  
           

  7)観想(かんそう)
    観想はもともと仏教語だが、俳諧では人世、世相に対する喜怒哀楽の情を
    観じること。これを述べて付ける。付心は多く有心。ただし、下の例では
    前句自身が観想なので、これに観想で付けることはできない。

          
         今日も浮世の晩鐘を聞く     (前句)  
           

  8)面影(おもかげ)
  故事や古歌などを使ってそれをおぼろげに表現しながら付ける。下の例は源氏の
  明石入道の面影。

          
         今日も浮世の晩鐘を聞く     (前句)  
        入道も娘に後世を取はずし    (付句)   
           


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