ちょう変小説
第2話
疑惑の弾痕

「大変です。うちの社長が撃たれました。助けて下さい。」 若い女の声だった。水谷と
金子は、現場にとんだ。ドアを開けると壁際に恰幅のいい男が頭から血を流しうつ伏せ
に倒れていた。床に血だまりができ、その大きさでその男がすでにこときれている事は
明らかだった。そばに、若い女が、両手で顔をおおい、震えながら立っていた。どうやら
電話をしてきた女らしい。「事情を詳しく説明して下さい。」金子が言った。 「知らない男
が突然、入って来て、ワルサ-で社長の額を一撃で打ち抜いて、ゆうゆうと帰って行きま
した。」女が答えた。金子が倒れている男の頭部を調べてみると、確かに弾丸は、額から
後頭部を貫通していた。部屋を調べていた水谷がその銃弾も、床の上で見つけた。「こ
の社長に恨みがある男の犯行なのか? 社長の交友関係を洗えば星もすぐわれるだろ
う。もう少し、詳しく彼女から聞いてみよう。」と、金子が思っていると、「おい、金子、これ
は何だ? ここにある、この壁にあるこの傷は?  これは、弾痕じゃないのか?」水谷が叫
んだ。金子が驚いて水谷の指し示す壁の傷の所に飛んで行った。「確かにこれは弾痕
だ。でも、なぜ、ここに弾痕が?  小さいけれど確かにこれは弾痕だ。彼女の証言通りな
らこんな、こんな所に弾痕が有る訳が無い。疑惑の弾痕だ。」 金子がつぶやいた。
その夜、勤務を終えた金子は、事件についてお互いの考えを交換しようと、銭湯に水谷
を誘った。湯船に浸かりながら二人は、疑惑の弾痕について、お互いの推理をのべあっ
た。しばし、意見を交換した二人は、湯船を出て、隣どうしに座って体を洗う事にした。
金子が頭を洗おうとしたとき、見るとは無しに、水谷の股間が目に入った。その時、なぜ
か三日前の夜の事が、思い出された。それは、金子が別件の捜査の事で聞きたい事が
あって水谷のアパ-トをたずねた時の事だった。ドアの前まで来てベルを押そうとした時
突如、中から怒鳴り声が聞こえてきた。「何よ、あんた、おなかの子供、自分のじゃない
って言うの?」「あたりまえだ! 誰の子か分かったもんじゃない!」「ひ ひどい!」その声と共
に若い女がドアを開けて飛び出して来た。金子に気が付いた水谷は、気まずそうに笑っ
た。金子は、その時の事を思い出し、水谷の股間を改めて凝視し、心の中でつぶやいた。
「これが、あの子にワルサをした疑惑の男根か・・・。」                      
                                     [完]
                 

トップぺ-ジへもどる