Wish!
「ん……………」 窓外から聞こえる小鳥の囀りで、黄天化(二十×歳・独身)は気持ち良く朝を迎えた。 「あ〜…、もう朝さ。」 う〜ん、と伸びをして起き上がる。 「………………あ〜…」 ぼんやりと霞みがかった頭で、天化は今日の予定を──空き部屋だらけともっぱら評判の 今日はたしか…天祥に乗馬を教えて、それから太公望のお忍び視察に付き合うはずだ。 寝ぼけ眼で布団を剥ぎ、寝台の端へと移動して立ち上がろうと前かがみで両足を床に べちっっっ! 派手な音を立てて、天化の顔は床に激突した。 「───────ってぇっっ!」 あまりの痛みに両手で顔を覆う。 じんじんと痺れるような鈍痛が、一番強打した鼻頭を中心に顔中に広がった。 「ったたたた…………。朝からツイてないさ〜」 すっかり覚醒した頭を二、三度振って、天井を見上げる。 ふと、天化の瞳が奇妙な違和感を感じた。 「………?」 なんだか目線がいつもと違うような──。いや、そうじゃなくて…。 自分の寝台は、こんなに大きかっただろうか? どう見ても、キングサイズ…。いや、まるで巨人用だ。 寝台だけではない。天井も椅子もなにもかもが、やけにばかでかく感じる。 「???」 わけが判らず、無意識の内に立ち上がりかけ……。 べっちーんっ! 「痛っ───っ!!」 先程以上に派手な音を立てて床石にぶつかった。 「もうっ、なんなんさ──っ!」 眦いっぱいに涙を浮かべ、立ち上がろうとして…。 手に触れる木綿の弛んだ感触に、ぎょっとする。 「なっなにさ、コレ───」 大きくなったのは、周囲だけではなかった。 寝間着がわりに愛用しているTシャツが両肩からずり落ち、天化の足元まですっぽりと さっき転んだのは、このシャツの裾を踏みつけたからだったのだ。 嫌な予感──というか嫌な確信が、天化の脳裏をツーステップで掠める。 「まさか………」 キングサイズになってしまった寝台に片足をかけ、天化は必死でよじ登った。 シーツに脚をとられて何度も滑り落ちそうになるのを天性の運動神経で堪え、なんとか 「お、落ち着くさ…」 何度も深呼吸を繰り返し、ゆっくりと目当ての物に近づく。 スプリングの効きすぎで転げ落ちそうになりながら、寝台の面した壁の鏡に手をかけた。 一瞬、すべて『無かった』ことにしてしまいたい衝動に激しく駆られてたが、覚悟を決めて覗き込んだ。 「………………うそ。」 そこに映っていたのは─── どう見ても、二十年は若返った──というより戻ってしまった、『在りし日の自分』の引きつった顔だった。 「っ、いっやぁぁあああぁ────っ!」 |