個性的な子供達、それを取り巻く大人達。登場人物の横顔です。
登 場 人 物
日めくりカレンダー
全登場人物
●学校の児童総勢38人+三郎。(学年は9月2日以降の記述に従う。下の表参照。※1)
6年生 一郎(孝一)
5年生 嘉助・三郎・きよ・ほかに5人
4年生 佐太郎・喜蔵・甲助・ほかに3人
3年生 かよ・ほかに11人
2年生 承吉・ほかに7人
1年生 小助・ほかに3人うち学年不明 耕助・悦治・五郎・嘉一・喜作・キッコ(喜っこ。喜作?喜蔵?いずれにしろ男子名)・さの(女子名)・コージ・リョウサク・吉郎・ペ吉
(作者の意識としては さのは五年、ぺ吉は三年であったらしい。※2)●先生
●三郎の父
●一郎の家族
兄さん・おじいさん(嘉助の祖父でもある)・お母さん●大人達
庄助・その仲間3人・見物人5〜6人+馬に乗った人1人・鼻の尖った人
本文内の学年などの表記
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1日 朝礼前 三郎 記述なし 嘉助は5年生 6年生は一郎 3年生はいない
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1日 朝礼以降 三郎は4年生 嘉助は4年生 6年生は 〃 3年生は いる
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2日 三郎は5年生 嘉助は5年生 6年生は孝一 3年生は 〃
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3日以降 三郎 記述なし 嘉助 記述なし 6年生は一郎 3年生は 〃
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主な人物
高田三郎
主人公。5年生。北海道から転校して来たという。初めは緊張していたらしいが物怖じしない。校庭を歩測するような行動、消し炭を筆記用に使うことなどから独自の世界、発想力を持っている印象を受ける。耕助との風に関する論争や鬼っこのやり方など頭の良さは隠せない。
都会的なものを備えているがひ弱ではない。みんなの分からないことを口にしたり、負けず嫌いで知ったかぶりを披露したり、やられたらやり返す遠慮のない図太いところがある。大人に対しても堂々としている。
いさかいの最後には素直に謝る潔いところや、鉛筆を取られたかよに同情する優しい面も持つ。9.1 教室に現れる。整列と始業式?に参加する。父と一緒に帰る。 9.2 登校し、「おはよう。」と言って校庭を歩測する。佐太郎に鉛筆を与える。国語、唱歌、数学。消し炭で運算する。 9.4 上の野原へ行く。競馬をしようと言う。逃げた馬を追う。(空を飛ぶ。) 9.6 葡萄藪へ行く。たばこの葉をむしる。栗を取る。耕助に雫をかける。風の論争をする。仲直りする。栗を分ける。 9.7 泳ぎに行く。みんなの泳ぎを笑う。魚を返しに行く。変な格好の人から守られる。 9.8 泳ぎに行く。鬼っこをする。嘉助を振り回す。不思議な叫びに震える。
(11日、父と一緒に去る。)(三郎の内面については下記三郎の見たもの参照。)
(“風の又三郎”としての三郎の言動の意味については鑑賞の手引き(2)嘉助の「風の又三郎」参照)
嘉助
準主人公。5年生。陽気で天真爛漫、おっちょこちょいでひょうきんな面もある少年。上級生らしい責任感もある。積極的で機転が利く敏いところもあるが感情が表に現れやすい。発言は軽く、思い付きを勇ましく口にし、いざとなるとすぐへこむ。学校の勉強はいまひとつらしい。三郎に興味を持ち、かつ好意的に接する。9.1 「風の又三郎だ」と叫ぶ。先生に三郎の名を訊く。 9.2 つむじ風を見て「あいつ何かするときっと風吹いてくるぞ。」と言う。授業で読本を読む。 9.4 丸太の棒を外す。逃げた馬を追う。昏倒する。三郎が飛ぶのを見る。「あいづやっぱり風の神だぞ。」と言う。 9.6 三郎を葡萄採りにさそう。 9.7 三郎を泳ぎにさそう。 9.8 鬼っこで三郎に振り回される。 9.12 一郎と一緒に登校し、先生から三郎の去ったのを聞く。
(「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」には"北風カスケ"の記述が見える。もし嘉助が又三郎と同じ風の仲間であるのなら、作品中嘉助が重要な位置を占め、三郎に異常な興味を示すのもよく理解できる。また角川文庫「ポラーノの広場」所収の同作品の注(大塚常樹氏)によると東北では寒がりのことを"カスケ"と言うという。なお、作者の母方の祖父の弟の三男に宮沢嘉助氏がおり、盛岡中学で作者の一年上級であった。)
一郎
6年生。ただ一人の最上級生らしく貫禄があるが独裁的ではない。分別があり慎重な性格。家庭でもしっかりと自立した行動をし、物思う年頃に差しかかりつつある。嘉助の従兄に当たり、よく行動を共にする。当初は三郎にライバル意識を持つ。9.1 窓の外から三郎を呼ぶ。朝礼後先生に三郎のことを訊く。 9.2 嘉助をさそい、校庭で三郎を待つ。鉛筆騒動を見て、変な気持ちがする。三郎が消し炭で運算するのを見る。 9.4 上の野原へ行く。逃げる馬を押える。嘉助を探しに行く。 9.6 葡萄採りに行く。 9.7 石取りをする。発破に出会う。変な格好の人から三郎を守る。 9.8 泳ぎに行く。 9.12 風の歌の夢を見て目ざめる。外へ出て嵐の様子を見る。急いで嘉助をさそって登校し、先生から三郎の去ったのを聞く。
(一郎のせりふ「わあ」、「わあい」、「うわあい」などについては注意する必要がある。標準語的に解釈するよりもむしろ「おい」ぐらいの意味に取った方がよい。)
(一郎の名前の変化については「風の又三郎」の謎風の又三郎の謎9月2日参照)佐太郎
4年生。行動力がある。上級生にも遠慮がない。妹(かよ)の鉛筆を取り上げるなどずるいところがある。毒もみをする。9.1 嘉助に対し「又三郎だなぃ 高田三郎だじゃ。」と言う。 9.2 妹の鉛筆をとろうとし、三郎の鉛筆をもらう。 9.4 上の野原へ行く。 9.6 葡萄採りに行く。 9.7 「あいづ、専売局だぞ。」と言う。 9.8 毒もみに失敗し「鬼っこしないか。」と言う。
悦治
宿題帖を忘れたりじゃんけんに失敗するなど、うかつな人物。9.1 やかましくして一郎に叱られる。宿題帖を忘れたと先生に名指しされる。 9.4 上の野原へ行く。「又三郎馬怖ながるじゃい。」と言う。 9.6 葡萄採りに行く。 9.8 じゃんけんに失敗し鬼になる。
耕助
利に敏い。狭量なところがある。三郎と風の論争をする。9.1 「お天気のいゝ時教室さ入ってるづど先生にうんと叱らえるぞ。」と言う。 五郎の足の指をふんで喧嘩となる。 9.4 上の野原の土手の丸太をくぐろうとする。 9.6 三郎を不本意に葡萄採りに連れて行く。たばこの葉を取った三郎をしつこく非難する。三郎と論争する。 9.7 三郎が一旦返した魚を取って来る。 9.8 「さっぱり魚、浮ばなぃな。」と言う。
ペ吉
尻馬乗りで軽い人物だが場の空気を読んだ物言いをする。9.8 耕助に続いて「魚さっぱり浮ばなぃな。」と言う。みんなに続いて「そでない。」と言う。
先生
言葉遣い(作者自身、教諭として授業時には丁寧な標準語を使ったと言われている。)からも察せられる実直な人物。マンドリンを弾くことや12日の格好からは案外な気の置けない地も伺える。9.1 子供たちを校庭に整列させる。教室で三郎を紹介する。三郎の父と挨拶を交わす。 9.2 複式授業を行う。マンドリンを弾く。 9.7 暑い中で授業をする。 9.12 早朝、くだけた格好で一郎たちに三郎が去ったいきさつを語る。
三郎の父
実のところは会社員かもしれないが、鉱山掘りで洋風なハイカラ趣味とは世間師的な山師を思わせる。9.1 教室の後に立ち、先生と挨拶し、三郎を連れて帰る。
(会社から電報で呼ばれ、11日に三郎と一緒に去り、またちょっと戻ってくるという。)鼻の尖った人
正体不明の男。さまざまに想像することができる。※39.7 生簀をかき回し、川を行ったり来たりする。専売局の人だと思われて子供たちに囃される。
このようにまとめてみますと、それぞれの子供たちの性格が面白いように浮かび上がってきます。
(作中に女の子の影が薄いのは、当時の男の子たちの遊びの世界に女子の影が薄かったことをそのまま反映しているのと同時に、作者の性向の反映でもあるでしょう。)なお、作者は自分の分身としてのキャラクターをそれとなく作中人物に与えていると考えられるふしがあります。
山村の子供ではない、町の子としては三郎に、
もの思う少年としては一郎に、
音楽好きであった教師としては先生に、
地質調査に歩き回ったころの自分としては川を歩く鼻の尖った男に※4、それぞれ人格の一部を託していると見ることができるでしょう。
三郎との関係
みんなが三郎をどう見ていたのか、日を追って見てみましょう。(人物は登場順。数字は行為の時間的順序)
9.1
一年生二人 1.三郎を発見し、恐がる
三郎
嘉助 4.又三郎だと叫ぶ 8.先生に三郎の本名を訊いて喜ぶ
佐太郎 11.嘉助に三郎の名は又三郎ではないと言う
耕助
女の子たち
一郎 3.最初に三郎に声をかける 10.三郎の父の仕事に興味を持ち、先生に訊く
五郎
嘉一
先生 7.普通に三郎を紹介する
きよ
キッコ
さの
悦治
喜っこ
三郎の父
コージ
リョウサク
他に子供たち 2.みんなはしんとなって何とも言えない 5.みんなもそうだと思う 6.みんなは興味を持って三郎をじろじろ見る 9.低学年の子らは何か恐いと思っている9.2
孝一(一郎) 1.三郎に興味を持ち、待ち受ける 6.又三郎かどうかわからないと思う 8.鉛筆騒動を見て複雑な気がする 9.三郎の消し炭を見る
嘉助 2.三郎に興味を持ち、待ち受ける 5.つむじ風を見てやっぱり又三郎だと叫ぶ
三郎
先生
佐太郎 7.三郎の鉛筆を強引にもらう
かよ
喜蔵
甲助
他に子供たち 3.みんなは三郎の突然の挨拶にとっさに答えられない 4.みんなは又三郎のほうを見るがもじもじしている9.4
一郎 2.三郎の言う事を訊き返す 11.嘉助に対し三郎は風の神の子ではないと言う
嘉助 7.三郎と一緒に馬を追って行く 8.三郎が空を飛ぶのを見る 9.三郎の姿を見て震える 10.あいつやっぱり風の神の子だと言う
佐太郎
悦治 4.三郎が馬を怖がるといって冷やかす
三郎
一郎の兄さん
耕助
おじいさん 6.嘉助と同様三郎にも優しく接する
みんな 1.みんなは三郎のうわさをし、三郎は正直だ、三郎が風を吹かせているなどと言う 3.みんなもわけが解らず黙ってしまう 5.みんなは三郎の言う競馬とはどうするのか解らない 6.みんなは三郎の勧めに乗る9.6
耕助 2.三郎を葡萄採りに連れて行くのを嫌がる 6.たばこの葉を取った三郎をしつこく非難する 7.水をかけた三郎を非難する 9.風について論争を始める 11.最後は三郎につられて笑い出す
嘉助 1.葡萄採りに三郎を誘う 5.たばこの葉を取った三郎をなだめるように言う
三郎
承吉
一郎 3.三郎がたばこの葉を取ったのでびっくりして非難する 12.三郎に葡萄をわけてやる
佐太郎
悦治
(小助)
みんな 4.みんなもたばこの葉を取った三郎を非難する 8.みんなは三郎と耕助のやりとりをどっと笑う 10.みんなは三郎と一緒に耕介の答えを笑う9.7
嘉助 1.三郎を水泳にさそう 7.三郎が魚を返したあとでぴょんぴょん踊る 9.三郎に専売局が捕まえに来たのだと言う
三郎
一郎 2.三郎になぜ笑うのかとしつこく訊く 3.泳ぎ方がおかしいと言われ、きまりが悪くなる 10.みんなに三郎を囲めと言う
庄助 5.魚を返しにきた三郎を奇妙な子だと思う
その仲間3人
耕助
見物人5〜6人
馬に乗った人
鼻の尖った人
佐太郎 8.あいつ専売局だぞと叫ぶ
他に子供たち 4.みんなは石取りに失敗した三郎をどっと笑う 6.みんなは魚を返しに行った三郎と庄助のやりとりをどっと笑う 11.みんなは三郎を囲んで男を囃す 12.みんなは男も三郎も気の毒なような気になる9.8
佐太郎
一郎 2.三郎と同じく毒もみから離れている 6.三郎に対し、みんなと相談している 9.三郎に捕まる
耕助
三郎
嘉助 1.三郎と一緒にさいかち淵へ行く 4.鬼っこで三郎を馬鹿にする 10.一人だけ捕まらずに逃げる 11.三郎に捕まり、引っ張り回される 12.もう鬼っこをやめると言う
ぺ吉 17.みんなのあとについて同じく否定する
悦治
喜作
吉郎 3.三郎に捕まって鬼になり、三郎の指図を受ける
他に子供たち 5.子供らは三郎の様子を恐がる 7.みんなは三郎に対抗し、ひそひそ話している 8.みんなは三郎に捕まる 13.小さな子らはみんな川原に上がる 14.みんなは三郎だけを対岸に残す 15.みんなは声を揃えて叫ぶ 16.みんなは叫んだのはお前らかと三郎に訊かれて否定する9.12
一郎 1.夢の中で風の歌を聞く 2.外の様子を見て胸騒ぎがし、急ぎ出す 3.お母さんに聞かれて又三郎のことを少し話す 9.三郎の去った理由をなおも訊く 11.嘉助と顔を見合わせる
おじいさん
お母さん 4.「又三郎」について見当がつかない
嘉助 5.先生に今日三郎は来るのかと訊く 8.飛んでいったのかと訊く 10.先生の説明を否定し、やはり又三郎だったと叫ぶ 11.一郎と顔を見合わせる
先生 6.嘉助に「又三郎」と言われちょっと考える 7.三郎の去った経緯を自然に説明する
三郎の見たもの
ものがたりは一郎や嘉助に代表される子供たちの側に沿って描かれている傾向にあります。三郎の側の思いや内面についてはほとんど描かれていません。
三郎はことの推移をどのように見ていたのでしょうか。想像してみることにします。( [ ] 内は行動。)九月一日
風変わりな教室のたたずまい。
人見知りする一年生のナイーブさ。
群れて騒ぎ、すぐに喧嘩を始める野卑な生徒らと理解困難な方言。
生徒らの無遠慮な好奇心と外来の者に対する不慣れな様子。
明日からどう振舞えばよいかという戸惑い。九月二日
挨拶を無視された屈辱。
無視するくせに関心を隠せない卑怯な生徒たち。
兄弟で鉛筆の取り合いをする粗暴さと貧しさ。
自分がどう反応するかという生徒らの好奇の視線。
平気で他人のものをくれというあつかましさ。
田舎の生徒の学力の遅れている程度。
[開き直って授業を受け始める態度]九月四日
約束が守られるかというかすかな不安と安堵、高揚感。
[急速に慣れ始めた態度]
[つい口に出したくなるひけらかしの癖、不慣れさを隠すための言わでもがなのつぶやき]
はじめて見る光景とみんなが馬に非常に慣れていることの驚き。
知らない世界へのかすかな脅えと自らの弱点をさらけ出した敗北感。
[とっさの思い付きでの逆襲](競馬)
うまくいくかという不安。
うまくいき始めた安堵。
一転、急激な不安の襲来。
無我夢中の推移、責任感の圧迫と破局の予感。
[茫然自失を必死にごまかす強がりの声](「おう」)
なんとか生き返りながら心底脅え切った心もち。
深い後悔の念。九月六日
かすかな不安も、名誉回復のための好機到来。
[またもひけらかしの性癖](「お母さんは・・」)
[名誉回復の自意識による奔放行動](たばこの葉)
不案内の領域に無知なことの再認識と跳ね上がりの後悔。
屈辱感と耕助に対する反感。
人による疎外を跳ね返す強がり行動と自然からの疎外の再確認(白い栗)。
[腹立ちによるしつこい報復]
勝利感と軽い後悔。
一転こちらの土俵に乗ってきた相手を勇んで迎え撃つ気持ち。
次第にやりすぎを収めたい気持ち。
[相手の返答を好機として収束を図る冷静さ。]
笑いによる終結の幸運と安堵。
[一気の謝罪]
交流の深まりに対する満足。九月七日
今日はうまくやろうという自覚。
やはりみんなの様子の違和感。(泳ぎ)
[思ったことを隠せない性格]
またも余計なことを言ったという後悔。
[しかし結局は開き直る性格]
[遠慮や逡巡に無縁ですぐ行動を起こす性格](石とり)
大人の世界に近づかず遠巻きにするみんなの行動様式の不思議さ。
隠れていずに大人の世界に近づかなくてはいられない気持ち。
それを遠巻きにしか見ないみんなに対する優越感。
再び大人を遠巻きに囃すみんなとは一線を画したい自分と、本音は少し恐い自分の乖離をどうしようもできない敗北感。
[強がり]九月八日
隠れて大人の不法行為を嬉々として真似するずるさに対する軽蔑感。
反動で、公明正大な遊びで思いっきり振舞ってやろうという興奮。
自分に近しい感じのする嘉助に対する近親憎悪的感覚。
興奮の末の敵対感から一気に変質した疎外感。
説明不能の恐怖。
最終的な失敗と挫折の予感。
三郎の性格を「雨ニモマケズ」に示された希求像に対照してみますと、いつも「自分を勘定にいれ」て行動し、周りから「誉められ」たいと意識している点において否定的に描かれていると言わざるを得ません。少なくとも一郎や嘉助たちの方が「デクノボー」と呼ばれるのにふさわしい存在です。
作者は三郎に自分の一部を託しているとすれば、その醜さをもはっきりと含めて託しているのだと言わなければなりません。
人間関係
一郎をリーダーとする子供たちの階層社会は自然な子供っぽさを備えています。上級生が喧嘩を止めに入るという健全さだけでなく、つまらない喧嘩がすぐ始まるという健全さも欠いてはいません。
いつも一郎を中心に行動するグループは、嘉助、佐太郎、悦治、耕助で、それに三郎が加わりました。悦治、耕助が4年生であると仮定すれば、4、5年生男子の半数を超えると思われます。
子供たちは全て天真爛漫な明朗な関係を築いているというわけではありません。耕助はちょっと利己的そうですし、佐太郎は一筋縄では行かなさそうです。正義感の強そうな一郎も9月8日の佐太郎の毒もみには口出しを遠慮しており、面と向かっての差し出がましい言動にも斜に構えています。
子供たちが厳しい労働に従事する姿はありません。作者はその学生時代、教師時代を通じて、農山村の児童労働の現実について良く知っていたはずです。しかしその種の場面を描くことはしませんでした。教師の優しい描き方とも合わせ、子供たちが伸び伸びと育つ環境を願う作者の理想主義を読み取ることができます。子供たちに対する作者の眼差しの色合いは文語詩「盆地に白く霧よどみ」※5にうかがえます。
9月4日、一郎(と嘉助)のおじいさんはよそ者の三郎に対し、「そのわろは金山堀りのわろだな。さあさあみんな、団子食べろ。」「さあ嘉助。団子喰べろ。このわろもたべろ。」と全く差別をしません。これはもし子供たちが遭難寸前であったという状況がなかったら、往々閉鎖的に過ぎると言われる日本の村社会の老人としては却って不自然なほどの開明さです。
しかしそんな大人達も当然穏やかな人間関係の内ばかりにあるわけではありません。おじいさんの「牧夫来るどまだやがましがらな。」は、村人と専門牧夫たちとの間のいざこざや価値観のずれを想像させますし、鉱山業に頼る村は発破の庄助のようないささかアウトロー的な労働者の存在も甘受しなければなりませんでした。
※1 「風の又三郎」の謎風の又三郎の謎9月1日、2日
※2 作品の成り立ち創作メモ
※3 作品の成り立ち先駆作品、おしまいにリンク、鑑賞の手引き(2)嘉助の「風の又三郎」、「風の又三郎」の謎隠されているもの9月7日、「風の又三郎」の謎風の又三郎の謎9月7日、SF風の又三郎九月七日
※4 作品の成り立ち先駆作品
※5 参考作品抜粋
次は ものがたりの舞台(1)