永久楽土
序章(1)
── ある時、まだ何もなかった世界に三柱の神々が降臨した。
神々は形を持たぬ無から、それぞれの持つ力により、数多(あまた)のものを生み出した。
まず、眩(まばゆ)き光輝を纏(まと)いし輝神が世界を照らし出し、光と闇を生み、陽と陰を生み、それに伴ってありとあらゆる属性が生み出された。
それを受け、唯一の女性体にして八本の腕を持つ地神が、そこから巨大な大地とそれを取り囲む海を創り出し、そこにその有する属性に合う無数の形あるものを生み、それら全てに生命の息吹を与えた。
しかして、世界には海と大地、そしてそこに生きる生き物が誕生した。
だが、生まれたばかりの生命は、まだ己すらも認識する事が出来ずに、虫も鳥も人間も同じようにただ大地を這いずり回るばかりであった。
そこで三つの眼を持つ理神は、生きもの達それぞれに名を与え、各々の属性に則した生活が送れるよう、時間や寿命、五感といった生きる上で必要となるものを与え、そこでようやく生きものは生を営む事、理に従い生きる事を知ったのである。
地神より生み出された大地は、美しくそして豊かに栄えた。
生きものはそれぞれ、それぞれに合った方法で神々を称えた。
鳥は歌い、木々はざわめき、獣達は野山を駆け、そして人間は神の御名を呼び、そして祈る。
世界は満ちたり、確かに争いや不幸がない訳ではなかったものの、それは欠ければすぐに補われるような、取り返しのつく類のものに過ぎなかった。+ + +
それから長い長い月日が流れ、やがて神々は思うようになった。
『このように美しく、安定したこの世界ならば、我々がいなくとも滅び去る事はないだろう。永久に幸福と平安が続くに違いない』
そして神々は、もはやそこに自らの手を加える必要はなしと、大地に生きる生きものの中で、最も賢かった『人間』に己の力の一部を残し、新たなる世界へと旅立たれて行った。
── だが、神は神であったが故に知らなかったのだ。
神々が力を託し、神が不在となった後の管理者たれと定めた『人間』が、神と同じ心を持つ訳ではなく、ほんの些細な事で傷付き、歪み── 壊れてしまうのだという事を……。
…しかして、神が不在となって幾千年が過ぎる頃。
神の御名すら留めぬ時代、起こるべくして悲劇は起こりぬ……──。
→Next