神の悪戯
終 〜神の悪戯〜
気がつくと、巡は寝台の上にいた。
反射的に飛び起きる。辺りをぐるりと見回し、確かに自室だと確認した後、徐(おもむろ)に頬を抓った。
── 痛い。
(…夢? 今の…夢だったのか!?)
現実を認識した瞬間に、巡はほっと安堵の息をつく。
(そうだよなー…夢オチだよなー。いくらなんだって、男が男に求婚なんて……)
あまりにリアルだったので、目覚めた今も心臓がばくばくと鳴っている。
額に浮いた冷汗を拭い、ふと見れば外はすでに明るくなっている。明るさから言うともはや昼近い雰囲気すらあった。
(……?)
ふと疑問が湧きあがり、巡は眉を寄せた。
(今のが夢だとして── 一体、何処から何処までが夢だったんだ?)
寝台に入った記憶がないばかりか、いくら考えても夢の始まりが何処からなのか判断出来なかった。
(…もしかして、栞が家出したのも夢で…祥に会った事も夢だった、とか)
そんな事を考えつつも、すぐにまさか、と否定する。
栞の事ならばともかく、今まで一度も行った事のない《天域》の事や、面識もない(しかも名前も知らなかった)祥の事まではっきり夢に見るはずがない。
だが、求婚された事までも現実にはしたくなくて、巡は頭を抱え込んで何とか思い出そうと試みる。
頭痛を覚えるほど真剣に悩んでいると、不意にノックもなしに扉が開いた。
「!?」
「あ、巡。目が覚めたんだ」
驚いて目を向けた先には見慣れた顔。耳に届いた声は明らかに現実のものだ。
「…栞」
名を呼んで確かめると、相手── 栞はいつものちょっと人を小ばかにしたような、悪戯っぽい笑顔を見せてくれる。
「卒倒したって言うから様子を見に来たんだけど…平気そうね」
「……卒倒?」
その台詞を聞きとがめ、巡は呟いた。
今言われた事は、ひょっとしてとんでもない事実を肯定するような内容を含んでいなかっただろうか?
だがそうは思っても、怖くて聞き返す事も巡は出来なかった。
「…どうしたのよ、巡。眉間に皺が出来てるわよ?」
指で自分の眉間を指差しながら、栞が覗き込んでくる。そしてじっとそのまま巡を見つめると、やがてふむ、と納得したように頷いた。
「もしかして、夢と現実がごちゃ混ぜになってるのかしら?」
そして巡の答えを待たずに安心して、と言って微笑む。
何を安心しろと言うのか、益々もって困惑を露わにする巡に、栞はその肩を軽く叩きながら言い放った。
「巡が卒倒する程、喜んだ例の話は現実よ♪」
「──……!?」
巡の時は停止した。
叩けばそのまま崩れてしまいそうな巡に、栞はにやにやと笑いながら、さらに追い討ちをかけるように続ける。
「まあ、巡ってば実際女になっちゃえば美人だし? 相手の人は目が高いわよね〜。あ、これから巡の事は『妹』って言わなきゃね」
「──……」
すでに栞の言葉は巡の耳に入ってはいない。
いや、入りはするがその意味を理解する事を完璧に拒んでいたと言うべきか。
(…嘘だ…これは何かの冗談だ、いや陰謀か!? どっちでもいい、絶対にそうだ〜〜〜っ!!)
心の底からそう思う。いや、そう思いたかった。
その内、栞が笑いながら何時ものように『あはは、今のは冗談よ。信じたの? ばかね〜』と言ってくれるのだと。
だが。
幸か不幸か、巡は本能的に気付いていた。栞が今回ばかりは本当の事を言っているのだと──。
(…神様。俺は…何か悪い事をしたんでしょーか……?)
まるで運命を定めると言う神が、悪戯でも仕掛けたかのようだ。いや…まさにそうだとしか思えなかった。
他人事と言わんばかりに、横でにこにこ笑っている栞の笑顔が恨めしい。
(こ…っ、今度は俺が家出してやるっ!! 家出してやる、絶対に〜〜〜っ!!)
そんな巡の魂の絶叫にはお構いなしに、新しい時間はゆっくりと流れてゆく。
新たに生まれた年は、波乱を巡の元に引き連れながら、これまでとは違う何かも運んでくる。
(ま、負けてたまるかあああっ!)
決意を込めて窓から見上げた空は、悲しい程に蒼かった。〜終〜
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After Writing
これを最初に書いたのは、97年の9月らしいんですけど…今何年?って感じ……(これもか・汗)
ちなみに当時のあとがきを見るに、これは私の書いた初めての『らぶコメ』だったみたいです
……コメの部分はわからないでもないですけど、これのどの辺が『らぶ』だと思っていたんでしょうかね…ふふふ(T▽T)
でも当時でもこの話が『変』だという自覚はあったようです…がふっ
この『神の悪戯』というシリーズのテーマってのが、そのものずばり『出会い』なんですけど、どうでしょう?
『出会い』と言っても一言に、男女の出会いだけを意味しませんが…「お約束」な展開でも、私なりに手を加えた結果がこれなんです
先は読めるけど、その過程が楽しめるものに出来たらいいなあとこのシリーズに関しては思っているんですけどねv
ちなみにこの『神の悪戯』は一応オムニバス形式なので、第二話は主人公が変わりまして巡の双子の姉・栞の放浪記(微妙に違)となります
現在こそっと続きを書き直しているので(…やっぱり97年に1度書きあがっていたのですが)ちょっと時間がかかるかもしれませんが、そこまでお待たせしないと思いますので良ければそちらも読んでやって下さい♪