翼の末裔

- 夢U-

 …ここは、何処だろう。
 足元に、何か大きくて黒いものがある。

 ここは…月。

 月?

 そう…そして、あの黒いものが、大地。
 呪われた、不浄の地。

 あれが…地上?
 あんな所に、人は暮らしているの……?

 そう── 毒に蝕まれながら。
 あれでもいくらか清められてはいるのだけれど…まだ、あんなに穢れている。
 あれが消えるまでに一体どれ程の時間がかかるのか…誰にもわからない。

 どうして、あんな風になってしまったの?

 それも、誰にもわからない。
 ただわかっている事は、ずっとずっと昔…月の民と地上の民が生まれた頃には、まだあんな風ではなかったという事だけ。
 何があって、どういう経緯で、地上があのように穢れたのか── 誰一人知る者はいない。

 あれでは…死んでしまう── 何もかも…人も生き物も。
 あれでは…狂ってしまう── 本来の在り方すらも。
 私の大切な大切な── 存在も。

 だから私達がいる。
 大事な存在を癒し慈しむ為に。

 その為に?

 そう…その為に、月へと私達は『帰る』事を決めた。
 遠く離れたこの場所で、『祈り』を形とする為に。
 
 どうして?
 地上ではどうしてそれが出来なかったの?

 仕方がないの── 地上の穢れは、私達の祈りすらも歪めてしまうものだった。
 穢れに染まってしまう前に、月へ帰らなければ…私達は……。

 私達は……?

 私達は──祈りではなく、あの穢れを受け止めてしまう。
 そして形を得た穢れは── 本来なら守られるべき人に向かう。
 穢れは形となり、呪いとなって…そして、また地上の穢れは増す。

 そんな……!
 何故、そんな事に?

 それは私達が、月の民としてよりも地上の民としての血の方を多く持つから。
 月の民の祈りの力よりも、地上の持つ穢れへの感受性の方が高いから。
 だから…。

 だから?

 だから私達は…唯一無二の《片翼》を守る為にもここへ来なければならない。
 出来るだけ、一刻も早く──。

 一刻も早く…でも、もう『月』── 帰る場所は、何処にもないのに?

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