桜と剣
#scene
ヨノイはさらに複雑な立脚点上にある。憂国の青年将校が蜂起した2.26事件当時に
「死に後れた」自己を抱える彼は自身の潔癖な観念的とさえ言える義務感を遂行しようとする。
捕虜の中から火器に精通する人物を選別せよという任務を遂行するため、捕虜のリーダーである
ヒックスリと致命的に対立して行くのである。

ヒックスリはあくまでも「西欧的主観」の人物として描かれ、「日本文化と西欧文化の相違の発見」
を持った人物であるロレンスと対照的に描かれている。

#scene
同性愛的事件の処断として、軍属カネモトの切腹が行われる。被害者と目されるデ・ヨンがカネモトの
死と同時に自死し、ヨノイと俘虜との葛藤が始まる。
ヨノイは俘虜に「行」(断食と謹慎)を強制し、自らも食を断ち身を律してその時間を過ごす。
だが、セリアズはデ・ヨンの葬儀(禁じられている)のために花を、病棟の俘虜達のために食物を運び込む。
査察により食物の持ち込みが発覚しヨノイはセリアズを懲罰房に収監する。
ロレンスもまた死へと繋がる収監を命じられる。

ヨノイのセリアズへの傾倒を案ずるヤジマ一等兵はセリアズを殺そうとして果たせず自決する。
ヨノイは大刀を以てセリアズに対峙するがセリアズは武器を捨てる。
ヨノイはセリアズに失望するのである。

ヨノイはセリアズの何に失望したのか。彼はセリアズを理解出来ない自らに失望するのである。
超然とした存在であるセリアズに対立者としてしか存在出来得ない自らへの失望と焦燥は
ヨノイを絶望的暴挙に駆り立てて行く。

ヤジマの葬儀に同席させられたロレンスはヨノイの矛盾に充ちた論理を看破する。
だが、ヨノイは国家をその若い背に負った青年将校である自らの立場から逃れる事は出来ない。
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