地球ゴルフ倶楽部 パー4
ヘローコース 16番

Golf on the Moon !


・・・アメリカの当局は日本のお役所と違ってユーモアの精神が横溢、ゴルフ狂のシェパード(アポロ14号のアラン・シェパード船長)が奇抜すぎる申し出をした3週間後にNASAのお偉方は次のように回答している。

 「月の重力は地球の6分の1に過ぎない。従ってボールは6倍の飛距離を見せるだろう。容易に想像されることだが、ロストボールを発見するために1000ヤードの道のりを走る必要に迫られる。余裕のない旅で、この贅沢は許されない。もし、ボールの行方に固執しないと約束するなら、大いにゴルフを楽しみたまえ」

 シェパードは、リバーオークスCCメンバーであり、当時ハンディキャップ「15」の腕前。許可を得て欣喜雀躍の彼は、敬愛するホームコースのプロ、ジャック・ハーデンに持参するクラブの改良を依頼する。限られたスペースの月面着陸艇にはクラブ1本積み込む余裕すらなかった。

 几帳面な性格で知られるハーデンは、着陸艇の図面に取り組むこと1週間、ようやく月面で土壌収集に使われるシャベルの柄に余分な空間があるとわかって、そこにクラブを装着することにした。なぜ6番アイアンに決定したのか、その経緯をめぐっていくつかの報道がなされたが、真相は至極簡単、彼は6番が得意だった。初めてクラブを握ったときが6番であり、決まってランニングにもこれを使い続けている。

 ハーデンは市販のヘッドに軽量アルミシャフトをつけることにした。カーボンは細工に難点がある。形態的に短縮しなければならないため三つに分断、テフロンでジョイント可能の1本を仕上げると、自分で300球も試打したそうだ。全体の重量は453.6グラムだった。

 アポロ14号による月面着陸には、これまで以上に各テレビ局が目の色を変えていた。なにしろABCの報道特番のタイトルに見られるように興味津々、話題はこの1点だった。
「Golf on the Moon!」

 何人かのコメンテーターが6番による飛距離を算定してみせた。それによると、シェパード船長の同クラブによる平均的な飛びが150ヤード。この根拠はハーデンの証言だ。重力が地球の6分の1として、単純計算では900ヤードのビッグヒットがお目見得することになる。一人の解説者が言った。「しかし、あの重装備では地球の6割程度しか振れないはず。良くても600ヤード前後ではないか」

 別な解説者は、うまく当たったと仮定して、当然ボールの上昇率も違うはずだからキャリーが大きくなる。多分1000ヤードは飛ぶだろうと予言、将来「ムーン・カントリークラブ」が建設されるとしたら、パー4の平均が2400ヤード、ロングホールは3000ヤード以上になるだろうと語った。

 さて、月面に到着したシェパードは、乗組員のエドガー・ミセルとスチュワート・ローザが土壌のサンプル集めに忙しいというのに、早くもゴルフの構えだ。さすがに持参した1ダース全部は気が引けたと見えて、ボールは3個だけポケットに用意された。最初の1個が足元に落とされると、すかさずエドガー副船長が言った。

「まだ打ってもいないのに、早くも泥まみれじゃないか!」
1発目は大ダフリ、2発目は少し当たって200ヤード、3発目は400ヤード以上だったと本人は言っているが、二人の目撃者によるとホコリがひどくてよくみえなかったそうだ。宇宙服がスウィングに適しているとは誰も思わなかったが、それにしてもパッティングすら困難なヨロイの一種だと船長は毒づいたものである。

 さて、無事帰還したあと、彼はゴルフの普及に貢献した歴史的人物として、メトロポリタン・ゴルフ記者会とゴルフマガジン社から表彰されることになった。と、そのパーティ会場にはるばるイギリスと総本家のロイヤル・アンド・エンシェントから1通の祝電が届けられた。普通、アメリカが演じるバカ騒ぎに対して白い眼を向けるはずのR&Aも、今度ばかりは妙に素直、ようやく快挙と認めた気配である。関係者は大いによろこびながら電報の封を切った。

「このたびの偉業とご帰還、誠に慶賀の極み、ここに謹んでお祝いを申し上げます」
なかなかいいぞ!と誰かが言った。R&Aだって全部が石頭とは限らないのさ、と別の者が呟いた。続いて電文が最後まで読み上げられた。

「さて、ご承知とは思いますが、ルール6条のエチケットに関する項目を持ち出すまでもなく、バンカーから離れる際、プレーヤーは注意深く自分の足跡をならさなければいけません。以上、ご忠告まで」
 一同、がっくりとうなだれた。・・・

「フォアー!」ゴルフ狂騒曲
夏坂 健著
1995年12月20日発行
新潮社より

ゴルフ規則
第1章 エチケット 
◎コースの保護

バンカー内の凹みと足跡
 プレーヤーは、バンカーから出る前に、そこで作った凹みと足跡を全部入念に直しておくべきである。
ディボットを元の位置に戻すこと:パッティンググリーン面のボールマークとスパイクによる損傷の修理
 プレーヤーは、(イ)スルーザグリーンで切り取ったり飛ばした芝生(以下「ディボット」という。)を直ちに元の位置に戻して踏みつけておき、また(ロ)球により作られたパッティンググリーン面の損傷も必ず入念に修理しておくべきである。なお、ゴルフ靴のスパイクによるパッティンググリーン面の損傷は、同じ組のプレーヤー全員がそのホールのプレーを終了後に修理しておくべきである。


16番ホール(パー4)あなたのスコアは、
・上記処置はもちろんのこと、他人が残した跡もならす。・・・3
・最低限自分が残した跡は処置している。・・・4
・時々忘れることがある。・・・5
・自分ではしたこたがない。キャディ任せかしらんぷり。・・・7

・15番ホールに戻る。
・トップページに戻る。
・クラブハウスに戻る。
・月に行く。
・17番ホールに進む。