地球ゴルフ倶楽部 パー5
ヘローコース 8番


和製ゴルフ用語を嗤(わら)え!ーその2


・・・「クロスバンカー」「ガードバンカー」も我慢ならない和製英語である。・・・どこにあろうとも、あれは全部「バンカー」であって、フェアウエイの右側とか、グリーン手前とか、その位置をいうのが正しい。
 ついでに申し上げると、多少なりとも深いバンカーと見るや、「アリソン」なる珍語を口にする人がいる。広野、川奈の富士コースの設計者チャールズ・ヒュー・アリソンが来日して造ったコースの中に、それまでにない深さのバンカーがあった。そこから由来したものらしいが、なに、本場に行けば5倍も深いバンカーがゴロゴロしているのが実情。おそらくアリソンが聞いたら赤面するに違いない。多少深いからといって「アリソンだア!」では、自ら井の中の蛙(かわず)だと叫んだも同然、みっともないからおやめなさい。・・・

 教授のいう「神物冒涜」は、まだまだ続く。思いつくままにイカサマ用語を拾い出してみると、「スライスライン」「フックライン」「バーディチャンス」「ドラコン」「ニアピン」「ナイスオン」「オーバードライブ」「ワンオン」「コンペ」「ティグラウンド」「シングル」「プラコン」「ハンディ」「ボギー」「ダブルボギー」「トリプルボギー」。すでにお気づきだろうが、日常的に使われているほとんどの用語がでたらめである。

・・・そもそもわたしからして「パー4のホール」と書いたが、これも慣例に屈服してのこと、正確には「パー」も間違いだ。・・・ホールに標準打数が決められたのは1890年のこと、イギリスでは「スタンダード・スクラッチ・スコア」、略してSSSと呼ばれる。現在でもコース案内にはこの文字が使われ、たとえば1994年の全英オープン開催コース、ターンベリーのアエルサコースは「SSS、70」と表示されている。パーはアメリカによる造語だ。本来はオペレッタの主人公で頑固者の「ボギー大佐」にコースをなぞらえて、ボギーが標準打数だった。

 これに対して1908年、全米ゴルフ協会では独自に「パー」が標準打数だと発表した。この際アメリカ側の距離規定が厳しく、イギリスで440ヤード、SSS5のホールがアメリカでは4とされた。この混乱の中、米国遠征中のイギリス選手が距離のあるホールを標準打数5でホールアウトしたと勘違いして、「ボギー」と申告した。そこは4が標準だった。それを聞いたあわて者の記者、ボギーが1打オーバーした場合の呼び方だと思って、「イギリス選手は中盤からボギーを連発、自滅した」と記事に書いた。

 ボギーがパーの正式名称だというのに、誤報によって1打オーバーの汚名が着せられてしまったのだ。こんにち、ここまでパーが定着した事情を考えると、いまさら「スリーエス」に戻すことは不可能だと思うが、イギリスは頑として譲る気配を見せない。物事は間違えた側が直せというのが論旨であって、まさに正論だが、今世紀中にケリがつくとは考えにくい話である。

 パーの誤りはアメリカに端を発したものだが、それ以外のイカサマ語となると心ない日本人ゴルファーによる神物冒涜が、いまだに大手を振って増長傾向さえ感じられる。
 たとえばテレビの解説者が平気でイカサマ語を並べる。「軽いスライスラインですね。絶好のバーディーチャンス、せっかくワンオンしてニアピン賞も手に入れたのだから、ワンパットで沈めたいところです」

 ここに登場した5つの用語すべてが和製英語、恥かしい限りである。スライスライン、フックラインはとくに多用される間違いだが、ただ単に「右に曲がる、左に曲がる」と言うべきで、なぜニセの言葉を使ってまで英語で言うのか、逆に知性が疑われるところだ。
 まず、「スライスライン」だが、ラインとはボールが転がったあとの軌道を意味する。打つ前に存在するはずがない。従って「ブレークライト」(右に曲がる)、「ブレークレフト」(左に曲がる)が正解であって、日本語で言うべきだろう。
「バーディチャンス」もでたらめ語、10歩譲って「バーディトライ」ならば国際的に通用する。

 次の「ワンオン」にいたっては噴飯物だ。「オン」という言葉が使われるのは、たとえば急斜面の上に小さく鎮座する至難のグリーンにボールが乗ったようなケースに限られ、普通はグリーンに乗るのが当たり前。ピンに近い場合だけ「グッドショット」「ビューティフル」などと、ショットのよさだけを称える。「ワンオン」なる言葉はゴルフの世界に存在しないのだ。

 「ニアピン」も和製英語であって、正しくは「ニアレスト・ザ・ピン」と言う。これも解釈を間違える人が多く、日本ではグリーン上にボールがないと資格を失うように思われているが、正しくは「ピンから見て最も近い人」に軍配が上がる。ラフであろうとバンカーに落ちていようと場所を問わず、ピンに近ければ勝ちである。
 これが記録に残るだけでも540年間の歴史を持つゴルフのキマリなのだ。勝手に変更する資格など、だれにもない。

 「ワンパット」もイカサマ語だ。「ワンストローク」が正しい。この場合も日本語で言うべきだろう。つまり解説者の発言を正しく表記すると、次のようになる。
 「軽く右に曲がりますね。バーディに絶好のチャンス。いい場所に乗せてニアレスト・ザ・ピン賞も獲得したのだから、1発で決めたいところです」

 簡潔にして正解、どこにもおかしいところがない。なぜ5つも間違いを犯してまで害悪をタレ流す必要があるのか、おしゃべり解説者の無責任こそ追及されるべきだ。彼はまた次のように言っている。
 「ファーストパットが、ことごとく弱いですね。さあ、セカンドパット、今度はしっかり打てるか!?」聞いた瞬間、椅子からズリ落ちそうになった。「ファーストパット」とはピンから最も遠い人が打つパットのこと、「セカンドパット」は2番目の人が打つパット、つまり順番を言うのである。なぜ「グリーン上の1打目」ではいけないのか。ウソを並べてまで英語を使いたがるエセインテリの精神構造にゲンナリして、わたしはテレビの音を消す。

 「ゴルフ用語は文化遺産である」トーマス・バルフォア教授は書いている。「たとえばティ(Tee)という言葉がある。その昔ケルト族の女は男の気をひくために、そっと彼の腕をティ(つねる)して頬を染めたものだった。ゲーリックの時代になると、女たちは野イチゴをティ(つまむ)してジャム作りに精を出した。
 やがて太古のゴルファーたちは、砂や草をゆび先で小さくティ(つまみ上げる)してボールを乗せると、そこからゲームを始めたのだった。ティの一語に1000年の歴史が宿るといって過言ではなかろう。ゴルフ用語とは、かくも畏敬すべき物なり」

 それを、わが国では勝手にティグラウンドと改名してしまった。「ティーイング・グラウンド」が正式な名称であって、面倒ならば「ティ」だけでもいい。

 「その人がゴルフについて語るのを聞けば、いかなる教養の持ち主か歴然と判明する。もしも飛距離、スコア、偶発的スーパーショットばかり自慢し、さらに怪し気なゴルフ用語まで並べ立てたならば、彼は真のゴルファーに非ず、せいぜい”ゴルファー気取り”と申すたぐいの輩(やから)なり」
 教授の筆先には凄味がある。彼はゴルフをフィルターにして、マンウォッチングの世界を愉しんでいたに違いない。

「王者のゴルフ」
知的シングルのすすめ
夏坂 健著
幻冬舎文庫より


8番ホール(パー5)あなたのスコアは、
・一点の曇りもなく正しいゴルフ用語を使ってきた。・・・3
・一、二の間違い以外正しい用語を使ってきた・・・4
・いくつかは間違いがあったが、正しい用語を使うように心がけてきた・・・5
・知らず知らず使ってきたが、今日からは正しい用語を使いたい・・・6
・あまり気にせずやっていきたい・・・7
・人の勝手である・・・8

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