「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2020年12月 7日


「火花」又吉直樹

担当 佐藤ル(石野)

<「火花」を選んだ理由>

 新しい方も増えましたので自己紹介を兼ねながら少し書きますので、お付き合い下さい。

 会員になり、約9年になりました。入会してしばらくすると、年に一度ほど読書当番が回ってきまして、 自分が当番になる時は、芥川賞受賞作or受賞作家の他作品から選ぶようにしました。 経済や政治の本(専門書ではなく新書の類い)の方が好きで、小説は今でもそれほど多くは読まないからです。

ですから、当番を契機にその作家について色々勉強しようと思いました。過去に、 丸山健二、中上健次、重兼房子、西村賢太、村上龍、町田康、永井龍男、中村文則を取り上げました。 芥川賞作品に拘る理由は、日本の純文学であること、長編ではないこと、瑞々しい文体と個性に触れられることなどです。新しい発見と共感は、私の読書の最大の楽しみでもあります。

 ということで12月の読書本は、又吉直樹の芥川賞受賞作「火花」にしました。

受賞したのが2015年(第153回H27年上半期)ですので、もう5年以上経ちました。 私は芥川賞が発表されるとそれが掲載されている文藝春秋の特別号を買うことが時々あります。 作者や内容に興味を持った時です。

 又吉の「火花」は前評判も高く、さっそく9月特別号を買ったのですが、 一度サーッと読んだだけで終わってしまいました。元々、漫才にあまり興味が無かったため、 場面のイメージが膨らまなかったことが一番の原因だったと思います。

 その「火花」が破格のベストセラーになり、翌年、Netflix(米国の定額動画配信サービス会社)で10話連続、 9時間近くのドラマが作られました。そのドラマをNHK編集版で観たのですが、俳優、映像、音楽、演出全てにおいて、 あまりにも面白く素晴らしかったので、改めて原作を読み直しました。

 又吉が太宰が大好きで心酔していることも知りました。現役時代の漫才のyou tubeを何本か観ましたが、 家庭教師や学校話がネタの下品さがない良質の漫才でした。

 この夏、「文横映画好きの会」では又吉原作の行定勲監督作品「劇場」の発表当番になり、 忘れていた又吉の小説に再び向き合うことになりました。 ドラマ「火花」(DVD5枚)と映画「劇場」(Amazon primevideo)を傍らに置き、 今回の文横52号は「文学作品と映像化」という随筆に挑戦しました。 映画の会、同人誌、読書当番、合計三度の発表の場を得ることになり、今年後半は暮れまで又吉一色になってしまいました。

「火花」まとめ 2020.12.7  石野夏実

 12月5日土曜日5時半から、いつもの県民センターで読書会が行われ参加者は新入会員になられた林さん(女性)を含め8名でした。遠藤さんからは、52号の流れと実物回覧があり、頂いているメール通りの日程で手元に届くとのお話がありました。感謝です。

コロナの新規感染者数や重症者、死亡者の数が連日大きく取り上げられ、神奈川の数字もニュースになる昨今、12月に入って初めての週末を迎えた横浜駅前はどんな感じかな、と思いながら乗客もまばらだった相鉄線を降りました。

冬の西口恒例イルミネーションは、ブルー一色でやや寂し気。例年なら、混雑する通路をすれ違う人とぶつかりそうになりながら歩くのですが、5日は人通りが少なくて、静かでした。一日も早くワクチンが行き渡り、コロナが終息し、居酒屋さんでまた会員の皆様と食べて飲んで大声で談笑したいと思いました。

以下、「火花」の読書会まとめです。

 掲示板に書かれている皆様の感想は、おひとりおひとりの文章による説得力が半端なく大きく、なるほど、なるほど、そう読まれましたかと頷くことばかりでした。投稿をありがとうございました。  

 <会議室での感想>

@映画で先に観ていた。書き方なども含め、太宰に傾倒している。タレントによってこの世界を語れる無二の存在であり中の世界を赤裸々に描いている。「劇場」の永田と重なり、異端児好きで彼らにスポットライトを浴びせたいのではないだろうか。

A内部から描いた芸人の世界は新しい。直木賞でもいけるのでは。会話のやり取りがプロで味がある。これは日ごろの鍛錬から。神谷に対する会話は、思いやりと優しさ。「劇場」の冒頭は太宰的であるが、沙希と会ってからは健康的になっている。

B火花はスパークスのこと。不完全な二人が出会っての、人と人とが関わって散らす火花。SNSに対する神谷の意見を読んで気持ちが分かった。

C受賞してすぐに読んだ。最初の方は面白かった。又吉という書き手が2000冊の本を読んだとか太宰が好きという軽さ。業界の軽さ。漫才師が小説を書くという話題性。次回、芸人から離れたものを書くことによって真の評価がなされる。

D体育会系っぽい。若者としての熱意は伝わる青春物である。

E漫才を真面目に丁寧に書いて文学にした。

Fどの程度、小説を方法化しているか。神谷を破滅的、徳永を調和的と分け計算し、私小説の形で表現している。作者の分身であるのだがモデルが判らないようにしている。太宰には、およばない。

*担当からの感想=「火花」「劇場」共に映像から入ったため、又吉の作品はドラマ化しやすいと感じました。2000年から2010年は、20歳から30歳の約10年間。それは、又吉が上京して苦労した青春の10年間であり、芸人としての下積み、相方、先輩後輩、仲間、周りの人々、アルバイト、ネタの創作と練習、読書、アパート、飲み屋、公園、街並みに出会った10年間。全てが、かけがえのない青春の記憶の宝庫。貧しく、忙しく、あるいは暇を持て余す時もあり、東京の街を歩き回り、まさにテクテク足で歩き回り、街を知ろうとし知り得た結果だと思いました。彼は、現在40歳ですが、昭和生まれの団塊ジュニアであり、戦後の昭和時代を知る最後の世代。それゆえ「火花」「劇場」は、昭和の匂いに包まれて私たちの心に届いたのかもしれません。

「掲示板」に書き込まれた内容

 ・リアル出席者(敬称略)
  浅田、遠藤、河野、金田、佐藤直、佐藤ル、山下憲、*林さん
  注)林さんは見学に来られた方です。

 ・「掲示板」での参加(順不同)
  山口さん、清水さん、成合さん、藤本さん、藤村さん、篠田さん

以上 石野 記



◆次回の予定;
  日 時;1月 9日(土) 17時半〜
  場 所;303会議室
      なお、「掲示板」による参加もお願いします。

  テーマ;「捉まるまで」大岡昇平
      ・新潮文庫『俘虜記』大岡昇平 又は
      ・集英社文庫『靴の話 大岡昇平戦争小説集』大岡昇平
      に『捉まるまで』が収録されています。

  担当者;山下さん

(文学横浜の会)


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