「文学横浜の会」
読書会
評論等の堅苦しい内容ではありません。2021年02月10日
「聖夜」佐藤多佳子
担当 清水
*読書会にこの作品を選んだ理由
何といっても読み終えた時の「出会った」という思いです。そして読書会というせっかくの与えられた機会に、この作者の他の作品も読みふけってみたいと強く思ったのです。
『しゃべれどもしゃべれども』『黄色い目の魚』『第二音楽室』『明るい夜に出掛けて』『一瞬の風になれ』と次々に読みながら、常に自分の中で深く共鳴するものを感じ続け、幸せな時間が流れました。皆様にとってはどうだったのでしょうか?
*作者の紹介
1962年 東京生まれ
1989年 『サマータイム』で月刊MOE童話大賞受賞
*作品について
主人公は18歳の鳴海一哉。父が牧師で母が元ピアニストという環境のせいで、記憶のない頃からピアノやオルガンに親しんできた。
父母の離婚で深く傷ついた一哉はキリスト教に反発し、ピアノやオルガンも弾かなくなったのだが、
同居する祖母にリクエストされてまた弾き始める。
そしてミッションスクールの通う彼は、学校内では聖書研究会に所属して神の残酷さ不平等さなどをあげつらい、
オルガン部の部長でもあるが、どの場にいても常に孤立している。
そのオルガン部に新しく若いコーチが入った事で、活動が活発になってゆき、文化祭でコンサートをすることになる。
一哉は難解でありしかも母が弾いていたことで複雑な思いを抱くメシアンの曲を選ぶ。
難しいこの曲を弾くことで、周りからは称賛を浴びるが、自身としては納得できない。
もやもやした気持ちを抱えながら礼拝の後奏にロックを演奏したことをきっかけに、
クラスの中不真面目な生活態度のため浮いた存在の深井と急速に親しくなっていく。
そして、部長という立場でありながら、しかも父や祖母も見に来た文化祭をボイコットしてしまう…。
一哉の心の揺れ動きに共感し、彼を取り巻く父や母、祖母、部の仲間たちやコーチ、初めてできた友人、
そして横断歩道で出会った通りすがりの老人まで、
人物描写がくっきりとしていて一人ひとりの個性がうまく生かされ、
かみ合いながら物語が動いていくのをワクワクしながら最後まで一気に読み終えました。
そして全く知らなかったオルガンの奥深い世界を垣間見ることが出来たのも魅力で、どんどん物語の中に引き込まれていきました。
ただ、キリスト教に関しては、反発しながらも自分の中の神の存在があることを感じてしまう一哉の心情に共感するものの、
もう一歩踏み込んではいなかったように思います。
*まとめ
「聖夜」の感想をお寄せ下さった皆様、ありがとうございました。直接お会いして意見を交換できないのは残念ですが、
じっくり読み返すことができるのはいいですね。
私はいまだに彼女の小説を次から次へと読みふけり、全作品を読破する勢いです。
以上 清水 記
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テーマ;「接木の台」和田芳恵(集英社文庫)
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