「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2021年03月08日


「接木の台」和田芳恵

担当 河野

<和田芳恵『接木の台』を選んだ理由>

和田芳恵は新潮社の編集者、樋口一葉研究者を経て57歳の時に『塵の中』で直木賞を受賞しました。昭和38年のことです。しかし、置屋から逃げ出す遊女と子持ちの中年男の話という、ふた昔くらい前までに書き古されたようなテーマで、荷風が読んだら苦笑しそうな作品でした。時の芥川賞は田辺聖子の「感傷旅行」でした。

『接木の台』は二十五歳の時に読みました。「読売文学賞受賞」でもありましたし、老人文学とか、何かと話題になっていたからだと思います。

暗いな、と思いました。しかし、私はなぜか、その暗さに惹かれ、単行本購入作家としていつか和田芳恵は三本の指に入っていました。蛇足ながら、以前選ばせて頂いた「黒髪」の著者・近松秋江を歌人・吉井勇は「腕細り 筆衰えたる秋江は 閨の怨みを又も書きつる」と詠みました。その神髄に通じるものがあったからかもしれません。

『接木の台』は作者68歳の作品ですが、老齢という重荷を背負わされつつも涸れきれずに、鎌首を持ち上げてくる情欲が、生きるバネになっているのだナ、などとその頃は思いました。しかし、今自分がその年になってみると、何とも言えません。

同じ編集者出身でも、文芸春秋社の永井龍男(二歳年上)は芥川賞・直木賞の事務を仕切り、自分でも小説を書く傍ら、選考委員まで勤めました。さすがに、芥川・直木賞は受賞しませんでしたが、文化勲章を授章しました。新潮社はやや日当たりがわるいようで、和田芳恵は出版屋を立ち上げたものの、借金地獄に見舞われ、所在を晦ます始末でした。

しかし、陽の目を見ることのない情欲も、持ち味の暗さも、懐かしい作家であることに変わりはありません。就中、女性には人気のない作家ですが、一葉研究の情熱に鑑み、このたびセレクションさせて頂きました。

<ありがとうございます>

「接木の台」の読後感をお寄せいただき、ありがとうございました。

読売文学賞と秤にかけても暗さが勝るのではないか、時節柄、読む人の気分をさらに暗くしてしまうのではないか、などと選択ミスを憂いつつも、毎朝、掲示板を開くのが愉しみでした。

なるほど、と感じ入る着眼もあれば、そうも読めるのかというご指摘にも出会え、たいへん勉強になりました。

人生経験に裏付けられた、この会の確かなレベルの高さに感謝です。

以上 河野 記

「掲示板」に書き込まれた内容

 ・参加者(順不同。敬称略)9日現在
 遠藤、浅田、清水、藤本、中根、佐藤直、
 石野、成合、林 、藤村、金田



◆次回の予定;
  4月は「文学横浜」52号の合評会を行う予定です。
  日 時: 4月4日(日)13時〜
  場 所:帆船日本丸 訓練センター内会議室 JR桜木町駅下車 5分
  ゲスト:秋林哲也氏

  但し、新型コロナの感染状況によって変更される場合もあります。

(文学横浜の会)


[「文学横浜の会」]

禁、無断転載。著作権はすべて作者のものです。
(C) Copyright 2007 文学横浜