「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2021年05月10日


「スクラプ・エンド・ビルド」羽田圭介

担当 遠藤

【選んだ理由】

 2016年12月17日に同作を原作とした73分の単発の土曜ドラマがNHKで放送された。ドラマ版では、監督を香坂隆史が務め、 主演:柄本佑の下で、山下リオ・浅香航大・秋元才加・浅茅陽子・山谷初男がキャストを務めた。
 これを偶然観て、なかなか面白いと感じた。
 本作は2015年には又吉直樹の『火花』とともに第153回芥川龍之介賞を受賞しており、最近バラエティーでよく目にしており、飄々とした一面が目立つが、作品はどんなものか興味が湧き、今回題材にさせてもらいました。

【皆さんから聞きたい内容】

・祖父は本心で死にたいと思っているのか?
・孫の健斗は祖父に死んでもらいたいと思っているのか?
・スクラップ・アンド・ビルドとはどういう意味なのか?
 皆さんから多くの感想をお待ちしております。

読書会まとめ

様々な意見がリアル、掲示板で寄せられました。皆様ありがとうございます。

(リアルでのご意見)

・本作は「愛憎とユーモラス」ではなく「悪意で殺人」である。
 離れてみると、「喜劇」かもしれないが近くで見ると「悲劇」である。
 主人公の健斗は肉体的コンプレックスを抱えている。
ラクビー部で鍛えられた肉体は命令されて築かれた張りぼての体。
健斗は自らの意志で鍛え上げ、いい肉体を築こうと考えている。
恋人の存在を性の対象としてしか見ていない。

・深み、感動は無かった。しかし、社会問題、老人問題をテーマに掲げており、芥川賞選考委員は将来性を期待して選んだのだと思う。
・意見で多かったのが、芥川賞選考委員の山口洋子の選評に同感であると言う意見だった。

(聞きたかった内容)

*祖父は本心で死にたいと思っているのか

・難しいところ。嘘ではないと思うが、いざ本物の死に直面すると、何とかして生きようとするのは人間の本能。
・そう思う時もあれば生きたいと思う時もある。自分の置かれている立場もしっかり把握している。死はすぐ隣にあることも承知。頭では死にたいと思うことがあっても、本当は死にたがっていない。
・「死にたい」という言葉からは、病者特有の鬱病的な深刻さは感じられない。漠然と死を願っている。実際の死に直面した瞬間、「死にたい」などと口外する気は無くなった。

*健斗は祖父に死んでもらいたいと思っているのか?

・祖父自身のために、本気で安楽死するのを手伝おうとした。
・苦痛や恐怖心がない穏やかな死、自発的尊厳死の手助けをしようと暇なので本気で色々考え実行もした。祖父が「生」にしがみついている姿を目の当たりにして、手を貸す方法を考えることはしなくなった。
・露骨に死んでもらいたいというのではなく、本人が望むならば死なせてやりたいと考えた。積極的な尊属殺人ではない、

*スクラップ・アンド・ビルドの意味

・いつ崩れてしまってもおかしくない大変な状況の中でも、そこから新たな明日に向かって生きていこうとする願いが込められているのではないか。
・筋トレの健斗には、筋肉はスクラップ・アンド・ビルドそのもの。健斗の稚気は始め祖父をスクラップとみなした。
・羽田氏は、ポジティブな「ビルド」が浮かんで、そのあと結局「スクラップ・アンド・ビルド」にしたらしい。
・破壊と構築の繰り返し。色々なものを壊しては組み立て直し歩んでいくのが人生。
・風呂場事件以降、祖父と健斗の言動にここまでとは違う前向きさが感じられることから、スクラップ・アンド・ビルドには、「再生・立ち直りの方向へと歩みはじめる」という意味が込められている。

私の感想

ドラマで見た時ほど面白いと感じなかった。ドラマでは主人公健斗を柄本佑が演じており、もっと面倒臭そうに、そしてもっと情熱的に祖父と向き合っていた印象を持った。原作は羽田の性格に近く、どっち付かずで、優しくもなければ、冷たくもないという刺激の弱い印象を持った。 面白いと思ったのは、祖父の「死にたい」を口癖にしているところと、いざ「死」に直面すると怖気づき、強情にまでに「生」にしがみ付こうとする言動である。 そのことに主人公健斗は最初気付いていない。祖父の言葉を真に受け「早くあの世に送り込んでやるのが自分の使命だ」と思い込む。そして甘やかすだけ甘やかし、自らで何もできない末路にしようと追い込むが、途中で死んでもいいやと思うことで祖父の「まだまだ生きていたい」という本心に気付き、長生きさせることを考えるようになる。 物語としては結局どっちなんだと中途半端な気持ちになるのだが、実際の高齢者とはまさしくこんな状況だろうし、介護する側も時に優しく、時に冷たくなるものだと気づく。そういった意味で、現代の同居する家族の実態が面白おかしく描かれているし、そして正職に就けない若者の不安定な感情が浮き彫りになっていると感じた。

以上 遠藤 記

「掲示板」に書き込まれた内容

・出席者(リアル、敬称略)
  遠藤、河野、金田、清水、林、山下憲、 *石田、成田

  注)石田さん、成田さんは見学に来られた方です。

 ・「掲示板」からの参加(敬称略) 8日現在
  浅丘、金子、山口、金田、藤本、和田、石野、清水、佐藤直、成合、

◆6月の予定;
  テーマ;平野啓一郎 「一月物語」
  日 時: 6月5日(土)17時半〜(リアル)
  場 所:かながわ労働プラザ 内会議室

  但し、新型コロナの感染状況によって変更される場合もあります。
  「掲示板」が主になります。リアル参加者も参加して下さい。

(文学横浜の会)


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