「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

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2021年12月08日更新


「錦繍」宮本輝

担当者 林

☆選んだ理由

20代の時に、友人より薦めてもらったのがきっかけです。
この一冊の本が、当時の私に、歳月のむごさや癒し、人とのつながりや別れ、文章の美しさなど実に多くのことを静かに優しく教えてくれました。
今でも不動のお気に入りの一冊です。

その自分が気に入っている作品ではありますが、皆様の感性や視点から、どう受け止めたか教えていただけますと幸いです。

☆テーマ

@「生きていることと死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれへん。」(勝沼亜紀)はどういうことと理解したり、感じたりしましたか?
A手術台に横たわっている自分を見つめている「もうひとつの自分」とは?
それについて、有馬靖明は「命そのもの」と述べているが、「命そのもの」とは何なのだろうか?

「錦繍」まとめ

 今回の参加者は、見学者1名を含め12人と、多くの会員の皆様にご出席いただきました。
河野さんと篠田さんがお久しぶりに参加され、外の寒さとは裏腹に温かく活気溢れる時間となりました。
お二人ともお変わりなくお元気そうで安心したのと、お久しぶりにお会いできて私も含め皆さん嬉しそうでした!

浅丘さん、会場までお越しいただいたのに、お会いできなくて本当に残念でした。

「錦繍」は宮本輝を好きな方々の間でも好き嫌いが別れる作品ではあると思いますが、様々な見方や受け止め方、意見・感想をいただきました。

☆意見・感想

・文章が美しい。
・亜紀と靖明は愛しあっていながらも納得しないまま離婚し、心残りを残したまま10年を過ごしてきた。手紙のやり取りを交わすことで過去と現在に向き合い、過去を肯定していくことでようやく自分の人生を再生させていく。
・亜紀と靖明の温度差がある。亜紀には未練があるように感じる。

・ストーリーテラーであり、小説の中の小説である。
・モーツァルトの話や令子の話など、話が拡散され冗舌過ぎているように感じる。くどさがある。それは宮本輝の初期の作品にみられる癖の一つでもある。
・亜紀は子育ての苦労、靖明は生活(経済的な)の苦労をしており、二人とも四苦八苦して生きている。
業(苦しみ)を背負って生きていくことが、死と隣り合わせであるようだ。
・靖明は亜紀、由加子、令子と女性から好かれているが、靖明の男性としての魅力が掘り下げられていないため分からない。
・起承転結がはっきりしていて、小説の組み立て方が素晴らしい。 転にあたる部分は令子が出てくる場面であり、令子が小説の柱となっている。

・令子は救いであり、マリア様(聖母)の役割を果たしていて、靖明に仕事を与えることが彼を生かすことにつながると分かっている。大阪の女性のたくましさを感じさせる。
・書簡体で話が構築されているのは、令子に読ませるためである。
・由加子の心中の理由に触れられていない。

・靖明が一人で嵐山の旅館に泊まるときの、後追い自殺をするのではないかという緊迫感が欠如している。
・生死とは何かというテーマが重すぎて、それを支えるだけの重みが文章にあるかどうか疑問である。
・人間の「業」がテーマである。
・女性によって救われるという男性にとっては都合のいい話である。

☆テーマ

@「生きていることと死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれへん。」(勝沼亜紀)はどういうことと理解したり、感じたりしましたか?

⇒産み落とされて生かされていき、自然界の一つの命として生死が繰り返されていくことを表す。
抽象的な表現であり、指し示すことをはっきりとしておらず、読者の体験や見識に判断や理解を委ねている。
仏教の輪廻につながることではないか。
死んでいる存在は由加子であり、亜紀の意思である。

A手術台に横たわっている自分を見つめている「もうひとつの自分」とは?
それについて、有馬靖明は「命そのもの」と述べているが、「命そのもの」とは何なのだろうか?

⇒立花隆氏の臨死体験でも語られるような生体に起こる化学反応なのでは。
仏教的な死生観があるのではないか。
死後も霊として、相手の心の中にいる。
悪が勝って、靖明に敢えて生を与え、懺悔と茨の道を歩ませる選択をさせた。

私自身は、「厳然と過去は生きていて、今日の自分を作っている。けれども、過去と未来のあいだに〈いま〉というものが介在している」という言葉が残り、過去は変えることはできないが、受け入れ、今を大切にしていくことで今後をよりよくしていくことができるのではないかと考えたり、また、死は全てを失うものではなく、死別したあとでも出会った人から受けた感情や教え、慣習は自分の中に生き続けて無くなることはなく、人の願いや思いは受け継がれていくものだと感じたりしました。
さらに、年齢を重ねて読み返すことで、以前とは違った感想や気づきがあり、読書の面白さを改めて感じた次第でした。
掲示板に書き込んでくださった会員の皆様、ありがとうございました。
皆様の感想の一つ一つにうなずかされたり、そうだったのかと教えていただいたことが大量にありました。

「掲示板」に書き込まれた内容

以上 林 記

 ・出席者(リアル、敬後藤、称略)
  阿王、遠藤、金田、後藤、河野、篠田、林、森山、中谷、中根、山下憲、岡*

  注;岡さんは見学に来られた方です。

 ・「掲示板」からの参加(敬称略) 5日現在
  遠藤、浅丘、金子、金田、清水、藤本、佐藤直、和田、石野、成合、

◆1月の読書会
  日 時;1月 8日(土)17時半〜
  場 所;かながわ労働プラザ 第8会議室
  テーマ;「夜叉ヶ池」泉鏡花、岩波文庫「夜叉ヶ池・天守物語」に所収。
      <担当者より>
      文語調が読み辛い方は、白水銀雪氏による現代語訳版が、
      Kindle版またはペーパーバック版にてアマゾン等に出品されています。
      担当者もKindle版を読んでみましたら原作に忠実で分かりやすかったので、
      併せて読むとよいかも知れません。

     リアルで参加できない方は「掲示板」に書き込んで下さい。

  担当者;篠田さん

(文学横浜の会)


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