「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2022年10月06日更新


「十二月の窓辺(『ポトスライムの舟』収録)津村紀久子

担当者 成合

「掲示板」に書き込まれた内容

読書会に提案した理由

 カズオ・イシグロの『日の名残り』の提案を終えると、次の担当の時の課題本のことが気になりました。 たくさんの本を読んでいないので困りました。コロナウイルスの前です。 職に就かず、ニトーになっている人、成らざるをを得なかった人。そのような人々が多くなっています。 これらを文学はどう捕らえているのか、知りたいと思った。紹介するにも読みやすい本をとされているので、 まずは芥川賞に良い本はないかと探しました。『苦役列車』とこの本がありました。

 二冊を読んでみました。『苦役列車』の大変さはそのまま伝わってきました。しかし、この『十二月の窓辺』では、 これでいいのだろうか? と言う疑問が日ごとに大きくなってきた。文学横浜の人たちはどう思うのだろう。聞いてみたい。 そう思いました。

 その順番が回ってくる間に、多くの人が会員になってくださった。コロナも起こりました。加えて難聴が進みます。 どうしょうかと迷いましたが、疑問はそのままです。 

 疑問に残ったのは、主人公がヨーグルトの菌を死滅させ、職場を去る。これらのことです。皆さんはどのように思われるか。 感想をお聞かせください。   これが提案です。

『12月の窓辺』読書会のまとめ

10月1日(土)の読書会、提案者の私が出席でなくて申し訳ありませんでした。出席された方々、感想を寄せていただいた皆様に感謝申し上げます。リアルの会の概要を金田さんに伝えて頂きました。それらも含めて感想のまとめを報告します。

作品全般について

パワハラ防止法(20020年)以前の作品(2007年)でもあるので、現在とはまだだいぶ様子が違うこともあって、作品が軽いのだろう。
人物の名前が全部カタカナ表記のため、男女の区別など人物が分かり難い。
作者自身の経験を踏まえて書いているということで、リアルな描写が見られる。
社会的に引きこもりとなる人が30万人を超すと言われ、家庭内殺人事件も起きているが、単なる殺人事件の扱い以上にならない現代である。蔓延する閉塞感にあっても、人は生きて行かなければならない。その問題性は大きいのであるが、作品はどこか軽い感じがしてもどかしい。
ナガトが通り魔であったというのも無差別殺人につながるものを想わせ、ことは重大なはずだが、意外だったぐらいで済ませている。作者としては、厭になったら辞めればいい。仕返しの一つか、バカヤロウと叫べばよい。心が軽くなるだろう。と言うあたりではないだろうか。
隣りのビルのシーンも良く分からない。
この程度のパワハラはどこにでもある。要は言い方だろう。

ヨーグルト菌死滅の件

ヨーグルト菌を殺すのは軽い仕返しと受け取られるが、作者にもそれ以上のことが考えられなかったのだろう。深読みをすれば、テロにも通じる。梶井基次郎の『檸檬』を追想された方も何人かいらっしゃると思いますが、私はそう思いました。場所が違うだけですが、危険物として、現代では機動隊が厳重な装備の基に撤去しただろう。レモンの香りがサリンでなかったので文学になった・・・などと。

文学修行の参考になるか。

藤原さんから貴重な紹介がありました。文章表現の一つと言うことです。要約しますと、文が全てツガワ、ナガセの視点から書かれている。これは「私」の視点としても同じ。三人称でもない表記にしたことで、対象に対する自由な距離感を獲得できた。良質のハードボイルド小説と共通する。レイモンド・ヤヤンドラーの『フィリップ・マーロウ』小説と共通点がある。一人称による長い長い独白形式。ナガセのフィルターを通して認識された世界の描写に類似なものを感じる。故に読める。と。

この紹介で『時を見つめて』を思い出しました。私はその第一巻すら途中で放り出しました。我慢をしていたら学ぶこともたくさんあったのだろうかとも思います。『フィリップ・マーロウ』を読んでみたいと思いました。今はまだ「『時を見つめて』を読んだら、百歳まで長生きさせてあげるよ」と言われるなら、「90歳に成ったら読みます」と答えようかとも思っています。

皆さんの感想をお聞きして、私のぼんやりとした疑問が明らかになりました。改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

作者紹介

津村記久子  1978年生 大阪市出身  大谷大学文学部国際文化学科卒業

概歴と作品


 2000年 就職、パワーハラスメントを受け10か月で退職
 2005年 『君は永遠にそいつらより若い』 太宰治賞
2008年 『ポストライムの舟』 芥川賞、野間文芸新人賞
2011年 『ワーカーズ・ダイジェスト』 織田作之助賞
2012年 専業主婦となる
2013年 『給水塔と亀』 川端康成賞
2016年 『この世にたやすい仕事はない』 芸術選奨新人賞
2017年 『浮遊霊ブラジル』 紫式部賞
2018年 『とにかくうちに帰ります』 エキナカ書店大賞候補
2019年 『デイズ・イズ・ザ・デイ』 サッカー賞

インターネットによる作者紹介
 会社員生活の経験をもとに、働く人々や女性を描いた作品が多い。
 近畿地方を舞台とした作品が多い。
スポーツ観戦が趣味。
就職した当時の経験は『十二月の窓辺』に描かれている。
経験したことだから結構うまい。       ・・・など。

以上 成合 記

 ・出席者(リアル)順不同、敬称略
  阿王、遠藤、金田、河野、山下憲(上条)、藤原、寺村(港)、野田(十河)、後藤、森山(大倉)、中谷、武内(原)、林  *高木
 注;高木さんは見学に来られた方です。

 ・「掲示板」からの参加(敬称略)10/02現在
  遠藤、中谷、阿王、寺村(港)、石野(佐藤ル)、藤原、金田、鶴見(山口)、森山

◆11月の読書会。
   日 時:11月 5日(土)17時〜
   場 所:神奈川県民センター内、会議室
   テーマ:「飼育」(『死者の奢り・飼育』収録)大江健三郎 新潮文庫
   担当者;佐藤ルさん

(文学横浜の会)


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