「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2023年 3月 6日更新


「城崎にて」志賀直哉

担当者 清水

「掲示板」に書き込まれた内容

読書会にあたってのレジメ

実のところ今回は「これを読書会のテーマにしたい!」という作品が思い浮かばず、様々な作家の短編小説を読み漁りました。
そうこうするうちに私の担当が目の前に迫ってきたため、昔読んで今も印象に残っている作品の中からこれを選ぶことにしました。 私が最初にこの作品を読んだのは、中学か高校の国語の教科書でした。 そしてその後も何度か読む機会がありましたが、読む度に生と死を見つめる静かな視線とありのままを表現する言葉に触れて、 私自身の視線も内側へと向かい、心がしんと静まっていく感じがするのです。
多分、殆どの皆さんが読んだことのある作品だと思いますが、この機会に読後感をお聞きしたいと思いました。

*読書会テーマ
 @ 読後感を教えて下さい。
 A この作品の優れている所はどこだと思いますか?

3月読書会「城の崎にて」を終えて

大勢の皆様の掲示板への投稿及び当日のご参加ありがとうございました。

作品の概要

 山手線にはねられて怪我を負い、その療養のために城崎温泉に滞在した折に出会った蟻の死骸、魚串を首に刺されて川に投げ込まれながらも必死で生きようとするねずみ、そして筆者が単に驚かそうとして投げた石でイモリを殺してしまった出来事の細部から目をそらさず描写しながら、それを自らの怪我や死と重ね合わせて命を見つめ、最後「三週間いて、自分は此処を去った。それから、もう三年以上になる。自分は脊椎カリエスになるだけは助かった。」と結んでいる。

当日の皆様のご意見・感想など

(できる限りご意見をメモしたつもりですが、聞きそびれてしまった事や、私の理解に間違いがあればご指摘ください)

 *当日のレジュメはほぼウイキペディアをコピーして作ったが、出典を口頭でのみお伝えしたため、記載する必要があるとご指摘を受けました。
 *この作品は随筆なのか小説なのか?
 *この作品の中に「淋しかった」という表現が出て来るが、「淋しい」ことを別の表現で表すのが文学なのではないか?
 *長女の死が作品に与えた影響は大きいと思う。
 *異端な作家だと思う。
 *ドラマ性がないので好きではない。
 *生死をあまりに達観している所が好きになれない。

 *観察眼がすばらしい。表現が上手い。
 *生死を見つめる静謐な感じが良かった。
 *正直な人だと思った。
 *感覚が研ぎ澄まされている。
 *新潮文庫の挿絵を描いている熊谷守一との共通点を感じた
 *短い文をたたみかけているのが良い。
 *こんな小説を書きたいと思い続けている。心境小説の名作。
 *私小説の最高峰。
 *本当に観た物をそのまま書いたとは思わなかった。(フィクションなのではないか)

最終的な私の感想

 この作品自体はとても短く、特にストーリー性も無いのに「なぜ私はこの作品に惹かれるのか」とこの間ずっと考え続けてきました。 感情移入をせず、淡々としながら細部まで見て描写する力は卓越していると思います。
でもそれだけなのでしょうか?「暗夜行路」をはじめとして彼の作品をできる限り読んでみました。 そして私なりに感じたのは、彼の視線が最終的には自分自身に向けられているという点です。
ありのままの自分を見つめるがゆえに、妻を傷つけ家庭に波乱を起こすとわかっていても、 浮気の顛末までも書いてしまったのではないかと私は受け取りました。 自分にとって本当の事は覆い隠すこともごまかすことも出来なかったのだと。 ありのままにすべてをしっかり見つめながら、最後には自分はどうなのかと深く問いかけている、 そこに私は惹かれるのだと思います。それは彼の特性でもあり、物語性が希薄になってしまうという限界でもあるのかと思いました。

 皆様のご意見感想をうかがいながら、志賀直哉という作家い関しては好き嫌いがはっきり分かれるなという印象を強く持ちました。 誰にでも好かれる作家というのもいないのでしょうが。私自身読んだ中ですべての作品が好きなわけではありません。
「范の犯罪」「児を盗む話」は読んだ後嫌な感じを受けました。自分の本当の気持ちだけを第一にすればよいのか? という大きな疑問が残りました。私自身はなかなか自分に正直には生きてこられなかったので、 正直さを求める気持ちは強いのですが、難しさも感じました。

 最後になりますが、貴重な体験・考察の場を与えて頂きありがとうございました。

以上 清水 記

 ・出席者(リアル)順不同、敬称略
  阿王、金田、河野、後藤、佐藤ル(石野)澤曲、、清水(いまほり)、高木、寺村(港)、中根(保坂)、中谷(池内)、林、藤原(上終)、森山(大倉)、山下憲(上条)、辻*、倉前*

  注)辻さん、倉前さんは見学に来られた方です。

 ・「掲示板」からの参加(敬称略)3/4現在
  阿王、港、いまほり、石野、藤原、金田、山口、和田、後藤、池内、森山、成合、津曲

◆4月は54号の合評会
   日 時:4月2日(日)10時〜18時
   場 所:神奈川県民センター内、会議室
   テーマ:「文学横浜」54号

(文学横浜の会)


[「文学横浜の会」]

禁、無断転載。著作権はすべて作者のものです。
(C) Copyright 2007 文学横浜