「貝塚をつくる」開高健
担当者 藤原
「掲示板」に書き込まれた内容
1. この作品を選んだ理由
開高健はコピーライター、ノンフィクション作家、釣り好き作家、人生相談回答者などで知られ、小説家としての認知度はあまり高くありません。私は学生時代(四十五年以上前)から開高の作品(小説、評論、エッセイ、釣り紀行など)を愛読してきましたが、これまで読書会では取り上げられていません。そこで今回、開高が最も文学的に円熟した時期の短編として本作品を選びました。
2.『貝塚をつくる』に関する課題テーマ
(1)この短編小説のモチーフ(創作の動機となること、作者が書きたいこと)は何だと思いますか? 自由に述べてください。
(2)開高健はコピーライターとしても活躍したように、文体、レトリック、語彙、表現に徹底してこだわった作家といわれています。創作をするうえで参考になった文章、表現などがあれば教えてください。また作品中、印象に残った場面はありましたか。
(3)その他、感想を自由にお書きください。
3.読書会出席者のコメント例
(1)小説のモチーフ、小説全体について
・開高の小説はフィクションとノンフィクションがある比率で混ざったものだろう。
・蔡との釣りの場面(全体の2/3)は実際体験したノンフィクション、無人島の青年のエピソード(全体の1/3)は伝聞などから創作したフィクションではないか。
・(上流階級に属する蔡だけではなく)ベトナムの漁師家族やドロップアウトした脱走青年など社会の底辺階級に視線を向け、その姿を描いた作品。
・ルポルタージュ等の経験を通じて獲得した開高の取材力はすごい。
・シリアスでも声高な表現でもないが、この小説のテーマは“反戦”ではないか。
・(ヘミングウェイにも通ずる)“男らしさ”の文学だろう。
・これが小説なのかエッセイなのか判然としない。エッセイのような小説として読んだ。
(2)文体、修辞法、創作技術について
・ストーリーが円環をつくらず一方向に進行する小説。「私」の内面にはあまり触れず、常に対象との距離を保ったまま対象を描写している。
・相反したり矛盾したりする言葉を書き連ねて形容する独特の文体(複数の方から同様のコメントあり)。
・自分にとって開高はアウトドア派で野性的なイメージの強い作家だったが、小説を読むと意外と表現がしゃれている。
4.まとめ
今回の参加者には開高の小説は初めてという方もかなりいました。とくにこの短編『貝塚をつくる』は初めて読んだ人がほとんどでした。
開高の文体はたたみかけるように饒舌で、ある意味アクの強さがあります。このアクが読者の好みの分かれるところでしょう。男性的に見える行動力の裏に繊細な感受性と詩情(ポエジー)をあわせもつ作家です。この濃厚な開高文学の世界を味わう機会になったとしたらさいわいです。
以上 藤原 記
・出席者(リアル)順不同、敬称略
遠藤、金田、河野、佐藤(杉田)、篠田、林、寺村(港)、
中谷(池内)、野田(十河)、藤原(上終)、中根、山下(上条)、*中川、*酒井
注) 中川さん、酒井さんは見学に来られた方です。
・「掲示板」からの参加(敬称略)6/3現在
藤原、いまほり、石野、港、池内、成合、杉田、森山、金田、遠藤、里井、原、十河、阿王
◆7月の読書会
日 時:7月 1日(土)17時〜19時
場 所:神奈川県民センター内、会議室
テーマ:「堕落論・続堕落論」坂口安吾 収録:『堕落論』新潮文庫、角川文庫等
担当者:寺村さん
(文学横浜の会)
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