「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2024年 3月06日更新


「水車小屋攻撃」エミール・ゾラ

担当者 篠田

「掲示板」に書き込まれた内容

読書会に当たってのレジュメ

フランスの文豪エミール・ゾラ(1840-1902)の短編『水車小屋攻撃』(1877)を2024年3月の文横読書会テーマにさせて頂きました。

本レジュメは、筆者が、ささやかながらゾラの作品や自然主義文学について読んだり映画で鑑賞したりしてきた遍歴に基づいて、筆者なりに作成致しました。
リアル読書会当日は、冒頭に、このレジュメ内の各項の続きを継ぎ足したものを発表する形で進行を務めさせて頂きます。その後はいつもの通り、ご出席の皆様に自由な感想を述べて頂きます。特に予め課題などの設定は致しません。掲示板掲載ももちろん自由とさせて頂きます。 なおゾラの生涯の概略についてはウィキペディア等を調べればすぐに分かることですので、ここでは省略させて頂きます。

【1】エミール・ゾラ文学との出合い
エミール・ゾラと言えば自然主義文学の提唱者で、その最も代表的作家である。人間や社会の現実の惨い側面を遺伝的要因や環境的要因による致し方のない結果としてさらけ出す特徴がある。
 筆者がゾラの作品を初めて読んだのは高校一年生の時(1970年代前半)で、それは代表作の『居酒屋』(1876)であった。小中学生の頃までは児童向け文学全集や推理小説ばかり読んでいたのだが、高校生になって一般向けの名作文学をランダムに読み始めた際の、その中の一冊であった。つまり一切の予備知識の無いままに『居酒屋』を読んだ為、そのインパクトは凄まじかった。(つづく)

【2】ルーゴン・マッカール叢書について
またその時に文末の解説を読んでゾラが自然主義文学を提唱し、実践しようとして著したルーゴン・マッカール叢書(1871-1893)のことも知る。それはフランス第二帝政期を背景にしたルーゴン家とマッカール家の人たちの歴史、運命を扱いながら、その時代の社会を描き尽くすという試みの叢書で、全20作からなっていた。そして『居酒屋』はその第7作であり、その中で登場していたジェルヴェーズの幼気な娘アンナが、後に第9作『ナナ』(1879)の中で主人公ナナとして登場することも知る。(つづく)

【3】自然主義文学に関連して
実は筆者自身、二十代に入ると、美術を専門に選んだ影響もあり、現代アートの潮流への強い関心が文学にも結びついて、美化を徹底的に否定する自然主義とはむしろ真逆な、デカダンや耽美主義(もっと言えばシュルレアリズム、象徴主義、ダダイズム等々)の面白さに目覚めてしまい、自然主義文学への関心は一旦遠のいていった。思うに、自然主義文学の特徴の一つは、やや生真面目過ぎるところである。それともう一つは、時として内容が終始悲惨、醜悪過ぎることであろうか。ゾラや(同じ自然主義文学作家の)ギ・ド・モーパッサン(1850-1893)のような余程のストーリーテラーによる作品でない限り、中々食指は動きにくい。(つづく)

【4】ルーゴン・マッカール叢書が部分的に鑑賞できるゾラ原作の映画
高校生の時以来、ゾラという名、『居酒屋』といタイトルが、忘れ得ないものとなったことが幸いし、その後1970年代半ば当時、偶然新聞のテレビ番組欄でルネ・クレマン監督、マリア・シェル主演の『居酒屋』(1956)が深夜映画として放映されるのを見つけて鑑賞する幸運に巡り合った。映画『居酒屋』はその前後にも何度かテレビ放映されていたものと思われたが、まだビデオデッキが一般に普及する前のことで、簡単には過去の名作映画が観られない時代だった。
映画『居酒屋』は、『禁じられた遊び』(1952)の四年後、『太陽がいっぱい』(1960)の四年前に当たるルネ・クレマン監督全盛期の作品で、見事な出来栄えであった。ゾラ熱が再燃した筆者は、ゾラに一層注目するようになり、1980年代になってビデオが一般に普及し始めて以降は、断続的にゾラ原作の映画ソフトを鑑賞するようになった。(つづく)

【5】日本の自然主義文学について
さて、一見対照的な自然主義文学と耽美主義文学とには、それぞれに良さがある訳だし、奥底に社会への問い掛けが発せられたり潜んでいたりする場合が多い点においては共通しているものと筆者は考える。そうした意味でも両者を好むことに何ら矛盾はない。ただ前者は生真面目だがやや硬くて悲惨過ぎる傾向が感じられるのに対し、後者は自由、柔軟で、洗練されているが、時に奔放過ぎ、退廃的過ぎる側面もあるというのが筆者の受け止め方である。やはり両者共に一長一短があって耽美主義文学好きの筆者もそればかりに傾倒しているとやや食傷気味になることがある。
だから偶に自然主義文学を求めたくなる渇きのようなものが生じる。例えば日本の自然主義文学の代表的作家とされている国木田独歩や田山花袋を筆者はとても敬愛している。(つづく)

【6】『水車小屋攻撃』について
 以上【1】から【5】までに、テーマ作品『水車小屋攻撃』にまつわる作者ゾラや自然主義文学についてなどの周辺的なことを述べて参りました。筆者のやり方として、リアル読書会の前に『水車小屋攻撃』自体については、何も述べないでおくことにさせて頂きたいと存じます。(後で改稿)

それではリアル読書会当日、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

『水車小屋攻撃』についてまとめ(抜粋)

 今回の読書会テーマでは、ゾラのこと、代表作『居酒屋』と『ナナ』のこと、ルーゴン・マッカール叢書のこと、 自然主義文学のことを主にして取り扱いたかったのが本当のところであった。 テーマが短篇、掌編に限られていることから 『居酒屋』や『ナナ』の替わりに『水車小屋攻撃』を選んでいることをお断りしておかなければならない。

 その上で『水車小屋攻撃』について筆者なりに感じた特徴を列記したい。

・ゾラの脂に乗り切った時の作品
『居酒屋』が1876年初出で、『水車小屋攻撃』は1877年初出なので、ゾラが脂に乗り切った時の作品であることは確かであると思われる。

・シンプルで分かりやすく読者に親切
とてもシンプルで分かりやすい内容である。所収のその他の短編もバラエティには富んでいるが、共通するのはそこのところである。思うにゾラは大文豪なので、短篇、掌編を作る時は、恰も画家や音楽家の巨匠が小作品を作る時と同じように、良い意味で力を抜き気味にサラサラッと作っているように思える。

もったいぶらず、ほとんどの所収短編作品の最初の方で、いつ、どこで、誰が等の5W1H的なことをどんどん伝えてしまっている。登場人物も極めて少なく絞られている。これは読者に対して親切で、非常に読み易いものとなる。

・読者を飽きさせない
余計な話は省き、遠回しな話は避け、逆にスリルのある部分では二転三転させたり大胆でドラマティックに展開させたりしながら詳述しており、シンプルで分かりやすい一方で、読者を飽きさせない工夫をしている。

・構成がしっかりしていて落ちがある
ハラハラとさせ、引き込ませていき、ギリギリまでハッピーエンドに行くかと思わせておいてアンハッピーエンドとなり、落ちで終わる。落ちがあるということは、裏返せば構成がしっかりしているということでもある。そうしたところはほぼ同時期に著された長編『居酒屋』とも非常に共通していることが分かる。

・強烈な皮肉で表した反戦
 序盤から中盤に掛けてはフランスの豊かな自然に囲まれた長閑な村の風景が描写され、鄙びてはいるが良く働いている水車小屋とその行き届いた手入れをしてきたメルリエ爺さんが象徴的な働きを持つ展開が続く。そこに若い男女フランソワーズとドミニクの恋愛模様が絡み、平和な楽園そのもののような情景が映し出される。

 それが終盤に差し掛かると、普仏間の戦争の波が村に押し寄せて一気に暗転に向かう。平和で牧歌的象徴である水車小屋は結果的に普仏両国からの滅多打ちの攻撃に合う。せめて若者たちや爺さんが生き延びるのか否かの二転三転のアクティブでスリリングな展開が起こる。しかし最終盤で爺さんと若い男性の方は犠牲になってしまうというゾラ特有のアンハッピーエンドが用意される。そして最後の最後に局地的に偶々勝利したフランス軍隊長が「大勝利、大勝利」と叫んで結ばれる。強烈な皮肉による落ちが用意され、暗に反戦が示されるのである。

 内容はとてもシンプルで分かり易いにも関わらず、中盤までと終盤とが極端なコントラストのある構成になっていて、それが読者の情動を揺さぶる効果をもたらし、小説を魅力的なものにしている。 
以上

全文はこちらから

◆3月読書会
  日 時: 3月 2日(土)17時〜19時
  場 所:神奈川県民センター内、会議室
  テーマ:「水車小屋攻撃」エミール・ゾラ、岩波文庫
  担当者:篠田さん
  出席者:(リアル)
   阿王、金田、篠田、寺村(港)、藤原(上終)、中谷、中川(野守)、
   酒井(里井)、佐藤直(杉田)、福島、森山(大倉)、*山口

  注;山口さんは見学に来られた方です。

 ・「掲示板」からの参加(敬称略)3/3現在
  池内、野守、由宇(ふくしま)、港、克己、森山、上終、十河、里井、成合、金田、山口(鶴見)

今後のスケジュール

(1)4月は「文学横浜」55号の合評会です。
   日 時: 4月7日(日)9時〜18時
   場 所:かながわ労働プラザ  JR石川町駅、下車
   テーマ:「文学横浜」55号

(2)5月読書会テーマ
   「野火」大岡昇平 新潮文庫、等
   Amazonに廉価本あり。近くの図書館もご利用下さい。
   担当者:佐藤直さん


(文学横浜の会)


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