「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2024年 5月16日更新


「野火」大岡昇平

担当者 佐藤直(杉田)

「掲示板」に書き込まれた内容

なぜ、この本を

連日、戦争の報道がされている。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ地区への空爆が連日報道されている。戦争は大量殺戮である。異常事態のはずだ。世界の軍事費が拡大し、過去最高となっている。
そんな中、戦争文学の代表的な作品といわれる「野火」を読んでみたいと思った。

読み方は、色々であって良いと思う。課題はしいて言えば小説の作り方。自由な感想をお願いします。
大岡昇平作品が読書会に取り上げられるのは三作目である。「武蔵野夫人」が篠田さん、「捉まるまで(俘虜記)」が山下さんにより、紹介された。教えられることが多かった。マクロ的、俯瞰的な見方と細部の描写、一瞬の出来事を、時間を止めて徹底的に描写する事があって良い。いや、それこそが小説だと言った小説の作り方などが、議論されてきた。

 「野火」は野火の燃え上がる原野を敗残兵がさまよう物語である。作者は「俘虜記」と「武蔵野夫人」の二作品の成功に自信を得て、日本語による小説の可能性を広げようとして、それが成功している。自身の経験を含めた、事実に基づく徹底した取材、小説的考察によって、人間とは何かに迫っている。
・多くの日本人が犠牲になった先の戦争で得た貴重な贈り物だと思う。
・横井さん、小野田さんが比国の森で発見された時、不思議な感覚があった。小野田さんが逃亡中、楽しいことは何も無かったと言ったとき、同情した。
・見る夢の中に、罪と罰の主人公モノと並んで、「異国を敗走する自分」モノがある。たいていは寝苦しい時で、もう、ダメだ、逃げ切れないという時に目覚める。夢だったとのかと気付いた時の安堵は幸せ感だ。あまりの迫力に汗だらけだ。
・小説の作り方が議論になると思う。舞台を設定して、登場人物を投げ込む、反応はどうだろう。

読書会のまとめ

こんな狂気の物語を読書会テーマにして、何人の方に読んでいただけるだろうか。きっと少数の読書会になるだろうと臨んだ。予想に反して、十五人の人が参加した。しかも、十五人全員が読んで来られた。
しかも、誰もが、「人間がとらえられている」名作としてと評価されていた。さすが、大岡昇平の作品が三回目とあって、「俘虜記」「野火」「レイテ戦記」のそれぞれの発生の経緯とその位置付けも発表され、教えられることがあった。
これこそが、小説であり、文体、レトリックに創意工夫がある。設定の巧妙さ、自然描写、心理描写が素晴らしいとの意見があった。
さらに、左手が右手をつかんで人肉嗜食を止めるなどの小説的表現に賛辞があった。
・自身の体験として親の世代の戦争体験の披露がなされた。それぞれ重い言葉であった。
シベリアに抑留され、帰ってきた伯父はパンの耳が捨てられるのを見て、「シベリアでは、この一かけらで喧嘩した」と呟いたという。そんな青春だったのだ。
また、自身が幼児の時、父を亡くした。その父は戦場から帰国した人であった。「青春時代を奪われた」と嘆かれていたという。
親の世代の戦争体験はまだまだ続きそうだったが時間切れとなった。
 我々の親の世代が経験したあまりに生々しい戦場を映したこの小説を読むのはつらい。。帰還した人の多くは、冗談のように話すことはあったが、本当のつらい具体的な体験は家族に何も語らないことが多かった。この本は証言記録でもあるのだろう。
以上

◆5月読書会
  日 時: 5月11日(土)17時〜19時
  場 所:神奈川県民センター内、会議室
  テーマ:「野火」大岡昇平 新潮文庫、
  担当者:佐藤直(杉田)さん
  出席者:(リアル)順不同・敬称略
   江頭、金田、篠田、寺村、藤原、中谷、中川、清水、河野
   鶴見、佐藤直、森山、林、山下、野田、

 ・「掲示板」からの参加(省略)

今後のスケジュール

(1)6月の読書会
  日 時: 6月 1日(土)17時〜19時
  場 所:神奈川県民センター内、会議室
  テーマ:「墓堀り男をさらった鬼の話」「信号手」
       「ディケンズ短編集」岩波文庫  より
  担当者:林さん

(文学横浜の会)


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