ブリ語入門3

2004.11.07  


 

7 .介入ブリ語

 
 

実際のオークションでは,オポーネントがオークションに参加します.そして,コントラクトを買おうとしたり,相手側のオークションを妨害して適正なコントラクトを買わせまいとします.

オープンした側は既に情報を交換しているので,地の利を占めてます.介入する側のビッドレベルは高くなります.従って,確定ビッドで介入するのがの望ましく,スーツが強いとか,HCPが多いとか,トリックを確実にとれるハンドでオークションに参加する必要があります.

基本ブリ語で一番多く使われるのは,1レベルのスートオープンのケースです.これは,不確定ビッドです.そのため,パートナーは6ポイント以上あればレスポンスします.

したがって,基本ブリ語は介入する側で使うには不適当です.

また,介入する場合はダブルやキュービッドを使うことができます.

したがって,オークションに介入する時は,コールの意味や働きが基本ブリ語と違うブリ語が必要になります.

この種のブリ語を「介入ブリ語」("Defensive bidding" に相当します.)と呼ぶことにします.


 
 

7.1.介入方法

 
 

介入ブリ語では,基本ブリ語とコールが同じでも,その意味と働きは違います.

N E S W
1 ?    

オポーネントが1とオープンした場合を例にとって説明しましょう.

Eは,下表のようにいろいろのコールができますが,その強さとスートの条件が基本ブリ語と違うことが分かるでしょう.

表7.1-1 1オープンに対するコール
介入コール 意味 ポイント 分布 備考
1,1 O/C 8-16HCP 良い5枚  
2 O/C 10-16HCP 良い5枚  
2 CUE 21TP以上 不確定 FG
2,2 WJO 6-10HCP 良い6枚  
2NT UNT 6-10HCP 5+5 注3
3,3,3 WJO 注1 強い7枚  
4,4,4 WJO 注1 強い8枚  
ダブル T/O 13TP以上 注2 F1
パス       上記以外
(注1)ポイントよりプレイングトリックで評価する.
(注2)ダイヤモンドが短く,他のスーツは3枚保証.
(注3)例えば,ハートとクラブが5枚.
(記号の説明)O/C:オーバーコール;CUE:キュービッド;WJO:ウイーク・ジャンプ・オーバーコール;UNT:アニュージャルNT;T/O:テイクアウト;

大部分のビッドは強さの情報と分布情報が確定しています.

したがって,パートナーはオープンサイドのレスポンダーより判断しやすくなります.

ここでは,介入ブリ語は基本ブリ語と違うものだということを認識しておいてください.

介入ブリ語の詳細は別のコースで説明しますが,ここでは「シンプルオーバーコール」と「テイクアウトダブル」の仕組みを説明しておきます.


 

7.2..シンプルオーバーコール

 
 

オポーネントがオープンした場合,ノンジャンプのスートビッドを「シンプルオーバーコール」といいます.

図7.2-1
N E S W
1 1    
図7.2-2
N E S W
1 / 1 1
図7.2-3
N E S W
1 / / 2

このオークションの最後のビッドがシンプル・オーバーコールです.

オーバーコールは「このスートでプレイしないか」という提案です.

■ オーバーコールの条件

良い5枚以上のスートと確定レンジのHCPを保証します.


表7.2-1 オーバーコールの条件
レベル 切り札枚数 HCP 備考
1 良い5枚 8 - 16  
2 良い6枚 10 - 16  

■ レスポンス

目標が明白なので,3枚サポートでレイズします.

レイズするレベルはハンドの強さと切札枚数で決めます.

N E S W
1 1 / ?

パートナーの1のオーバーコールに対するレスポンスの例を示すと下表のようになります.


表7.2-1 1オープンに対するレスポンス
レスポンス 意味 ポイント 保証枚数 備考
 2 SUP 6-9HCP 3枚  
 3 SUP 9HCP以下 4枚 PRE
 4 SUP 9HCP以下 5枚 S/O(注2)
 1NT NT 8-11HCP NTハンド 注3
 2NT NT 12-14HCP NTハンド 注3
 3NT NT 15HCP以上 NTハンド 注3
 2 SUP 10HCP以上 3枚 F1
 1,2 NAT 注1 注1 NF
 パス       上記以外
(注1)オーバーコールできるHCPと枚数を保証するハンド.
(注2)ボイドやシングルトンのあるアンバランスハンド.
(注3)オポーネントスートにストッパー保証.
(記号の説明)SUP:サポートあり;NAT:ナチュラルなハンド.オーバーコールできるハンド.;PRE:プリエンプテイブビッド;;S/O:サインオフ;

 

7.3.テイクアウトダブル

 
 

ダブルは元来ペナルテイ用のコールですが,1や2のレベルで使うチャンスはあまりありません.このため,介入ブリ語では,ダブルを他の用途に使います.使用例を下図に示します.

図7.3-1
N E S W
1 X    
図7.3-2
N E S W
1 / 1 X
図7.3-3
N E S W
1 / / X

■ テイクアウトダブルの条件

2つのケースがあります.F1です.

(A)オープンしたスートが短い場合
・分布 オポーネントスートが短く,他のスーツが3枚以上あること.
・強さ ダミー点を含めて13以上あること.
(B)オーバーコールできる場合
・分布 良い5枚スート
・強さ 17HCP以上あること.

■ レスポンス

テイクアウトダブルは1回フォーシングなので,RHOがパスしたら,0ポイントでもレスポンスします.RHOがパス以外のコールをすれば,フォーシングは解除されます.

  • 自分の長いスーツをビッドする.
  • 10ポイント以上あれば,ジャンプビッドする.
  • キュービッドはゲームフォーシング.

テイクアトダブルに対して
例A
N E S W
1 X / 1
752
10863
A87
874
4ポイントですが,最長スートをビッドします.
例B
N E S W
1 X / 2
52
QJ85
K432
KQ9
13ポイントあるので,ジャンプします.
例C
N E S W
1 X / 2
AK54
AK5
AQ65
K9
強いスーツがあり,パートナーのハンドを聞いてコントラクトを決める.FG.
例D
N E S W
1 X 1 /
K52
64
9432
9764
RHOがビッドしたので,有効情報がないのでパスする.

 

7.4..アニュージャルNT

 
 
N E S W
1 2NT    

これも介入ブリ語特有の使いかたです.


■ アニュージャルNTの条件

これは同時に2つのスーツを示すオーバーコールです.原則,1回フォーシングです.

・分布 最低ランクの2つのスーツが5枚以上あること.
(Lowest 2 unbid-suits)
・強さ @ 5- 11HCP;A 17HCP以上
(この中間のハンドはオーバーコールする.)

例A
N E S W
1 2NT    
75
QJ1085
AJ743
4
例B
N E S W
1 2NT    
5
QJ854
94
KQ964
例C
N E S W
1 2NT    
5
54
AQ943
KJ764
例D
N E S W
1 2NT    
5
AK
AQ943
KJ764

■ レスポンス

テイクアウトダブルに対するレスポンスと同じ要領です.フォーシングなので,0ポイントでもレスポンスします.RHOがパス以外のコールをすれば,フォーシングは解除されます.

  • 指定されたスーツの長い方をビッドする.等長なら,強い方をビッドする.
  • ジャンプビッドはウイーク.
  • キュービッドはゲームトライで,1回フォーシング.
  • 3NTはトゥプレイ.(To play: 責任をもってプレイする)

 

8.上級ブリ語

 
 

基本ブリ語はオポーネントがオークションに参加しない前提で言語体系を構築しています.

介入ブリ語もアドバンサー(介入者のパートナー)のRHOがパスすることを前提に構築しています.

しかし,実際には,オポーネントがオークションに参加するので,基本ブリ語も介入ブリ語もその対応を講じておく必要があります.

このような,オポーネントの介入を考慮したブリ語が「上級ブリ語」("Competitive bidding" に相当します.)です.

コントラクトブリッジのオークションで,十分なハンド情報交換をするためには,上級ブリ語をマスターする必要があります.

しかし,ブリッジを始めたばかりの皆さんには先の話です.

まず,基本ブリ語と介入ブリ語の基礎をシッカリと身に付けてください.

ここでは,上級ブリ語がどのようなものか,基本ブリ語で介入があった時のレスポンスについて,二三説明しておきます.


 

8.1.. オーバーコール対策

 
 

「キュービッド」,「ダブル」,「リダブル」が使えます.
レベル決定にはLTTODRの知識が有効です.

補注1:LTT
The Law of Total Trick" の略語です.
切札枚数からトリック数を推測する理論で,この理論は両サイドがトランプフィットをし、かつHCPが等分している時に有効です。このことを知っていると、競り合いビッデングの時に役立ちます。
関心のある方はこちらをご覧下さい.

補注2:ODR
Offence to Defence Ratioの略語です.
プレイする時とデフェンスにまわった時のハンドの強さを示す係数です. バランスした分布で,HCPが各スーツに分散しているハンドを「ODRが低い」,アンバランスな分布で,HCPが特定スーツに集中しているハンドを「ODRが高い」といいます. オーバーコールに向いているのは,ODRの高いハンドです.

 
 

8.1.1. レスポンス

 
 

基本ブリ語では,レスポンダーはポイントレンジがMin以上なら必ずビッドする約束になっています.しかし,オポーネントが介入した場合は,パスしても,オープナーにビッドするチャンスがあるので,上級ブリ語では,Minレンジの場合は,レスポンダーは有効な情報がなければパスできます.


■ レイズ

オープンしたスートで若干の違いがありますが,オポーネントがオーバーコールしても,当初予定していたレベルでビッドします.実行できなければ,パスしてパートナーの対応を待ちます.

 
N E S W
1 2 2  
10742
Q84
AJ74
94

上図のSのハンドの場合,Eがパスすれば,2とレスポンスできます.しかし,図のように2とオーバーコールが入っても2をビッドします.


■ ノートランプ

ノートランプのレスポンスはオポーネントのビッドしたスーツにストッパーを保証します.従って,「つなぎの1NT」はありません.

N E S W
1 1 ?  
(A) AJ5
QJ08
10974
9432
(B) 973
QJ10
10974
AJ5

上図で,Sのハンドが(A)の場合,Eがパスすれば,1とレスポンスできます.しかし,E1とオーバーコールすれば,8HCPなので2をビッドできず,スペードにストッパーがあるので,1NTとレスポンスします.(B)のハンドでは,ストッパーがな,10ポイントないのでパスします.


■ 新スート

基本ブリ語では,新スートのレスポンスは4枚保証でした.
(例外:1に対する2のレスポンスは5枚保証).

オポーネントがオーバーコールした場合は,新スーツは5枚保証となります.では,4枚のときはどうするか.この場合は下図のようにダブルを使います.詳細は,次節で説明します.


N E S W
1 1 ?  
(A) 75
QJ10
AJ74
9432
(B) 75
QJ108
AJ74
943

上図のSのハンドが(A)の場合,Eがパスすれば,1とレスポンスできます.しかし,E1とオーバーコールすれば,8HCPしかないのでパスします.(B)の場合は,1とオーバーコールに対しダブルをコールして,4枚ハートを示すことができます.


■ キュービッド

オポーネントがオーバーコールすれば,同じスートをビッドすることができます.これを「キュービッド」といいます.

 
N E S W
1 2 3  
AK42
Q84
AJ74
9

普通,ゲームフォーシングに使います.


 
 

8.1.2.ネガテブダブル

 
 

パートナーが1レベルのスートでオープンして,RHOがオーバーコールした時に,4枚メジャーを示す使うダブルです.「レスポンダーのテイクアウトダブル」ともいいます.


■ 使用レベルとポイント

使用範囲はオーバーコールのレベルで決まります.レベルはパートナーとの合意事項になりますが,ここでは,2までのオーバーコールに使うものとします.この範囲以外のダブルはペナルティになります.

レベル 保証ポイント
1 6TP
2 8TP

■ 基本パタン

基本的な使用例を示しておきます.


A
N E S W
1 1 X  
10875
QJ85
AJ74
4
両メジャーが4+4であることをしめします.
B
N E S W
1 1 1  
10985
QJ85
94
KQ9
ハートは4枚です.
C
N E S W
1 1 X  
10985
54
AQ9
KJ76
この場合は,4枚スペートを示します.
D
N E S W
1 1 1  
K10985
54
AQ9
KJ7
このスペートは5枚です.
E
N E S W
1 1 X  
52
AK54
Q943
974
この場合は,4枚ハートを示します.
F
N E S W
1 1 X  
852
A5
Q943
K974
この場合は,両マイナーが4+4であることを示します.

 

8.2..テイクアウト・ダブル対策

 
 

オポーネントがテイクアウトダブルをしたとき,レスポンダーはMinのハンドで有効な情報がなければパスします.パートナーにもう一度コールのチャンスがあります.

 
N E S W
1 X /  
A
Q8
107432
109752
Sは,Eがパスすれば,1NTとビッドするところですが,ダブルに対してはパスします.

1レベルの新スートはダブルの介入がないときと同じ機能をもっています.(6TP以上.4枚スート.F1.)

 
N E S W
1 X 1  
AK972
Q8
K743
109
Sは,Eがパスすれば,1とビッドします.ダブルに対してもこのコールは変わりません.

これ以外のコールはHCPと切札枚数でコールを決めます.

 
 
 

8.2.1. 10HCP以上のハンド

 
 

■ サポートが4枚以上ある時

2NTとビッドします.

 
N E S W
1 X 2NT  
A2
10853
K743
A9
リダブルもありますが,このコールでフィットが明白になります.

■ その他のハンド 

リダブルをコールして,10HCPを保証します.

 
N E S W
1 X XX  
A104
1085
KQ43
A9
オプナーのリビッドによって,3NT, 4Hをねらいます.スラムもあるかもしれません.

 
 

8.2.1. 9HCP以下のハンド

 
 

競り合いに役立つ情報がなければパスして,パートナーのリコールを待ちます.

■ 1NT 

Minレンジで,他のスーツにストッパーのあるNTハンド.


A
N E S W
1 X 1NT  
K875
Q1085
A874
104
NTハンドなので 1NTとビッドします.
B
N E S W
1 X /  
1098
QJ85
943
KQ9
バランスハンドですが,サイドスーツのストッパーが不十分なのでパスします.

■ レイズ 

サポートのあるハンド.レイズのレベルは切札枚数で決めます.


A
N E S W
1 X 2  
1087
Q108
A4
109842
 
B
N E S W
1 X 3  
10
QJ8
942
KQ9763
10HCPあれば, 2NTとビッドします.
C
N E S W
1 X 4  
10985
Q8754
A92
7
 

■ 新スート 

質の良いスートのハンドでビッドします.


A
N E S W
1 X 1  
10875
QJ85
AJ74
4
これはF1です.
B
N E S W
1 X 2  
10985
KQ10543
9
K9
 
C
N E S W
1 X 2  
1098
5
AK9865
Q76
 
D
N E S W
1 X 2  
KQ10985
54
A109
107
 
E
N E S W
1 X 2  
8
AQ1054
92
K976
 
F
N E S W
1 X 3  
5
54
963
AKQ9743
 

 

9. おわりに

 
 

ブリッジでは,コントラクトはオークションで決めます.したがって,ブリ語ができなければ,ゲームに参加できません.

ゲームやスラムがあるのに,情報伝達が不十分で,所定のコントラクトに到達できないことほど残念なことはありません.

このコラムでは,ブリ語のコールの意味,働きおよびその使い方を説明しました.

初心者はコンベンションを取り入れれば,情報伝達力が増すと考えがちですが,コンベンションを使うと,その分,ナチュラルなコールは使えなくなります.

ブリ語の与えられた制約のもとで,いかに自分のハンド情報を正確にパートナーに伝えるか工夫するのも,ブリッジの楽しみの一つです.まず,一つのシステムを使いこなすことが肝要です.

よいパートナーを見つけて,使うブリ語を選び,そのブリ語について,コールの意味,働きをシッカリと自分たちのものにすることをおすすめします.

 

 
 
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