【第2部】

〜プロローグ〜

高校を卒業してからの2年間。
それは決して短い時間ではなかった。
その間、私はずっと耐えていた。
人生を楽しく生きるということを教えてくれた祐巳。

本当なら、高校を卒業する時に、
祐巳にこの気持ちを打ち明けたかった。
自分のものにしてしまいたかった。
しかし、結局それを実行することはなかった。

「大切なものができたら自分から一歩引きなさい」
それは私のお姉さまだった人の言葉。
私のことを理解してくれていた人のその言葉を
私は常に自らの諌めとして心の中に置いていた。

言葉は本心を伝えながら、
いつものような軽い調子。
本当なら、あのまま強く抱きしめて…。

祐巳を2年間待ったのも、もちろん彼女が
高校を卒業するのを待っていたからに他ならない。
が、自分自身の気持ちを冷まさせて、
客観的に見るための時間を、
自分でも必要としていたから。

祐巳を意識するようになったのはいつの頃からか。
きっかけはない…ハズだ。
それは、自然にとしか言い様がない。
気づいていたら、祐巳の方を見るようになっていた。
考える前に、ちょっかいを出すようになっていた。
祥子になんと言われてもかまわなかった。
それが自然だったから。そうしたかったから。

栞や、志摩子との関係とは異なる関係を築きたかった。
栞の場合は、私は一方的な救いを彼女に求めた。
彼女を欲し、彼女と一つになることを望み、そして壊れた…。

志摩子の場合、私たちは似たもの同士だった。
誰をも必要としていないようで、実は必要とされたいと考えていた。
お互いの存在を必要とした私たちは、姉妹関係を結ぶことで、
自身の必要性を確認しあっていた。その場にいるだけで
安心のできる関係、それが志摩子との関係だった。

その二人とは違う関係を築きたい。
…いや、もうすでに築いているのだから、
より確固たる物を築き続けていきたいというべきか。

生きるということを自然にしてくれる存在。
それが福沢祐巳という一人の人間だった。
その彼女と人生をともに歩んでいくことができたら、
どんなにすばらしいものになるだろうか。

そう、私には祐巳が必要だ。
魚が水を、植物が光を求めるように、
人間は愛を求める。
私は祐巳を愛したい。

なら、祐巳はどうなのだろうか。
好意は抱いていてくれている。
嫌われてはいない。
祐巳は私に愛されることを望んでくれるだろうか。

同性からの告白。
「愛している」と祐巳に告げたら、
彼女はどう思うだろうか。

確かめることから始めなければ。
それはわかりきっていること。
自分よがりに強引に、押し付けてはいけない。
そのためにどうすれば良いか、私は時間をかけて考えてきた。
そして、今日それを祐巳に告げる決意をしている。

もっとも祐巳のことだから、告白して私が嫌なら、
「申し訳ありません!」と、深々と頭を下げて、
戸惑いながら言い訳をするにちがいない。
私はその姿を思い浮かべて苦笑する。

さあ、そろそろ時間だ。
久しぶりに祐巳の姿を見ることができる。
私の姿を見て、きっと目も口も丸くするだろう。
その表情を思い浮かべるだけで、
心が優しくなれる。顔の表情が緩む。

飲み終えたコーヒーカップを流しで洗いながら、
自分の心に生じようとしていた躊躇も洗い流す。

「祐巳、お願い。私と一緒にいて」

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