〜1〜

(きたきた…)
祐巳が使っているバス停の近くで私は祐巳が現れるのを待っていた。
もっと待つことになるかと思っていたけど、
意外と早く祐巳は私の前にその姿を見せてくれた。

少し俯き加減にゆっくりと歩く姿から、
容易に高校時代の思い出にふけっていることは想像できた。
顔の表情は、2年前に比べたら、落ち着きが出てきて、
大人びた感じになっているけど、やっぱり私の好きな祐巳だ。

表情を何度も変えている祐巳。
遠くから見ている私を楽しませてくれる。
細い路地に身を隠し、祐巳を一度やり過ごした後、
私は大きく息を吸い、声を掛けた。

「祐巳ちゃん、おひさ!!」

どこから声がしたのかわからなかったようだ。
頭だけをキョロキョロと動かしている。
私は苦笑しながら、もう一度声をあげる。
「こっち、こっち。もう、私のかっこいい姿を忘れちゃった?」
祐巳は首をかしげただけで、再び歩き出した。
きっと、私がこんな所にいるはずがないと思い込んでいるのだろう。

仕方なく、早歩きで祐巳のそばまでいくと、肩に手をかけた。
「まったく、相変わらずだね。せっかく私が声を掛けているのに、無視していくんだから」
「白薔薇さま!」
「おっと、祐巳ちゃん、もう私は白薔薇さまじゃないんだからね。聖で良いよ」
私は2年前にリリアンの高等部も、山百合会も卒業したのだ。
それに、祐巳にはその名称で呼ばれるよりも、名前で呼んでもらいたい。

「ごきげんよう、・・・聖・・・さま」
「んっ、まっいいか。ごきげんよう。そうそう、祐巳ちゃん、卒業おめでとさん」
「ありがとうございます」
そういって素直に頭を下げる祐巳。
祐巳のその姿を見て、私はいてもたってもいられなくなり、
さっそく今日、祐巳に会いにきた用件を切り出す。

「でね、今から部屋にこない?」
「はっ?」
目をぱちくりさせる祐巳。それはそうだろう。
久方振りに出会った人間に、いきなり部屋に来てくれなんて言われれば、
誰だってびっくりするだろう。それでも、私は言葉を繰り返した。
「だから、私の部屋に来て欲しいんだってば!」

頭の中が混乱しているらしく、大きく口をぽか〜んと開け、
放心状態に陥っている祐巳。私は、これ幸いとばかり、
祐巳の腕を掴むと、部屋の方へと連れて行く。
少し歩くと、少しは意識が回復したらしく、
「せ、聖さま、私自宅に帰る途中なのですけど・・・」
と、話し掛けてきた。もちろん聞き入れるわけがない。
「いいから、いいから。黙ってついてきてちょうだいな!」


私は頭の中で鼻歌を歌いながら、
久しぶりに祐巳に会えた事と、これから話すこととを思い浮かべ、
とても明るい気分になっていた。

(さっ、ここからが本番だ!)

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