〜2〜

しばらく歩くと、祐巳は私から腕を離し、
自分から私の後をついてきてくれた。
「なんで、私を聖さまのお部屋に呼ぶのですか?」
当然の質問。私は本当のことを少しだけ隠す。
「祐巳ちゃんとずっと話がしたかったからだよ〜ん」
「今日じゃないといけないのですか?」
「そっ、今日じゃなきゃいけないの。ダメ?」
「いえ、大丈夫ですが…」

多少、不満に思われるのはあらかじめわかっていたこと。
子供のような表情を見せる祐巳を可愛く思いながら、
何とか私の部屋に行くことを承諾させる。

「さっ、あがった、あがった!」
さすがに部屋の前まできてしまうと、観念してくれたらしく、
祐巳に先に部屋に入るように促すと、「お邪魔します」と言って、
素直に靴を脱ぎ、部屋に上がってくれた。
一人暮らしにしては広い室内を見て、驚きの表情を見せている。

「正面が居間になってるから」
ドアに鍵を閉めながら、祐巳に指示をする。
顔を右へ左へと動かしながら、祐巳はのんびりと前に歩いていった。
居間へと続くガラス張りの扉を開くと、目の前に広がる広い空間に、
「わっ、広い!一人でこんなところに住んでるんですか?いいなー!」
と、驚嘆の声を上げる。

「いいなー」と祐巳が言ったことで、
私はこれから話すことが成功する予感をもった。
(少なくても、部屋に良い印象は持ってくれたかな?)

私は、簡単に祐巳にここに住んだ経緯を話す。
「うん、たまたま知り合いの人に、急に海外転勤が決まった人がいてね。
4年間だけ、住まないかって、安く貸してもらえたんだ。
ほら、身も知らずの人に貸すのって嫌でしょ?」
そういいながら、立ち話もなんだし、これから本題に入るわけだし、
祐巳にソファーに座るように勧める。

「コーヒーでいいかな?」
そういいながら、真っ白いカップにコーヒーを入れると、
行く前に沸かしていき、いれておいたポットからお湯をカップに注ぐ。
「はい、インスタントだけど、どうぞ。砂糖とミルクもあるからね」
「あっ、お構いなく」

少し硬くなりながらも、砂糖と、ミルクをたっぷりと入れた後、
コーヒーに口をつける祐巳。相変わらず甘党のようだ。
そんな祐巳の姿を微笑ましそうに見つめながら、私は口を開いた。
「祐巳ちゃん、全然変わってないね」
「はぁ・・・」

「あっ、外見とか、ちょっと大人びてきたとかそういうことじゃないよ。
祐巳ちゃん自身のこと。私が知っている祐巳ちゃんと
変わっていなくてちょっと安心したんだ」
「白・・・聖さまもお変わりないようですね」
「祐巳ちゃん、別に無理しなくていいよ。
私も変わってないから、前みたいな言葉遣いで、全然オーケー!」

久しぶりに会ったからか、少し緊張をしているようだけど、
2年前の祐巳と変わらない姿を確認できて私は思わず顔がほころぶ。
気持ちが抑えきれなくなってくる。えい!もう話してしまおう。
「で、さっそく、ここにつれてきた理由を話すけど、祐巳ちゃん、私とここに住もう」

再びコーヒーに口をつけようとしたところで言ったので、
祐巳は口からコーヒーを出してしまうかと思うぐらい驚いていた。
そして、目を真ん丸くさせたかと思うと、目を閉じ、気持ちを落ち着かせたようだ。
そしてゆっくりと目を開くと、祐巳らしくない言葉が祐巳の口から出てきた。
「急に何をおっしゃるかと思いましたら、私が先ほど、住んでみたいと、話したからですね。
そんな心にもないことをおっしゃらなくても結構ですよ」
「祐巳ちゃんらしくないね。『なに言ってるんですか!』って、
目を白黒させながら、怒鳴るかと思ったんだけど」
おや?以前と違う祐巳を私に見せたいのかな?
でも祐巳、それは自然じゃないよ。
私はそのままのあなたが好きなんだから…。

「背伸びしなくていいよ。少しでも前とは変わったところを
見せたいのかもしれないけれど、私に対しては、素のままで良いからね。
もっとも、どんなところ見せられても、私はかまわないけれどね」
そう言うやいなや、祐巳は思いっきり肺に空気を溜め込むと、
「聖さま、いくら冗談でも、いって良い冗談と悪い冗談というのがあります!
いくらこんな広いところに一人で住んでいて、もしかしたら、寂しいのかもしれないですけど、
一緒に住む気がない私に対して、冗談でも、『一緒に住む』だなんて言わないでくださいよ!!」
と一気に私に捲くし立てた。まったく、ごもっともな意見で。

でも、ようやく祐巳らしくなってくれた。
それに、やっぱり話の持ってき方によっては脈アリのようだ。
「祐巳ちゃん、それって、私が本気だったら、一緒に住んでくれるってことだよね?」
「ち、ちがいます。だって、私が聖さまと一緒に住めるわけないじゃないですか。
それに、さっきの発言って、私が、『こんなところに住んでみたい』
って言ったから思いつきでいったんですよね?」
「違うよ。思いつきなんかじゃないよ」
そう、ずっと以前から考えていたことなのよ、祐巳。
「えっ、じゃぁ、冗談ですよね」

戸惑い顔の祐巳を見ながら、私は自分の本心を伝えるために、
顔の表情も、気持ちも、真剣にする。祐巳、私の想いを受け止めて。

「もう一回言うね。祐巳ちゃん、ここに私と一緒にすんで欲しい。本気なんだ」


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