〔10〕

私は、友華と別れた後、何とか、平常心を保つことに苦心していた。
あの日、イノと関係を持って以来、私は、自分が再び快楽を
求めていることを否定できなかったからだ。
甘美な快楽の世界に身を浸すと、逃れることはできないのか。
まるで一度始めたらやめられない麻薬のように、
壊れるまで止めることができないのだろうか。
あれだけ、自己嫌悪に陥ったにもかかわらず…。

(別れてよかった…)
こんな自分、認めたくはなかったが、現実にいる。
私を慕い求めてくれる友華に、こんな自分を見せたくない。
(見せたくないから別れたのかな?)
ちがう。きっと、友華を私の性のはけ口にするのが怖かった。
友華は私が望めば、受け入れてくれる。
が、肉欲だけが先走ってしまうことを、私は本能で知っていた。
今更だけど、プラトニックな関係でいたかった。友華とは。

「これで、良かったんだよね…」
別れたことに未練はあるけれど、後悔はない。
別れることが、これからの二人のために最善だから。
「友華、私はあなたに愛されるだけの資格はない…
恋愛は、もうしないよ…」
そう一人でつぶやく。


昼休み、私はイノを人気のないところに連れ出す。
「どうしたの明?あなた私を避けているんじゃないの?」
不思議がるイノに、私は思いっきり抱きついた。
「イノ、お願い。私を抱いて」
「…明?」

自分が何を言っているのか、しているのか、わかっている。
が、私は自分の体をもてあましていた。恋愛はしない。
…でも、体は快楽を求めている。もし、イノに拒否されたら、
誰でもいいから、自分を快楽に導いて欲しいと身を放り出すだろう。
それほど、今の私は、性の快楽の虜になってしまっている。

「わかってる。自分勝手なことは。でも、イノしかいないの。
私、もう、だめなの。あの日以来、体が、自分の体じゃなくなってる…
欲しいの、あなたが。お願い、私を抱いて」
「明、あなた、友ちゃんと別れて自暴自棄になっているんじゃ…」
「友華のことは言わないで!…彼女とは別れたんだから。
…こんな私じゃ嫌だよね。もう、イノも私なんか…」
そういって、その場を離れようとする。当然だ。私はイノを拒否したのに、
今度は、自分からイノのほうを求めている。
イノの気持ちを無視しているのだ。

離れようとする私を、イノが腕をつかみ止める。
「明、本当にわたしでいいの?」
「…イノしかいないの。もう、私には…」
「…わかったわ。でも、今日はダメ。明日は?」
「大丈夫よ。私の家でどう?」
「いいわ」
返事を聞くと、私はすばやく、イノの唇を奪った。
「ありがとう、イノ」
それは、本心からの言葉だったのか。


次に進む 前に戻る  戻る トップに戻る