〔12〕
「明、私、飯野先輩とキスしました」
「なぜ?」
突然の告白に、私は眉を動かす。
友華がまさかイノとキスするなんて。
「あっ、焼きもちを焼いてくれてますね。嬉しいな」
私の顔を覗き込み、表情から判断する友華。
確かに焼いている。でも、友華に?イノに?
「からかわないで」
「からかってないですよ。事実ですから」
淡々と話す友華。涙も止まっているし、
落ち着いて話せると見たのだろう。
…と、いきなり私の背中に抱きついてきた。
あの日、部室で抱きついてきたときと同じ感じで。
「私を抱いて、明。飯野先輩よりも、私を選んで…」
私は、私の前に差し出されている腕に触れ、そして言った。
「無理だよ、友華。私はもうあなたを傷つけたくない」
「やっぱり明、私のことを大切にしてくれてる」
「そうじゃないの。私は友華と別れたのよ。それも私のせいで。
これ以上あなたを傷つけることなんてできない…」
「明って頑固ですよね。でも、そこが好きなんですよ、私」
二人とも、ベッドを背に、並ぶような形で座りなおす。
「明、そう考えることこそ私を傷つけているって、何でわかってくれないんですか?
私、確かに飯野先輩と寝たって聞かされて、ショックでした。
でも、それより勝手に別れを言われた方が、もっとショックだったんですよ」
「友華…」
「私、明と別れません。だって、明は素敵な人だもの。私以外の誰かが
惹かれたとしても不思議じゃないです。飯野先輩のこと、確かに傷ついたけど、
私も関係持ったし、おあいこですよね?それに、これからは、私だけを見てもらえるよう、
私も自分を磨きます。それで、明が他の人を見るなら、もっと見てもらえるように、がんばります」
(なんて前向きな子だったんだろう)
私は、友華の何を見ていたのだろうか。
自分のことばかりを気にして、彼女をまったく無視していた。
私の好きな友華が、目の前に存在しているではないか。
「友華…。私、間違っているのかな?
友華のためと思って別れようとしたのに、
それが、逆に友華のことを傷つけたんだよね?」
横に座る友華に顔を向け、確かめるようにたずねる。
「明、正しい、間違っているってそんなに明確にしないといけないものですか?
…なら、私のことを思ってしたと言うのならば、明は間違っていました。…でも」
「でも?」
「『時』が訪れていませんか?」
二人とも互いの視線を受け止めていた。
言葉は要らなかった。十分に話していたから。
後は、互いの気持ちの確認だけだった。
どちらからともなく、キスをする。
今までの中で、一番神聖な、お互いを感じることのできたキス。
それだけで十分だった。友華が一緒にいる。
それだけで、私の心は満たされていた。
「ありがとう、友華。そして改めて言わせて。
私の友華でいて欲しい」
「もちろん私はそのつもりでしたよ」
二人して、声を出して笑う。
(よかった、本当にありがとう、友華)
「そろそろ親が帰ってくるんだけど、どう?
一緒に夕飯食べていかない?」
話をしているうちに、かなり時間が過ぎていた。
もうそろそろ、仕事からどちらかが帰ってくるはず。
「いいんですか?もしかして、『恋人』ってご両親に紹介してもらえるとか?」
「友華がお望みなら」
それもいいと思った。両親に勘当されても、友華がいればいいかと。
もっとも、二人ともそこまで本気で話してはいないのだが。
とても嬉しそうな、でも、残念そうな表情をする友華。
「すみません。今日は、帰ります。でも、また誘ってもらえますか?」
「もちろん。泊まりにきてもいいよ」
「絶対に近いうちに誘ってくださいね!」
「いいよ。ただし、寝かせないから。そのつもりでね」
「そのつもりです!…そうそう、明、言い忘れてたんですけど」
「もし、私が明を救えなかったら、飯野先輩が『明の
体も心も自分のものにしてみせる』って言ってました」
「友華それ聞いてなんていったの?」
首をかしげる私を横目に、話しつづける友華。
「『絶対に明は私が救います!』って宣言しましたよ、もちろん」
それが当たり前のようにいうので、思わずおかしくなる。
友華が話を続ける。
「それから…」
「まだあるの?」
「飯野先輩にキスしてもらった後、
『続きは明にしてもらいなさい』って言ってました」
「イノのヤツ…」
思わず苦笑をする私。
イノはいい友人だ。もし、友華がいなかったら、
彼女と付き合うようになっていたかもしれない。
…が、友華がいる限り、彼女は私のよき友人だ。
イノも、それを受け入れるがために、私に抱かれたかった。
今ならわかる。友華の気持ちも、イノの気持ちも。
自分自身の気持ちも。
「はーっ、すっきりしたよ友華。
なんか、頭の中に雲がかかっていたんだ」
「じゃぁ、私、明の太陽になりますね」
「そうしてよ」
そういって、また軽くキスをする。
「先輩、また明日から、よろしくお願いします!」
玄関まで見送ると、友華がそういった。
「あれ、今度は『先輩』なの?」
「呼び捨ては私にはまだ無理です。
さっきは先輩と対等にいたかったし、
自分を力づける意味もあったんです」
「まぁ、呼び方なんてどうでもいいよ」
「そうですね、先輩!」
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