〔13〕
友華と話をした次の日の昼。
私はイノを人気のない校舎の裏に連れ出した。
雲のほとんどない青い空は、今の私の心を
表しているかのように、澄み切っていた。
「今朝から表情がすっきりしてる。よかったわ」
そういって、肩の荷を下ろしたかのように、肩をおろした。
「心配かけてごめん。私のせいで、イノにも、友華にも辛い思いさせた」
「いいのよ別に。私は明が好き。友ちゃんも好き。そうしたらとる行動は決まっているわ」
「友達でいてくれるでしょ?」
「もちろん。でも、また友ちゃんを辛い思いさせたら、
私が友ちゃんを奪うから、そのつもりでいなさい」
「おっ、なんでよ?イノは私が好きなんでしょうが?」
想いには答えられないけど、想われるのは別に嫌じゃない。
子供みたいにすねている私を見て、イノは、口に手を当てて笑っている。
「ふふ。この前話をしていたら、友ちゃんのこと、大好きになったのよ」
「イノって浮気性?」
「しょうがないでしょう。私が好きになる人は、相手がなぜかいるんだから」
そういって、空を見上げながら笑っている。顔を見せたくなさそうだ。
「イノ、友華と仲良くするから…」
上を向くイノの顔を、両手で下に向けさせる。
そして、感謝のキスをする。イノとの、最後のキス…。
「明?!」
唇が離れた後、驚愕を隠せないイノ。
私は、ニヤッと笑って言った。
「友華にはナイショね!」
ウィンクをする。これくらいなら、友華もわかってくれる。
「私と明だけのヒミツ…ね。ありがとう、明」
高校を卒業するまでに、私と友華は、よく互いの家に泊まりにいくようになっていた。
ただし、肉体的交わりは一度も持っていなかった。必要としなかったから。
家は距離的には離れていないものの、市の境をまたいでいるため、
近所づきあいは今までなかった。が、私と友華が互いの家に勉強をしに行ったり、
話をしに行ったりしているうちに、お互いを「良き先輩」「良き後輩」と
持ち上げたかいもあるのか、家族ぐるみの付き合いをするまでになっていた。
―話は、受験をする半年程前にさかのぼる。
友華が、私の家に泊まりにきている。
「明、大学は?」
「大学はまだ決めかねてるけど、専攻は、児童心理学希望」
「自分が子供だから?」
「ばか!」
「あっ、ホントのこと言われてムキになってる!」
友華は、私をからかうのを楽しむようになっていた。
別に、私もそれを嫌ではなく、そのやりとり自体を、楽しんでいる。
その後、「ちがう」「ちがくない」と意味もないやりとりを続けた後、
考えている将来について話し始めた。
「私ね、以前からカウンセラーになりたくて」
「そうなんだ。向いてるかもしれないね」
「中学生の時。高校受験でちょっと悩んだ時、
進路指導の先生に相談にのってもらったんだ。
その時、ふとカウンセラーになれたらと思ってね」
「そっか。明、やりたいことを見つけているんですね」
「実際に自分にその資質があるかわからないし、
なれるかわからないけどね。でも、確かに心理学で、
自分を見つめなおしたい気持ちもあるし、それでいいと思ってる」
初めて話した、将来への希望。
友華に教えてもらったから、絶対そうするとは考えていない。
あくまでも、それを目標として、レールを敷き、
もっといい目標ができたら、敷き直すつもりでいる。
「友華はどうするつもり?」
「明と同じ大学に進む…じゃだめですか?」
「こら!主体性を持ちなさいよ」
「でも、私の希望は、『明と一緒にいること』だから…」
「あのね、それじゃあ、友華のやりたいことを犠牲にするでしょうが」
「犠牲になんかしていないもん。明といることが、
私が一番したいことだから」
「頼むよ、友華。そろそろ独り立ちしてよ」
「それって私と別れたいってことですか?」
「ち、ちがう!そうじゃない。そうじゃな…いじゃなくって、友華!」
―そんな会話を何度となく繰り返し、時は確実に過ぎていった。
秋に入る前から、私は受験勉強に腰を据えた。
そして、次の4月から私立の大学に通うこととなる。
次に進む 前に戻る 戻る トップに戻る