〔15〕

「明、今夜は、ここにいて…いい?」
ちょっと、声が上ずっているようだ。
いつもと違い、恥じらいもすこし見える。
新鮮にみえる友華の表情。
「どうぞ」
いじめたい気持ちも起きたけど、
さすがに、引越した初日に、
拒否するのはかわいそう。

部屋で一番大きなスペースを取るベッドの上に
二人の空間を創る。自分達だけの場所。
何人も入ることのできない、不可侵の空間。

そっと、友華が私の肩に頭を預けてきた。
「久しぶり、明のにおい」
「あれ、やっぱりにおう?
友華の引越しでがんばったからね」
そういって、頭越しに、友華の肩を抱く。
「クスッ」と、声をだして笑う友華。

「明、お風呂入ってくる?」
「そうしよっか」
別に、汗臭いのが気になるわけではないが、
それは、そう、「儀式」の一部なのかもしれない。
もちろん、二人で入れるほど、風呂場は広くなく、
一度、友華は自分の部屋に戻って、
シャワーを浴びることとなった。

ほどなくして、再び二人は同じ場所にいた。
私は、下がパジャマ、上はT-シャツ姿。
友華は、下がスパッツ、上はやはり、T-シャツだった。
さっきと同じようにお互いの頭を、互いの肩に預けあおうとする。
ほのかに香るシャンプーと、ボディソープのいい香り。
少し熱く感じる、お互いの体温。

友華がそばにいるだけで、
心がいっぱいになる。
いてくれるだけで、それだけでよかった。
が、友華は私にその全てを預けようとしている。
それを全て受け入れるだけの準備はすでにある。
当然、友華もだ。

先に動いたのは友華だった。
私を横から抱きしめ、そして、頬にキスをしてきた。
体を離し、互いに向かい合う形をとる。
私と、友華の背はほとんど違いがない。
目の前にある、友華の顔。
ちょっと、恥らっている感じはあるが、目はいつものように、
強い意志をもって光がともっているようだった。

(時はきたれり…)
そう、心でつぶやいて、軽く目をつぶった
友華の唇に、自分の唇を当てた。
軽い、挨拶程度のキス。

続けて、啄ばむようなキスを友華の唇を中心に施していく。
たまに、ちょっと舌を出して触れてもみる。
いつもと同じキスではと思った、私の遊び心だ。
友華の表情が変わっていく。
くすぐったさをこらえている、そんな感じだ。
体もよくみると、肩のあたりが揺れている。
ためしに、キスを中断してみる。

「ハ〜ッ!明、くすぐったいよ!」
ガマンできない、そんな感じで、大きく息をしている。
「あれ、ダメ?」
「もう!明にしてあげます!」
そういって、私に今したことと同じことをされる。
確かにくすぐったい。でも、かすかに感じる…。
友華には、まだ感じられなかった何かが。

「ね、くすぐったいでしょ?」
そう言って、同意を求める友華。
それには答えられないから、
代わりの行動に出る。

友華の体を包み込むように腕を回す。
壊れものを扱うように、ゆっくりと。
そして、再びキスをする。さっきと同じ啄ばむようなキス。
「明、くすぐったいって言って…」
先ほどと違い、顔全体、そして、首筋へと、
範囲を広げていった。ようやく友華も感じたらしい。
くすぐったさとは明らかに違う感覚を。

「明…」
そうつぶやく声が頭の上で聞こえる。
一度、行為を中断し、再び友華をみる。
さっきとは異なる反応を示している。
その反応を確かめられたことに私は満足し、
次のステップに進むことにする。

「友華、服を脱ごっか」
こくんとうなずくと、友華は立ち上がって、
着ているものを脱ぎ始めた。
私は脱いでいる友華を脇で見守る。
まずT-シャツを脱ぐ。その下には何も
身に付けていなかったので、
友華の胸が私の目に飛び込んでくる。

その手は一度も休められることなく、
友華自身を隠していた全てをはずしていく。
手早く着ていたものを畳片付けると、
友華は、私の前に立った。
手でどこかを隠そうともせず、
その全てを私に見せたい、そんな感じだ。
顔は少し赤みを帯びているけど。

促される前に、私も立ち上がり、
同じように着ているものを脱いでいく。
…と、一瞬、イノとのことが頭を横切った。
友華は許してくれたが、事実は消えない。
(その事実すら、友華は受け入れてくれたのに…)
そう思いつつも、友華の顔をうかがう。
目が合うと、一瞬、怪訝そうな表情をしたが、
私の気持ちを察したらしく、口を開いた。
「明、今は私だけを見て…」

その言葉を聞き、迷いを断ち切るがごとく、
服を脱ぎ始めた。友華は、私だけを見てくれている。
私もまた、友華だけを見ているではないか。
身に付けていたものを全て脱ぎ去り、軽くたたむ。

しゃがんでいると、友華が私の背中に胸を押し当ててきた。
「これが始まりだったんだよね…」
「そうだね。…もしあの時、私が友華の全てを受け入れてしまっていたら…」
「きっと今、こうして二人でいることはないかも。
だって、あの時、明のことを何も考えずに、
単純に自分をもらって欲しいって気持ちだけだったから」
「友華らしくないじゃないそんなことを言うなんて」
「私の心の中にあった、唯一の明へのわだかまり」
「え、わだかまり?」
「そう。私、明を許す資格なんかもっていなかった」
私の体に回されている腕に力が入る。

「だって、私が明と付き合うきっかけになったのって、
自分の裸を明に見せたからじゃない。あの時は、
明が落ち着いて私を諭してくれたから、今があるけれど、
自分がしたことには違いないから。飯野先輩が明にしたことも、
明が飯野先輩にしたことも、私には何も言う権利なんかなかった。
そうでしょ?」
「友華…そんなこと考えていたんだ。ごめん。気づかなくって」
「いいの。別に、今更それがどうだとかは、考えたくない。
明だって、許す以前の問題だと思ってくれるだろうし…。
でも、それが、どこか心の中に影を落としていたのは本当なの」

「太陽だから黒点があるわけだ」
「なにそれ?」
「友華は、私の太陽だから、黒点があるわけだ」
「…それって、あまり良いたとえじゃないよ」
「わかってる。でも、太陽でしょ?」
「明だけを照らす太陽ね」

友華の顔が見えるところまで頭を回すと、
まさに、太陽のように明るく、元気付けてくれる
友華の笑顔がそこにある。

二人は立ち上がった。
今度は、私から友華の体に腕を回す。
そうしているのが自然なように。
二人とも生まれたままの姿で。

友華が私の腕の中にいる。
互いを直に感じることができる。
ゆっくりと時が流れてゆく。


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