〔17〕
次の日の朝、私は友華よりも先に目が覚めた。
久しぶりに自分以外の人が一緒にいた夜。
誰かが一緒にいるというだけでも、心が休まる。
ましてや、自分の隣に、愛しい友華がいるのだ。
涙がこぼれそうになった。
ベッドから友華の目を覚まさないようにゆっくりと起きると、
下着と部屋着を身につける。そのまま、狭いキッチンに立ち、
簡単な朝食を作り始めた。二人分の食事の用意ができる。
それだけで、私の心は弾んでいた。
「う〜ん」
そういって、伸びをしている友華を見たのは、
ほとんど朝食の支度が出来た頃だった。
「おはよう友華」
「…えっ?!あっ、明…おはよう」
どうやら、自分が私の部屋で、昨晩寝ていたことを忘れていたらしい。
何も身につけていない上半身を私に見せていることも、気づいていないようだ。
「…きゃ〜っ!」
少しの間を置いて、ようやく自分がどこでなにをしているかを自覚したらしく、
友華は顔を真っ赤にし、布団を一気に胸の上までもっていくと、
私に見せていたことを恥らった。
「いいじゃない。友華。朝から目の保養をさせてよ」
「そういう問題じゃありません!」
「あ、そうなの?」
笑いながら、朝食の準備をする私。
もう、後はご飯と味噌汁をよそるだけになっている。
「ほら、顔洗ってきて。朝ご飯を食べよ」
「は〜い」
服を着ながら、まだ眠そうな返事をする友華。
ユニットバスの洗面所に入り顔を洗うと、さっぱりした顔でてくる。
そして、部屋の中央にあるテーブルのまえに座った。
「明、しっかり朝ごはん食べているんだ」
「時々だよ。やっぱり、朝は寝ていたいしね」
「毎朝作って欲しいな!」
「それはダメ。せめて交代制」
「はいはい。それでもいいから、一緒に食べようよ」
「それもいいかもね。それより、ご飯が冷めちゃう。先に食べよ」
「いただきま〜す!!」
サケを焼いたのと、卵焼き。ついでに、味付け海苔にご飯と味噌汁。
いわゆる「日本人の朝食」の定番を、二人は食べ始めた。
こうして二人でゆっくりと時間を過ごすのは、いつ以来だろうか。
頻繁に電話で話しているから、あまり離れているようには思えないのだが、
それでも、最後に会ったのは、私が正月に実家に帰ったときだから、
3ヶ月は会っていなかったのだ。
目の前で、友華が私の作った朝食を食べている。
実感が湧かなくて、思わず箸を止め、友華を見つめてしまった。
「どうしたの?明?」
「本当に友華が目の前にいるのかなって考えてた」
「いるよ。ここに。明と一緒に」
そういって、太陽のように明るい笑みを見せてくれた。
私も、笑顔を返す。
「そうだね。今、二人は一緒なんだよね。一緒にいるんだよね」
「そう、今も、そしてこれからも!」
私はそれには何も答えず、笑顔で再び箸を動かし始めた。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
両手を顔の前で合わせて、恭しく言う友華。
「おそまつさまでした」
そういって、私は空いたお皿を片付け始めた。
「あっ、明、私が片付けるよ。作ってもらったんだから」
「そう?じゃあ、お願いするね」
素直に、友華の申し出を受けた。
友華がお皿を洗い、ふきんで拭いている間、私は、
天気が良かったので、布団を干し始めた。
「友華、午前中は、引越し荷物の片付けでしょ?」
「でも、そんなに残ってないですよ。昨日ほとんど終わっているし。
それより、明、この付近の地理を教えて欲しいな」
「何か買う物とかある?」
「調味料関係、雑貨類とかかな?」
「オッケー。じゃぁ、このあたりを散歩しながら買い物だね」
布団を狭いベランダに何とか干し終え、窓を閉めた。
友華も、台所の片づけを終え、テーブルを拭いている。
「明…」
「なに?」
ちょっと、声を小さくして、遠慮がちに友華が私に聞いてきた。
「大学に行ってみたいんだけど、いい?」
「いいけど?」
大学まではそんなに遠くない。それこそ電車とバスで20分ぐらい。
買い物前に行っても、十分に、時間はある。
「よし、じゃぁ、午後は大学にいこう!でも、何にもないよ。
ほとんど閉まっているし。それでもいいの?」
「うん、ちょっとでも早く、明と一緒に大学に行ってみたくて」
「ふーん。でも知ってる?」
ニヤッとして、目を細めながら、友華のほうを見る。
「なに?」
「友華は、まだ高校生なんだよ!3月の最後の日まで!」
「だから何?高校生は、大学のキャンパスに行っちゃいけないの?」
「い、いえ、そんなことはないよ」
からかうつもりだったけど、からかえなさそうなので、やめる。
「よし友華、一度、部屋に戻ろうね。私も洗濯と、掃除してから、手伝いに行くから」
「わかった。またあとでね」
そういって、友華は一度自分の部屋に戻っていった。
「さて、私も、やることをやりますか!」
と、部屋の掃除と洗濯を始めた。
どうせ、そんなに量はないから、さっさと片付けて、
友華の部屋に行こう、そう考えていた。
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